木兎



「たぁのもお〜!」

ばぁん!と開いた部屋の扉にびっくりして、持っていたスマホを危うく落とす所だった。うるさい。ドア壊れる。そもそもノックしなさいよ。なんていろいろな文句を詰め込んでじとりと睨んでみてもこの男には効かないから、きらきらと瞳を輝かせて私に駆け寄ってくる光太郎を、ため息一つで許して迎え入れた。

「なあなあ!もみじがり行こ!」
「……へ?」

光太郎の口から出た言葉が、紅葉狩りであると認識するのに数秒を要した。その間に私の手を取った光太郎は、早く早くと私を急かす。…って、え!?今から!?

「今日すっごい綺麗なんだって!一緒に見ようぜ!」

少し頬を染めてにかっと笑みを浮かべるその表情を見たらもちろん断る選択肢なんてなくて、せめて支度する時間はちょうだいよ、ってつんつんした髪を撫でた。




「………もみじって美味い?」
「………紅葉狩りって紅葉を眺めて楽しむことだからね?」

え…?そうなの…?としょんぼりする光太郎は、どうやら紅葉狩りをイチゴ狩りやりんご狩りと同じようなものと認識していたらしい。しょん…と下がる眉が可愛くてくすくす笑って、でもせっかくなら一緒に楽しみたいから、私は鮮やかな赤色の合間に見えた幟を示した。

「もみじは食べられないけど、美味しそうなお団子は売ってるみたいね」
「…!団子!」

行こう!とぐいぐい私の手を引く光太郎はすっかりご機嫌で、お店にたどり着いてお目当てのみたらし団子がやってくる頃には、なんだか聞いたことのある鼻唄まで歌っていた。

「花より団子…」
「……?花は咲いてなかったぞ…?」

もっちゅもっちゅとお団子を頬張る光太郎にスマホのカメラを向けて、背景の紅葉と一緒に画面に収めたんだけど、どうしてもその膨らんだ頬の存在感が強い。まぁこれも可愛くて良いかと保存して私もお団子を頬張ると、あまじょっぱいみたらしのタレともちもちのお団子が最高の組み合わせで、思わずむふふと頬と口元がゆるんだ。

「美味しい〜!」
「な!」

ふふ、と光太郎と二人で笑い合って、それからのんびり紅葉を眺めて、また秋色のトンネルを二人で進んでいく。一際奥まった色の濃い所に到着すると、光太郎はくるりと振り返ってわさわさと足元の落ち葉を集め始めた。

「光太郎…?何するの?」
「ふふーん。見てのお楽しみ!」

赤、黄、オレンジの鮮やかな葉を集めた光太郎は、にまりと笑みを浮かべると両手いっぱいのそれを高く高く放り投げた。はらはらと舞い落ちるそれは陽光を浴びてきらきらと輝いていて、ほぅ…とそれを見上げる私の名前を大声で呼んだ光太郎は、紅葉たちに負けない輝く笑顔を浮かべていた。

「誕生日おめでとう!これからもずっーと、俺にお祝いさせて!」

両手を広げた光太郎の胸に、私は紅葉と一緒に飛び込んだ。









お誕生日おめでとう



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