角名



こくり、こくり、かくん。
睡魔に負けそうになって頭がゆれる。その衝撃で目が覚めて、ふぉ、だかふぁ、だか間抜けな声がもれたから、電話越しの倫太郎がくつくつと喉を鳴らした。

「……なによ」
『いや、もうすぐにでも寝そうだなと思って』
「…だって眠いもん」

時計の針はあとちょっとで真上を向く頃で、いつもはもう少し夜更かしするんだけど、今日は何故かとても眠い。倫太郎が電話して来なければとっくに夢の中に居たはずで、でも倫太郎が寝ないで。電話の相手して。って言うから、私は眠い目を擦りながら通話を繋いでいる。


「っていうか、倫太郎から電話してきたのに全然喋らないじゃん。何か用があったんじゃないの?」
『……用もなく彼女に電話しちゃいけねぇの?』
「………いけ、なくない、デス…」

……普段はドライなくせに、時々こうやって恋人扱いしてくるから、私はいつも不意を突かれる。頬を染めてふてくされた私を見透かすようにまたくすりと笑った倫太郎は、もう少し頑張って起きててと告げて、そこで私ははじめて、倫太郎の声と一緒に風の音が聞こえることに気付いた。

「…ねぇ倫太郎、今外にいるの?」
『…うん。もう着くから』
「えっ?」

ぴんぽーん。聞きなれたインターホンの音がしてはっと顔をあげる。え?え?と困惑する私に倫太郎が、早く開けてよ寒ぃって急かすから、とりあえず慌てて玄関へ向かった。…もう眠気なんてどこかへ行っちゃった。

「はぁ、もう夜は寒いね」
「りん、たろ…」
「とりあえず中入れてくれる?」

ポケットに手を入れて身を縮こまらせた倫太郎は、するりと扉の隙間から入ってきて、私をぎゅうぎゅうと抱き締めた。はぁ〜って息を吐いて、私で暖を取ってるのか、首筋に触れる頬はひんやりとしている。

「もう、こんな遅くにどうしたの?」
「ん?ちょっとね」
「ちょっと…?」
「………あ、誕生日おめでとう」

そっと身体を離して私の顔を覗き込んだ倫太郎は、額に口付けを落としてそう言った。へ?と呆ける私にスマホの画面を見せた倫太郎。そこには確かに私の誕生日と、たった今日付が変わったからかゼロが三つ並んでいる。

……倫太郎、わざわざおめでとうを言うためだけに来てくれたの?

見上げた私の言いたい事が伝わったのか、にっと口角をあげた倫太郎は、今年は絶対一番に言いたかったからって、冷たくなった額を私のおでこにくっ付けた。







お誕生日おめでとう



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