「薬研くんいつもありがとね」

冬の時期の水作業はとても大変だ。手は荒れ放題だし水は冷たくてだんだんと感覚がなくなってくる。ボロボロな私の手を心配した薬研くんが手荒れに効く薬を作ってくれて、保湿クリームもプレゼントしてくれた。ほんのりと甘い香りがしていて、使うのが楽しみだと言うと薬研くんは私の手を優しく包み込み、薬を塗ってくれる。本当はこの後食事当番として片付けやお皿洗いがあるのだけれど、代わってやるからと頭をぽんぽんされてしまった。

「薬研くんは優しいね」
「奈月限定でな」
「うぅ……」

薬研くんはキメキメ顔を向けてきて、その素敵な低音ボイスで思わせぶりなことを言ってくる。たまにこうやってからかってきて、その度に私はしどろもどろになるのだ。前言撤回。薬研くんは優しいけれどちょっと意地悪だ。

「……確かこの後は遠征だったよな?」
「うん。亀甲さんとね」

亀甲さんは先々月主様によって鍛刀され、私はそのとき居合わせたため教育係に任命された。主様のことになると興奮したり変な発言したりとちょっとだけおかしくなるけれど、それを抜けば穏やかで優しい。本丸にも慣れてきたようで、得意不得意が分かれる食事当番の調理係も担うようになったし、事務作業も手伝ってくれるようになった。頼れる存在である。今では亀甲さんの方が先輩のようになっているのは気の所為ではないはず。

「……ふぅん」
「?薬研くん?」
「奈月は亀甲の旦那に随分懐いてるんだな」

亀甲さんについて話していたら、だんだんと薬研くんの顔が陰る。どうしたんだろう?とその顔を見つめると、なんでもないと笑ってかわされてしまう。

「これ持っていってくれ」
「お守り?もしかしてこれ手作り?」
「弟たちが縁のある刀に渡すって言うから一緒に作っんだ」
「私がもらっちゃって良いの?」
「ああ。奈月のために……奈月のことを思って作ったからな。少し不格好だが、そこは見逃してくれ」
「……ありがとう」

長谷部さんとか宗三さんとか、薬研くんと縁のある刀は色々といるだろうに。ただの仲良しというだけの私に作ってくれたと知って嬉しくなり、胸のあたりがポカポカと温かくなるのを感じた。大切にするね、とぎゅっと握りながら薬研くんに言えば、優しい笑みを向けられた。



「おや?それはお守りかな?」
「薬研くんがくれたんです」
「そっか。彼は君のこと大切に思っているみたいだからね。彼に警戒されて何回睨まれたことか」
「睨む?薬研くんはたまに意地悪ですけど基本優しいですよ?」
「それは君だからだよ。あの突き刺すような視線、君にも見せたいよ」
「??」
「君は鈍感みたいだし、彼も苦労するね」



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