※女の子猫耳化




いやいやまてまておかしい。俺は目の前の現実を受け入れられないでいた。だってそれは有り得ないことておかしいことだったからだ。きっとどこかでコンタクトを落としたんだ、だからきっとこんなものが見えてしまったんだ。あーちくしょうコンタクトないとなにも見えないぜ。しかも、ここは俺の家じゃなけ名前さんの家だからコンタクトを取りに一回家まで帰らなくちゃいけない、ちくしょう面倒だ。いや、確か眼鏡が鞄に入っていたな、それがあれば大丈夫だ。一件落着だ、なんてそんな目の前の現実から逃避する思考を巡らせてみたが、コンタクトは外れていないことは自分が一番よくわかっていた。つまりは俺は、ガンガンによく見えているわけだ。この、ベットで苦しそうに眠る名前さんの、その頭部に、生えている猫耳だってきちんと。
何度瞬きしてもそれは変わらない。名前さんに、猫耳が生えている。


「…ひよ」


苦しそうに息をする名前さんが俺を呼んだ。待て、深呼吸だ、落ち着け、俺。一度目を逸らして呼吸を整える。落ち着け落ち着けと自制心に言い聞かせながらベッドの中の名前さんをもう一度みた。だが、しかし現状は変わらない、名前さんの頭に猫耳。「名前さん…」俺の呼びかけにピクピクと動いて反応する。…なんなんだこれ!


冷静に今置かれている状況を振り返る。今日、朝名前さんから電話があったんだ。休日のこんな時間に名前さんから連絡があるなんて珍しいな、だってあの人は学校とかなければお昼近くまで眠り続ける人だったから。

「もしもし」

「…ひよ…げほっ」

「…名前さん、ですか」

「…死んじゃう」

「…風邪ですか」

「うん」

「熱は」

「あります」
「…行きます、待っててください」

どうやら名前さんは体調を崩してしまったようで。そして家族の皆が出掛けしまってから自分の状態に気がついたみたいで、俺を頼って電話をしたようだった。…普段俺に弱いところを見せたがらない名前さんが頼ってくるなんて…、風邪菌グッジョブだぜ。とか苦しんでる名前さんに不謹慎なことを思ってしまった。
心配な気持ちと嬉しい気持ちがないまぜになった俺は、急いで彼女の家に向かった。途中で果物やゼリーを買うことも忘れずに。


そして、彼女の家に来てみればこの有様だ。名前さんの部屋、ベッドから起き上がりことすら出来ない彼女のもとへ近づいて、言葉が出ない。
体調不良は深刻なようで呼吸は苦しいのか息遣いが荒い。頬は赤らんで、目は熱に浮されて涙ぐんでいた。「…ひよ、ごめんね」絞り出された声は掠れて熱っぽい。
そこまでは全然いい。普通の風邪の症状だろう。…凄く煽情的なのは、我慢する。俺には武術の心得がある。こんなことでは心惑わされない、…多分。だがしかし、なんだこれは。彼女の異変に俺はすぐに気がついた。熱に浮された彼女の、頭の猫耳に。これは違う、風邪の症状ではない。断じて違う。名前さんの艶やかな髪の毛の色と同じ毛色ピンとした耳。風邪に猫耳が生えるなんてそんな症状、聞いたことない!


「…ひよ、どうしたの」

「どうしたもこうしたも、アンタそれ、どうしたんだ!」

「…、な、なにが?」


これはあれだ、きっとよくある猫耳付きカチューシャとかなんだろ?俺の目はごまかせないぜ。多分名前さんは風邪の苦しさと一人きりの心細さで精神が錯乱してしまい、思わず猫耳カチューシャをつけてしまったんだな、そうに違いない。全くかわいいじゃないか名前さん!だが俺を惑わそうとしたって無駄だ。名前さんが苦しんでいる今、彼氏という立場であり、頼ってきた彼女の為にも看病しなければいけないのだ。
取り敢えず、こんな状態の名前さんに耳がついてるなんて、目にも精神衛生的にも悪いので早く外すさねば。看病はおろか直視すらできない。不安そうな目で俺を見上げる彼女の、おでこに触れた。予想以上に熱い。


「ん…ひよの手、気持ちい」

「熱測りましたか」

「…うん、38度」

「それでこんな耳を…そんなに錯乱して」

「…みみ?」


大きな目が不思議そうに俺をみた。猫耳も、なぜかぴくっと動いたような気がする。最近のカチューシャは高性能だ。ほら、いい加減それ外しましょう。おでこから手を滑らせて猫耳に手をかけた。

