閃光
緊張感の漂う飛空艇内に、突如慌ただしさが戻った。ミッドガルを目視できる距離まで近付き、同時にその異様な事態を目の当たりにする。
「あわわわわわ、艦長どうするですか!?」
「く、クラウド! どうするんでい!」
操縦席からクラウドの判断を仰ぐシドには焦りの色が見えたが、それも無理のないことだった。
ミッドガルに向かい、そこでウェポンを迎え討つという作戦を決めたはずだった。しかし目の前ではウェポンが既に上陸し、ミッドガルに向かって前進している。このまま進めば、瞬く間にミッドガルの街に到達してしまう。
「間に合うか……!?」
「間に合うぜ! 間に合うけどよお、本当にいいのか!? このままミッドガルに進んでいいんだな!?」
操縦席では、飛空艇をミッドガル付近まで進めてよいのかと混乱し、コックピットでは、皆がウェポンの動向を固唾を飲んで見ていた。
当初の作戦通りに進めてよいものかと一瞬思案した様子のクラウドだったが、意を決して再度シドに向き直る。
「ああ、頼む。みんな、行くぞ……!」
背負った大剣の柄を握り締め、彼はその巨大なウェポンを睨むように見ていた。
本当にあれほど巨大な生物を倒せるのかという不安を抱きながらも、皆はクラウドの言葉に頷いた。ここまできて逃げるわけにはいかないと、皆も腹を括ったように拳を握り締めた。
「ヤバい、ヤバいでこれは!」
飛空艇が速度を上げてウェポンを追い抜き、ミッドガル上空に到着したと同時に、ケット・シーはまた無線機を片手に大声を上げた。
飛空艇を降りようと準備を始めていた皆は、今度は何事かと彼の方を振り返る。
「クラウドはん、えらいこっちゃ! はようここを離れるんや!!」
「なんだって?」
どたばたと転がるようにしてクラウドに近付いたケット・シーは、いつになく慌てた様子でリーダーを説得している。
「でっかいのが、でぇぇぇっかいのがくるで!!」
要領を得ない彼の言葉が、事態の緊急性を物語っているようでもあった。何を言っているのかと皆が首を捻っていた時、コックピットのガラスに貼り付いていたイリスがミッドガルを指さして声を上げる。
「大砲が、光ってます……!」
「ってことは……」
「キャノンを撃つ気か!?」
神羅カンパニー本社ビルに取り付けられたその大砲に、少しずつ淡い光が宿っているのが見えた。その光は大砲の付け根から先端まで流れるように進み、徐々に一点に集まり始める。
「ミッドガル中の魔晄がキャノン砲に集められてるんだわ……」
「せやから! どえらい衝撃波がくるっちゅうことです!!」
やっと事態を把握した皆は、一斉にシドを振り返った。皆の会話を聞いた彼は、目を丸くするなり、また忙しなく操縦士に指示を出している。
「うわあっ! シド、安全運転、だよ!」
「んなこと言ってる場合かよ!!」
再度混乱に陥った飛空艇は、元来た道を引き返すようにして後方に急発進した。大きく揺れる船内は、まともに立っていることもままならなかった。それでも、皆の視線はその大砲に釘付けになっている。
「来るぞ」
ヴィンセントはイリスを庇うように抱き締めると、来る衝撃に備えてしゃがみ込んだ。
皆も何か掴まるところはないかと右往左往し、彼と同様にしゃがみ込む。それと同時に、その大砲の先端が大きく光った。
「おい、ウェポンもビームぶっ放してやがる!」
「嘘……! どこに向かって撃ってるの!?」
大砲の先端が光り、皆が身構えていたところへ、バレットの焦りの声が飛び込んでくる。
その声につられて窓の外を見れば、ウェポンの身体からも一筋の光線が発射されているのが見えた。
「ミッドガルだ……」
絶望したようなクラウドの声に、バレットは壁を掴んでいた手を離し、ガラス窓に貼り付くようにしてその光景を見ていた。
「マリン!!」
ミッドガルからは、魔晄を最大限に集めた大砲が発射され、ウェポンは、その身体から眩しい光線を発射していた。二つの光線がすれ違い、そしてそのどちらも、目掛けていた的を射抜いた。
二つの巨大な光線が目標に到達したと同時に、辺りには大きな衝撃波が広がった。飛空艇は大きく揺れ、目も開けていられないほどの光に包まれる。轟音が響き、ウェポンの悲鳴が耳をつんざく。
「なんてこった……」
揺れが収まり、視界が再び鮮明になると、またバレットの声が船内に響いた。彼の視線の先には、ウェポンの光線を受け、破壊された神羅ビルが見えた。
がらがらと音を立てて崩れてゆくその光景は、反神羅を掲げていた彼にとって、あまりにあっけなく感じられたのかもしれない。たった一瞬で、その神羅カンパニーの本社ビルは原形を留めないほどに崩れ去っていた。
「それだけじゃない、ウェポンもだ……!」
同じく窓に近付いたレッド]Vは、先程までウェポンが佇んでいた場所を見ながら声を上げた。腹部に巨大な穴を空け、勢いを失ったウェポンが、ゆっくりと後退しているのが見える。
「ウェポンを突き抜けたのね……!」
「待て、魔晄はまだ発射され続けている」
神羅の作戦が功を奏したと、やや安堵の息を溢していたティファに、ヴィンセントの低い声が投げ掛けられる。
彼の言う通り、魔晄を宿したその光線は、ウェポンを貫通しても尚、一直線に進んでいた。
「そうだ! 狙いはセフィロス! 北の果てのクレーターだ!」
クラウドの声に、全員がその光線の先を見つめる。緑色の光を纏ったその光線は、遠く北の果てに見えるクレーターのバリアに向かって直進し続けていた。
そしてついにバリアに到達した光は、再度眩い光を辺りに放ち、皆の視界を奪った。
「……どうなったんだ?」
「バリアが……消えてる……?」
遠くに見えている険しい山は、先ほどまでその頂上を覆っていたバリアを失っていた。どうやら神羅カンパニーの作戦は成功したらしい。
「セフィロスはどうなったんだ?」
「バリアが無くなったなら、あのクレーターの先にもう一回行けるんじゃないかな」
クラウドを始めとする皆は、北の大空洞に目的地を変更するべく話し合いをしているようだった。
そしてその後方では、二度の衝撃と閃光を受け、安全が確保されたと判断したヴィンセントが、その腕の中のイリスをやっと解放していた。
「大空洞へ向かうようだな」
「そうですね……」
「怖いか?」
それは決戦に対する恐怖でもあり、同時にセフィロスと対峙することへの恐怖をも含意していた。やっとこの旅は終着を迎えようとしている。しかしそれは、彼女にとっては残酷な事実であり、向き合わなければならない最大の事実でもあった。
「怖くないです」
未だその手を掴んだままの彼に、彼女はひどく冷静に答えた。怖くない、それは本心でもあり、自分自身に言い聞かせている言葉のようにも感じられる。
「怖くないです。ヴィンセントさんがいるから、セフィロスさんのことはもう怖くないです」
堅い表情をしたままそう言葉を発した彼女は、彼の手を握り返して息を吐き出した。
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