12 : ひそかなエコヒイキ 久し振りにこんなに全力失踪したと思う。しかも女のケツ追っ掛けて。俺も年なんだよな、だからこんなに息切れもするし膝がガクガクする。ホント、さくらじゃなかったらこんな走んねェぞ。 「待てって!」 『ま、待ちません!放っといて下さい!』 「馬鹿、放っとけるわけねェだろうが」 開いていた距離を縮める為に最後の踏ん張り。一気に距離を縮めてさくらの肩を掴んで強引に此方を向かせた。 恥ずかしそうに眉を潜めて目尻には涙を浮かべて頬は赤く染まっていて…男にとってはなんとも官能的だ。自分がそんなことを考えているのが恥ずかしくなって頭を振った。 『せ、せんせ。放して、』 「放さねェよ」 『あ、あの、さっき云ったことは忘れて下さい。ホントあれは気の迷いというかなんというか間違いで、あの、だから…』 「さっきのって、俺が好きってこと?」 カァアッ、とさくらの顔が真っ赤に染まる。やべ、なんか面白ェ。好きな子程虐めたくなるってやつ?俺がそんな小学生みたいな思考持ってるとは知らなかった。 「まさかお前に云われるとは思わなかったなァ」 『す、すみません』 「別に謝って欲しいわけじゃねェって。だって俺のこと好きなんだろ?」 『あ…』 「俺もお前が卒業するまでは我慢しようと思ってたんだけどなァ」 『そ、れって』 「流石に教師が生徒に手ェ出しちゃ色々まずいだろ?」 さくらの目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭ってやる。さくらは耳まで真っ赤にして俺を見詰めた。 「だけどお前見てたら歯止め効かねェんだよな。お前が笑ってるとこっちまで嬉しくなるしお前が顔赤くすると可愛いって思う。教師っつっても人間なんだよ、俺も。だから好きな奴とくっつきたいと思うのも人間の心理だから仕方ねェんだよ」 『先生、その先生の好きな人って…自惚れじゃなければ―――…』 さくらの言葉にニカッと笑った。 「ももこ」 初めての名前呼び。さくらはそれに気付いたのかわかりやすいくらい肩を揺らした。 「あと一年。あと一年待ってろ。そしたら俺がお前を拐ってやるよ」 『―――…っ!待ってます!何年だって待ってます!ずっとずっと待ってます、から。いつか、私を拐って下さい』 「……あんま可愛いこと云うなよ」 さくらの額に唇を軽く押し付ける。 『せ、んせ』 「これより先はお前が卒業したらな?これ以上やったら歯止め効かなくなっちまいそうだし」 ひそかなエコヒイキ (お前だけ、特別な?) [しおり/戻る] ×
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