教師と生徒の恋模様 | ナノ




21 : 大人の余裕は結構ギリギリ


今日は初めての休日デートだ。さくらが珍しく我が儘を云ったから、少し遠出をして(誰かに見られでもしたら大変だから)水族館に来ていた。さくらは淡い水色のワンピースを着て、薄く化粧をしていた。学校では見られない格好に自然に頬が弛んで口元を片手で押さえた。
『先生こっち!鮫がいますよ!』
「わかったからそんな走んなって」
はしゃぐさくらを見て可愛いな、とも思いながらまだまだ子供だな、とも思った。始終笑顔のさくらが走って鮫が泳いでいる水槽を見詰める。感動したように目をきらきらと輝かせていた。
『凄い…っ!』
「こりゃすげえな」
頭上まである水槽の中で数種類の魚が群れをなして泳いでいる。水槽を美しく見せる為に青いライトが光る。そこで泳ぐ何色かの魚達は幻想的に見えた。思わず口から溜め息が零れる。
『あ!あそこにエイもいますよ!あっちには魚の大群!』
「楽しいか?」
『はい!滅茶苦茶!』
さくらは水槽に顔を近付けたまま数分沈黙を続けた。それからそのままゆっくりと重々しく口を開いた。
『…いきなり我が儘云って連れて来て貰っちゃってすみませんでした』
「いや、それは別にいいけどよォ。お前が我が儘云うことなんて滅多にないし?」
『ちゃんと区切りをつけようと思いまして。受験に合格するまでは先生と一緒にいる機会も減ると思うし、何しろ私自身甘い考えは追い払いたかったので』
そこまでさくらの話を聞いてふと疑問を感じた。さくらの進路の話なんて、俺は聞いたことがあっただろうか?それを感じ取ったさくらは漸く顔を此方に向けた。その瞳は、どこか必死に訴えているような気がした。
『私、高校で英語の先生になりたいんです。銀八先生を見ていてずっと思ってました。生徒に親身になって接してあげられる、銀八先生のような先生になりたい…っ!そしていつか、銀魂高校で先生をしたい!…その為には今まで以上の勉強が必要なんです。本当は先生と一緒にいたい、近くにいたい。だけど私はきっとそれにすがってしまう。だから、私が先生になるまで待っていて欲しい。いつになるかわからないし、時間が掛かるかもしれない。だけど必ず先生と同じ土俵に立てるようになります。私が先生と同じ立場になったとき…私は先生の恋人だと云うことを胸を張って云ってもいいでしょうか?』
さくらの肩を力一杯掴んで自分の胸にさくらの頭をあてる。
「ももこ…」
『せん、せ』
熱い熱を持ったさくらの瞳が俺を捕らえて放さない。そのまま顔がゆっくりと近付いて―――…。
「わ、わり!」
もう少しで唇が触れる、というところで自分が何をしているのかわかった。慌てて顔を離してさくらの身体を放した。

大人の余裕は結構ギリギリ
(さくらが頑張るって云うんなら俺はそれを見守る)

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