どうしようもなく、限界だった。こんなにも苦しくて苦しくて仕方がなかったことなんて、いつ以来だろうか?思い出せないし、脳が思考することを拒否している。ダメだ、他のことを考えられない。私の頭の中をぐるぐるとずっと巡るのは、目つきの悪い無愛想な表情と、色素の薄い髪に切り揃えられた前髪。薄い唇が感情と共に綺麗に弧を描く。男の人なのにしなやかな指先や耳に残る甘ったるい声。
出会ったころの不安定に見え隠れする子供らしさは消えさって、今はすっかり男の人になった。まっすぐな背筋にまっすぐな視線。その視線に絡んでいるのが私だと思ったらどうしようもなく身体の熱は上がった。

日吉くん日吉くん日吉くん!

私の頭を巡るのはあなたのことばかりなんです、もう、堪えられないんです。会いたい。


「って、素直に言うたらえぇやん」

「言ってるよ、今回は」


大学構内で偶然ばったり出会った忍足くんと、カフェテリアでお茶をしている。全く、なんで忍足くんとは会うのに日吉くんとは会えないんだろうか。医学部と私の通う学部の棟がこんなにも近いのがいけないのだ。大体、医学部って忙しいんじゃないのか。別の医学部の友人なんか、毎日毎日講義から講義へと走り回っている日々だというのに。忍足くんは一年のころからこうして変わらずのらりくらりとしている。
中等部の頃に外部生として氷帝にやってきた彼とは、何故かなにかと縁があって、あんなに生徒数の多いとこの6年間で、何度も同じクラスになったりとしていたし。大学生になってからも1番よく話すのは彼かもしれない。だから私と日吉くんの仲を1番理解してくれるのも彼なんだけど。
私にとっての死活問題でもある日吉くん不足を、彼はさもどうってことなさそうに受け流す。ちくしょう。イケメン医学部生め。…八つ当たりだ。


「確か、前にもこんなこと、あったなぁ」

「うん、日吉くんと高校と大学で離れちゃったときだよね」


丁度1年前じゃないか。毎年毎年こうして騒いでしまって忍足くんには申し訳ないなぁ。
でも、そのときとは状況が違うのだ。確かに日吉くんがまだ高校で、私が一足先に大学に行った時は、物理的な距離の違いもあったし、日吉くんが最後の部活で部長として頑張っているから会う時間がなかったって会えないのが仕方ない状況だった。
でも、今は違う。
お互い電話もしてるし、メールもしている。同じキャンパス内にいる。会いたいって、お互いに思っている、のに!
すれ違う、すれ違うのだ!もとから氷帝に通うのに私の自宅からは少し不便で遠かった。それでも氷帝に行きたかったから幼稚舎から通ってはいたけど。でも、大学のキャンパスは幼稚舎から高等部よりもさらに多くの外部生を招くために、ひとつ離れた場所に立地していた。学部によってはキャンパスも違ったりする。日吉くんとは幸い、同じキャンパスの、はずなのに、会えないけど…。
自宅から大学部への通学はしんどいものがあるので、私は一人暮らしを画策していて、大学に入ってからアルバイトをしていた。流石に私立である氷帝にずっと通わせ続けてくれている親に全て頼むのは申し訳なくて、ある程度貯金が貯まったら一人暮らしする旨を伝えようと思っている。実は、そろそろその時なんだけど。

アルバイトをするために働いていると、自然と私の時間は削られるし。日吉くんは日吉くんで、大学一年の一限から入りっぱなしのカリキュラムにてんやわんやだ。家が遠いし夜にバイトをしてれば私は一限の時間には間に合わないし…。講義室も医学部の忍足くんとは何故かよくニアミスするくせに、日吉くんとはかすりもしない。キャンパス内で日吉くんの姿をみかけたことが、ほぼない…。

一日一回くらいは、すこしの間の時間は会える。でも、それじゃあ足りない。むしろ、近くにいるのに会えないことがもどかしい。日吉くん。

コーヒーはすっかり冷めている。カフェの白いテーブルに突っ伏してしまった私に、忍足くんは苦笑。


「ほんま、重症やんなぁ」


そうです、重症なんです。

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