角名



終わった…いや終わらせたの方が正しいか。日付を少し越えてやっと仕事を終えることができた。もう絶対一人分ではない仕事を捌いている私偉くない?なんて自分で自分を褒めなきゃやってられない。ぱきぱきとあちこちで嫌な音を鳴らす身体をぐっと伸ばして歩き出すと、ポケットのスマホが着信を知らせた。

「えっ、倫太郎!?」

電話の相手は最近全然会えていない恋人で、その名前を見ただけでテンションの上がった私はうきうきと電話に出る。その声がしっかり電話の向こうにも伝わったらしく、私の第一声を聞いた倫太郎はくすりと笑った。

『お疲れ。何?思ったより元気そうじゃん』
「元気じゃなかったけど今元気になった!」
『ふふ、どうゆうこと?』
「だって声聞くのも久しぶりでしょ?」
『うん、まぁそうだね』

ふふと笑い混じりに話す彼の声を聞いて、ちょっぴり身体が軽くなったような気がする。そういえば今どこ?職場は出た?なんて聞かれて答えようとしたら、途端にスマホがすん…と静かになって、何事かと思って画面を見ると、バッテリーのマークがちかちかと点滅して、やがて消えた。
……え!?うそ!このタイミングで!?

「ええぇぇ…………」

すっかり静かになったスマホと向かい合って、がっくりと肩を落とす。せっかく…せっかく声が聞けたのに…。このまま通話しながらお家に帰って、出来ればおやすみって言うまで話して、気持ちよく眠りにつきたかった…。
叶わない望みをつらつらと頭の中に巡らせながら、さっきよりものろのろと帰路を辿っていく。帰ってスマホを充電したら、倫太郎にごめん、充電切れちゃったって連絡しなきゃ。あと、晩ごはんも何か適当に食べて、あとお風呂…面倒だけど入らずに寝るのはやだ…。とぼとぼと歩いてたら家の最寄りのコンビニが近付いて来て、とりあえずご飯買お…と目を向けると、見覚えのある車が一台だけそこに止まっていて、そこに寄りかかって佇む彼が居たから、私は驚いて足を止めた。

「……お、良かった。そろそろ来ると思ったんだよね」

ひらりと手を振った倫太郎は、突っ立ったままの私のところまで歩いて来て、お疲れ様。って両手を広げた。いつもは、人居るからって外ではあんまり手も繋がないのに、良いの…?って見上げたら、今人居ないし、って手を引かれたから、遠慮なくその胸に飛び込んだ。

「…っ、りんたろ、」
「はいはい、頑張ったね。お疲れ」

ぎゅっと彼のコートを握りしめて、深呼吸。彼の匂いを目一杯吸い込んで、温かい胸に顔を埋めて、背中に回る腕が力強くて、あぁ、今ここに倫太郎が居るって実感できて涙が出る。

「…ほんとは、疲れてるだろうし、顔見たら帰ろうと思ってたけど…もう少し一緒に居ようか」

せっかくお前の誕生日だしね。と言われて、私は漸くそれを思い出した。









お誕生日おめでとう!




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