…な、生暖かい。それに、感触が本当に猫の耳のそれと同じで。耳の生え際がきちんと名前さんの頭部にくっついている。え、ほ、本物、なのか。
それよりも、なによりも、猫耳を触った瞬間に、名前さんの口から「っひゃん」て声が。え、嘘だろ。


「…え、名前さん」

「や、だめ、ひよ、」

「…っ!」

「…そこ、だめぇ」


自分で顔がかぁって熱くなったのが分かった。名前さんの猫耳からパッと手を引く。な、なんなんだよ、今の。触った名前さんの右猫耳(?)がヒクヒクしている。しかも声、なんだか、あの時のことを思い出させるような。心臓がバクバクと鳴っている。


「名前さん、アンタ本当に、その耳」

「わかんない、わ、わたし、どうしちゃったの」

「気づいてないのか」

「わかし…」


軽く眩暈がする。ついていけない。風邪を引いたと呼ばれてきてみれば、確かに具合の悪そうな名前さん。しかし猫耳、そして無自覚。どういうことなんだ!戸惑いで動けなくなってしまった俺。ベッドの上の名前さんはぼんやりとした目をしながらも、だるそうに言うことを聞かない体を動かして起き上がった。のは、いいが、力が入らないのら上半身がふらりと斜めに倒れそうに揺らぐ。


「ちょ、大丈夫ですか」


慌てて彼女の体を支えた。ぐったりとうなだれた名前さんの頭部がちょうど目の前にきた。…やはり、髪の毛の中にきちんと猫耳が生えている。内側が柔らかなうすピンク色をしてる。もたれかかってきたら猫耳が頬に擦れる。毛が、くすぐったい。彼女の頭を撫でて、耳には触れないで付け根あたりを指で擽ってやったらもどかしいのか名前さんの体がよじれた。耳も小刻みに震えて反応してる。…やばいやばいやばい。なんなんだこの気持ち。むらむらするともなんか違う、な。むずむずする、か弱い小動物を手のうちに入れて、これからどうするかもなにをするかも全て俺次第、そんな支配欲をくすぐられる感じだ。さらに守ってやりたいなんて庇護欲までも刺激されてる。意地悪して泣かせて俺の手で慰めたいだなんて、そんな矛盾したことをしたい。名前さんは辛そうに息をしているのに、俺の好きにしてしまいたい。が、がんばれ俺の理性。

起き上がってめくれた布団の隙間から見えた、彼女のパジャマのズボン。それにふと違和感を覚えた。いや、まさか、まさかとは思いながらも、ズボンに手を突っ込んで尻を直に触って、絶句。ズボンの中に隠れていたそれは、耳と同じ色の、ふわふわな毛をした、尻尾。尻尾が、尾骨のあたりから生えてる。これも作りものなんかじゃない。

思わず根本の部分を握ってしまったら、腕の中の名前さんの体がビクッと震えた。まさか、これもか。


「名前さん…」

「わか、や、擦っちゃ、」


手の中で親指で上下に擦ってみたら、やはりこの反応。尻尾は名前さんの感情に合わせてゆらゆら揺れる。い、いたずらしてぇ…、ちくしょう…!
どうやら、この現れた耳や尻尾は、とても敏感らしい。なんでこんな絶好の機会に名前さんは具合が悪いんだ。元気だったら、名前さんが元気だったらこれを使って色んなことができただろうに。だが、俺は良識ある日本男子だ。忍足さんや跡部さんみたいな鬼畜じゃない。名前さんが苦しいなら教養はしない、俺には理性がある。落ち着け、俺、落ち着け。


「…若」


突然、名前さんの腕が俺の首に回って、弱々しいながらも抱きしめられた。そして、唇が重ねられる。な、なんだ…!


「ちょ、名前さん!」

「わか、わか」


熱っぽい目で、必死に俺の唇を求めて何度も重なる。驚いてキスに応じない俺をみてじれったく思った名前さんは、俺の唇をペロペロと子猫のように舐めてきた。くすぐったくて思わず緩んだ隙に、彼女の舌が口の中に侵入してくる。うわ、舌、熱い。風邪の熱と、あと情欲の熱。小さな舌が俺の舌に絡もうと一生懸命に動いてる。お世辞にも巧いとはいえないが、それなのに俺の熱も上がってきた。自分からキスしてきたのに、苦しくなったのか漏れる声。ああ、やばい、なんだこの生き物、本当にやばい。


