「頭が痛いの、ものすごく、ものすごくよ」



彼女は涙ながらに言った。それは絶望的な痛みだと言った。彼女の白い腕は俺の腰に縋り付く。薄くて彼女には幾分か大きいTシャツから透ける背骨のコツコツとした表情を見て、俺の目は自然と細められた。猫のように軟らかな線を描く背骨だ。彼女の躯のなかでそれは飛び切り美しかった。



「頭なんか痛くないだろ」

「ううん、痛いの、本当よ」

「違うよ、それは君がそういえば俺がどこにも行けないって知っているからそう言うんだ」



違う違うと頭を振る彼女。窓の外の光は失われた。どうやら雲が出てきたみたいだ。空気は喉に纏わり付いた。きっと雨が降るだろう。
俺は溜息をひとつつく。そうすると彼女の躯は酷く強張った。



「ねぇ、君は俺がいなくちゃ本当になにもできないね。ねぇ」



背骨に沿って背中を撫で上げた。彼女はびくりと躯を揺らした。Tシャツの裾から手を忍ばせて何度も撫でた。シャツは捲れて肌が露わになる。美しい背骨だ。顔を上げてごらん、俺が言えば彼女は直ぐに従った。それはとても簡単に。髪の毛を避けて、彼女の耳を露出させた。そこに唇を寄せる、そっとそっと。



「君は俺がいなくちゃなんにもできないよねえ。きっとどんどん酷くなる。そのうち、君は俺がいなくちゃ息の仕方すら忘れてしまうよ。ねえ、それでいいの、君は俺がいなくちゃ生きられなくなるんだよ。君はそんな生き方で幸せなわけ。君がこれからどうなるかだって俺次第なんだよ。簡単なんだ。ねえ、どうしてこうなったかわかる?」



どうしてこうなったか、わかる?赤く色づいた耳をなめた。彼女はふるふると躯を震わせながら俺の首に必死でしがみついた。彼女は耳が弱いんだ。
教えてあげようか、囁いてもきっと今の彼女には何も聞こえやしないし何も理解できやしない。



「そういう風に、俺がしたんだ」



ああ、雨が降り出した。それでも君の手は僕を求める。
俺は小さく笑った。




背骨、スポイル、午後に降る雨
(君はもう飛べやしない)


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