る、さわがしい朝のこと。








am 8:12

パチリと目が覚め、気だるく重い体を動かしベッドから下りると、どこからかいい香りがした。

甘ったるいふわふわとした香りは微かなもので、きっとここから遠くにあるキッチンから漏れ出しているのだろう。
俺はその香りの主を求めて、スペインの家を駆け出す。

キッチンを目指して走っていくとどんどんと強くなる、その甘い香り。
俺の腹の虫はそれに反応するようにぎゅるる、と鳴き声を上げた。




am 8:34

やがて俺はキッチンの扉に辿りついた。無駄に広いこの屋敷はキッチンにたどり着くまでにもかなりの時間がかかる。
俺ははぁはぁ、と荒い息を吐きながら、俺より背が高いドアノブを必死に掴もうとぴょんぴょんと跳ねた。

俺より10センチぐらい高い位置にあるそのドアノブはなかなか届かず、俺はぷく、と頬を膨らませる。

この一枚の壁を抜ければその甘い香りの主に会えるのに。


「カッツォ!」
思わずドア相手に暴言を吐き散らす。
悔しくて、唇を噛みしめ「ちくしょう!」ともう一度俺は飛び跳ねた。


すると、

ガチャリと、上手く手がドアノブに引っ掛かりドアを開けることに成功した。


甘い香りが、ぶわっと俺を包み込んだ。





am 8:46


「や、やったぜこのやろ!」

さすが俺だぜ!と、思わず口元が緩みニヤニヤしながら俺は再び走りだす。


が、


「ちぎっ!」
「ほーらロマーノ、走り回ったらあかんやろ?」

いきなり現れたスペインにひょい、と軽々しく抱き上げられてしまった。
突然のことで俺の心臓はバグバグと音を立てる。

「驚かせんな、このやろー!」
「驚かすつもりはなかったんやけどなぁ。」

ポカポカとスペインの背中を叩くが、それでもスペインは痛がる素振りも見せずあははと笑ってなだめるように頭を撫でた。


「朝から元気やんなぁ。…っていうかロマ今日親分起こさなくってもちゃんと起きれたやん!えらいわー」

「あ、当たり前だろちくしょうめ。お前が起こさなくてもちゃんと起きれるぞ!」


えらいえらいとギュウギュウ抱きしめてくるスペインをうざいと顔をしかめながら、俺はキョロキョロと辺りを見回すと、テーブルの上に沢山のチューロ。あの甘ったるい香りが鼻をつつく。
ほかほかと温かく砂糖が沢山まぶってあって、俺の腹の虫は再び鳴いた。


「スペイン腹減ったぞ、このやろー。
あそこにあるチューロ食っていいか?」

「ん〜?ああ、ええよー。
ロマのために親分張り切ったでー」


好きなだけ食べてええんよー、とスペインはニコニコしながら俺の口にチューロを押し当てる。
なんだか酷く子供扱いされているようで嫌だったけど、俺はがぶりとそれに食らいついた。



「あはは、かわええなぁ。」


am 8時57分、
目が覚めてから45分後までのことだ。










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0529










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