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ユフィの発言に、先程までのしめっぽい雰囲気は一転し、いつも通りの笑いさえ起こっていた。一見して場の雰囲気を読めていないような彼女の発言は、時として皆を冷静にし、過度に緊迫した空気を緩和させてもいるようだった。

「ねえイリス、パイロットどんなやつ……?」

「パイロットさん?」

「揺らさないでくれたら……後でユフィちゃんがサインしたげるって、言っといて……」

こんな時でも軽口を叩くことはやめないらしい彼女に呆れながらも、イリスは甲斐甲斐しく介抱をしている。

ある意味懐かしさすら感じさせる光景に、一定の距離を保って佇んでいた皆は、再びコックピットの中央に集まり始めていた。

「俺達もいつも通り、肩の力を抜いた方がいいのかもな」

「そうね、私もそう思う」

セフィロスを追うという共通の目的を持つことで仲間に加わり、この旅を続けてきた。そしてこの長い旅も、セフィロスとの闘いで終わりを告げるのかもしれない。その結末は自分達の手にかかっているのだと、これまでにない程の緊張感が皆の胸に広がっていた。

その無意識下での緊張に気付き、冷静さを取り戻したことで、クラウドは目を細めてそう言った。必要以上に自分達を追い込むのはやめようと、彼は珍しくやわらかな表情をしていた。

「シド、この飛空艇ごと大空洞の中まで行けるか?」

「あ〜ん? 俺様の弟子がパイロットなんだぜ? どこだって行けるに決まってんじゃねえか!」

「そうだったな、頼む」

目的地を、北の大空洞から改め、大空洞の内部へと変更し、シドは意気揚々と操縦席に指示を出した。やや速度を上げた飛空艇に、今は爽快感すら覚える。

「くっそ〜……オッサンの弟子かよ、」

またシドを睨むようにして見たユフィを、珍しくイリスが窘めている。まるで平和な世界を生きているかのような時間の流れに、皆も思わず目を細めていた。



「……」

「ケット・シー」

「……」

「おい、ケット・シー!」

「んな!」

皆で以前のような和やかさを取り戻していたところへ、ケット・シーはまた一人落ち着かない様子で無線機をいじっていた。何度か彼の傍受に助けられたこともあり、無線機に集中して落ち着きを失くしている彼を見ていると、どこか悪い予感がよぎる。

「今度はどうしたんだ、また何かあったのか?」

ウェポンが到来し、ミッドガルが破壊され、これ以上悪いことが続くのはごめんだというように、クラウドは彼に声を掛けた。

「クラウドはん、ちょっと黙っとってください! おい、スカーレット、ハイデッカー、どうなってる!?」

返事をしている暇もないというようにあしらわれ、そうかと思えば、彼にしては聞きなれない口調で無線機に向かって声を上げている。珍しく語気を強める彼に、全員の視線が集まる。

「──わからねえ、社長と連絡が取れない!──」

「社長やない! シスター・レイの方や!」

「──キャハハ! なんだいリーブ、おかしな言葉を遣うねぇ?──」

彼が無線機の音量を最大限に上げたことで、初めて向こうの会話が聞こえてきた。焦りを隠せていない様子の男性の声と、きいきいと甲高く笑う女性の声が響く。

「そんなこと今はどっちゃでもええ! 魔晄炉の出力が勝手にアップしてんねんて!!」

「──ちょ、ちょっとマズいわよそれ! あと3時間は冷やさないとダメ! リーブ、止めなさい!──」

「それが出来ひん、制御不能になってもうてるんや!」

彼はその小さなぬいぐるみの姿で、片手に無線機を、もう一方の手に別の携帯電話を持ちながら、神羅カンパニーの本社と会話をしていた。話の全体像が掴めないものの、本社で何やら不穏な動きがあったらしいことを察知する。

先程までおかしそうに笑っていた無線機の向こうの女性も、突然慌てふためいていることから、それが緊急事態なのだとも悟る。

「──統括! 何者かが本体操作に切り替えている模様です!──」

「なんやと!?」

「──こちらからは操作できません……!──」

無線機で会話をしていたかと思えば、今度は携帯電話で別の人間と会話をしている。口を挟む余地も与えない彼に、皆は寄ってたかって携帯電話と無線機に耳を近付け、会話を聞き取ろうとしている。

「ハイデッカー! 本体を呼び出してくれ!」

「──どうしてお前が指示するんだ?──」

「せやから細かいことはどうでもええんや!」

携帯電話から「本体操作に切り替えている」ことを聞くなり、今度は無線機に向かって大声で指示を出している。現場も状況把握ができていない様子で、上手く指揮が執れないことに苛立ちを覚えているようでもあった。

「……え? ケット・シー?」

「おいおい、どうなったんだよ!」

中途半端に会話を聞かされたまま、そのぬいぐるみはまるで電池が切れてしまったかのように動かなくなった。無線機と携帯電話を握り締めたまま、その両手はだらりと下げられ、反応を示さない。

何が起きているのか、事態を把握できないまま、焦る気持ちを抑えて彼を取り囲んでいた。



「──クックック……セフィロス、待っていろよ──」

現状がどうなっているのか、その後本社で何が起こっているのか、それを尋ねることもできないまま、皆はケット・シーが再び動き始めるのを待っていた。

そうしていると、そのぬいぐるみが動かなくなってすぐに、手に持っていた無線機から声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある神経質そうな笑い声に、イリスは一歩後退り、ヴィンセントは眉をひそめて不快感を露わにしている。

「──やめろ宝条! キャノン、いや、それどころかミッドガル自体が危ないんだ!──」

無線は神羅カンパニーの本社と繋がったまま、そちらの様子をそのまま流しているようだった。クツクツと笑う声の主に向かって、聞きなれない声が止めに入っている。

「──ミッドガルのひとつやふたつ、安いものだ。そうは思わないかね、リーブくん──」

「──宝条、宝条……!──」

どたばたと走る音や、物がぶつかり合う音が聞こえてくる。本社はただならぬ事態となっているようだったが、その具体的な様子は知る由もない。

「──さあ見せてくれセフィロス……科学を越えてゆけ……お前の存在の前では科学は無力だ、悔しいが認めてやる……その代わり……──」

無線機は、宝条の不気味な独り言を流すばかりで、最後にはあの笑い声を残して通信が途絶えてしまった。

「なに、どうなってるの?」

「宝条がセフィロスに魔晄を送るつもり……なのか?」

またしても行く手を阻む存在が現れたことで、皆の表情は険しくなっていた。そして、目の前のぬいぐるみが再び動き出すことを祈って、円になったまま佇んでいた。


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