「…はぁっ、わかし」

「名前、さん、アンタ、」

「わか、私、おかしい、」

「ちょ、落ち着きましょう、」

「や、わか、お願い」


触って。
吐息がまじった声が、耳もとを掠めた。俺にすがるような腕に、唇が俺を求めて首筋や鎖骨にちゅっちゅと音を立てながらキスしてくる。さらには、微かに震えた指先が俺のシャツのボタンを外しはじめた…!なんだ、発情期か、発情期なのか!普段は絶対にない名前さんの姿。明らかに猫の耳と尻尾の所為だ。だって俺はこんな名前さんみたことない…!外は桜が綺麗に花を咲かせていた。春は、猫が盛るんだよな、確か。そんな冷静な分析だってまともに出来るはずもなく。俺の理性は間もなくガラガラと崩れ落ちる。すいません父さん、俺はまだ鍛練不足です。

俺に抱きついてくる名前さんの体をベッドに押し付けて馬乗りになる。自分で望んで起きながらも怯えたような目がじっと俺をみつめてくる。名前さんを見下ろすこの瞬間、俺の加虐心が酷く煽られる。
手を伸ばして彼女の猫耳に触れた。途端に震える彼女の体。あまりに敏感な反応を示すのが怖いのか、俺の指から逃れようと身体を捻った。そんなんでにげれると思ってるんですか?ますますイジメたくなりますよ。


「アンタが誘ったんだ」


猫耳の方に囁いてやれば、息すらくすぐったいらしい。涙目で俺をみつめてくる名前さん。ニヤリ、俺は自分の口許が歪むのを感じた。











「…て、ことが、あったんです」

「ふーん、名前ちゃんが風邪をひいたら、猫耳と尻尾、ねぇ」


つい先日のことを、滝さんに聞いてもらった。本当はこんなこと言うべきではないことはわかっているのだが、あまりにも不可解だったんだ。あの後…何回か、名前さんを抱いた、後…、彼女はぐったりとして眠ってしまって。体調の優れない名前さんに俺はなんてことをしてしまったんだって、後悔の念に苛まれながらも、買ってきていたミネラルウォーターを飲んだ。これで熱悪化したらどうしようか、とか、なんで体調悪いときに激しくしてしまったんだ…とか頭を抱えた。
だが、しかし、俺が反省していた30分ほどの時間で名前さんは目を覚まし、その時には何事もなかったかのようにケロリとしていた。猫耳と、尻尾は綺麗になくなっていたし、熱も下がっていた。
初めは、あの猫耳や、乱れた名前さんは、俺の質の悪い夢なのかとも思った。しかし、名前さんもきちんとそのことは覚えていて。猫耳は俺と名前さんの記憶だけの存在となってしまった。…猫耳消えたのが、ちょっと残念だとかは、置いておいて。

内容が内容なだけに誰にも言うことはできず、医者にも見せるわけにもいかず。あの耳も夢だったかのように消えてしまったのでどうしようもない。本当なら医者の息子である忍足さんに聞くのが道理なのかもしれないが、なんとなく嫌だったので滝さんに。

滝さんは笑顔で俺の話を聞いてくれた。あの急な体調不良と、耳と尻尾。あれはなんだったのか。今はケロっとしているが、名前さんは大丈夫なのか。後々に悪い影響はないねかという心配。俺の口下手の説明にも終始笑顔。
それにしても、滝さんは風邪をひいているわけでもなければ花粉症でもないのにマスクをしていた。マスクをしているんだが笑顔だとわかるくらいの爽やかな笑顔。


「日吉、それってね」

「滝さん、知ってるんですか!?」

「うん」


流石は滝さんだと思った。あれは一体なんだったんです?俺の質問に滝さんは答える。
どうやら、最近都内で流行っている病気らしい。猫はしかといって、所謂思春期にかかる流行り病で、かかった人には猫耳と尻尾が生えるそうだ。熱は免疫や体質、その時の体調により出たり出なかったりする。猫耳と尻尾は人によって差異はあるが1日から2日ほどでなくなるらしい。


「知らなかった、そんな病気」

「まあ、範囲が少ないし、身体に害はないし、期間が短いからね。話題にはなってないらしいよ」

「かかる年代も限られてますもんね」


どうやら、名前さんに今後悪影響はないらしい。よかった、それだけが救いだ。


「あ、でも、日吉」


そして、いつもの整った笑顔の滝さんから悪魔のような一言。


「その病気、空気感染だからね」




oh,my cat!


…取り敢えず、俺が発症するまえ、潜伏期間内に部活中にこのウイルスをばらまいてやる。


20100407
やってまった/(^O^)\
このあと日吉くんは生えてきた猫耳と尻尾をさんざんいじられることでしょう。
そして広まったこのウイルスで他の人にも耳と尻尾を生やしてみせます。
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