「ただいま…」

こそりと玄関をあけて、そっと靴を脱いでリビングへ進む。日付の変わる直前にもなれば朝の早い治はもう寝ていて、なるべく物音をたてないようにキッチンの電気だけをつけた。
眠い。疲れた。お腹空いた。今すぐ寝たいけれどお腹に何か入れないと多分寝れない…。がさがさと戸棚を漁ると、買い置きしているカップ麺はあった。

「この時間にラーメン…まぁいいか。」

カロリー云々より手早く楽に食べることが最優先。さっさとケトルでお湯を沸かして注いで、地味に長い3分を待つ。…あ、今のうちにメイク落とそうかな…と顔をあげると、肩の上から2本の腕が伸びてきてぎゅ、と抱き締められた。

「…ひとりでええモン食おうとしとる…」
「起きてきて第一声がそれなん…?」

くすりと笑いながら振り返れば、とろんと半分閉じた目の治が居て、そんなに眠たいのにラーメンの匂いで起きてきたのかと思うと可愛くてまた笑ってしまう。

「なに?半分こする?」
「………する。」

素直にこくりと頷いた治の頭をよしよしと撫でて、タイマーを止めて完成したカップ麺を手渡した。多分半分以上食べられちゃうけど、カロリーが気になってたから丁度良い。


「………ん、ちゃうねん。俺ラーメンのために起きてたんやない…。」
「そうなん?」

ずぞぞ…と7割ほどを食べきって目が覚めてきたのか、調理台にラーメンを置いた治はそう言って、またぎゅうぎゅうと私を抱き締めてからすん…と大人しくなる。もしかしてこのまま寝るんじゃないかと思って声をかけようとすると、頭部にすり…と顔を寄せた治がやっぱり眠そうな声で告げた。

「誕生日、おめでと、」
「……あ、」

言われて部屋の時計を見ると、丁度2本の針が真上を向いていた。そうだ、今日は誕生日だった。忙しくて日付の感覚が麻痺していたけれど、治の一言で思い出した。

「もしかして、このためにわざわざ起きてたん?明日も早いのに…」
「明日は臨時休業や」
「えっ、」
「もう店に『大事な妻の誕生日なんで休みます』って張り紙もしてきた」
「え!?」

驚く私にふふんと得意気に笑う治。何その張り紙恥ずかしい…と思いながらもなんだか嬉しくて、
明日…もう今日か、ご馳走いっぱい作ったるからな。っていう楽しそうな声にうん。って頷いた。








お誕生日おめでとう



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