scream

「それで、だ」

イリスの回復を喜び合い、一度和やかになったその場を、リーダーの彼は再び仕切り直した。以前であれば酒だ宴だと言い出していたのかもしれない。しかし、刻一刻と迫るメテオを前に、その余裕はなかった。

「神羅の作戦は失敗に終わった。これからどうするべきか……全部仕切り直しだ」

「悩んじゃうよね……オイラ達にできること、まだあるのかな」

尻尾を垂らしてそう呟いたレッド]Vに、皆も視線を床に移した。あのロケットでさえ傷ひとつ付けられなかったというのに、人間の力がどれだけ通用するのか。

「悩んじゃダメ! 考えるの!」

伏せっていた皆の視線は、声を張り上げたティファに注がれた。両手を握り締めながら、必死で鼓舞しようとしてくれている。

「おう! 姉ちゃんの言う通りだぜ! 悩み始めたらキリがねえ、どんどん悪い方へ落ちてっちまうからな!」

宇宙にいる間、シドはいつも以上に勇敢で、それでいて誇らしげだったと聞いた。それはこの星へ戻ってからも消えることはなかったようで、彼は熱く語り始める。

「俺様はよう、あ〜だこ〜だ考えちまったぜ。宇宙からこの星を見ながらな」

「俺も考えた。宇宙、星、海……。広くて大きくて、俺なんかが動き回っても何も変わらないんじゃないかって」

クラウドは、ロケットの窓から覗いたあの広大な宇宙を思い返しながら、腕を組んでそう言った。その声にはやや諦めの色が浮かんでいる。

「そうなのかもしんねえな。でもよ、俺様が考えたのは違うぜ!」

シドはいつも以上に目を輝かせながら、皆を見渡して言った。その口元には笑みを浮かべて、何かしらの強い意志を抱いているようにも見える。

「でけえでけえと思ってたこの星もよお、宇宙から見ると小せえ小せえ。真っ暗な中にぽっかり浮かんでやがるんだ。心細そうによお。お前らも見ただろ?」

彼もまた、ロケットから見た宇宙を思い返しているようだった。長年行くことを夢見ていた宇宙という場所から、この星を見るということは、彼にとっては非常に感慨深いものがあったに違いない。希望を含ませたような声音に、伏せられていた皆の視線もまた上を向き始めていた。

「うん、オイラ達の星、思ってた以上に小さかった」

「確かに、ちっさいマテリアみたいだったよ」

彼の言葉に、皆も宇宙から見たこの星を思い出していた。どこまでも広がる黒い空間に、ひっそりと浮かんでいるこの星は、とても小さく輝いて見えていた。

「おまけにこの星は今、セフィロスがぶっ壊そうとしてるんだ。だからよ、このか弱い子供みてえな星を誰かが守ってやらなくちゃならねえ」

この壮大な宇宙の前では人間の力など意味をなさないのではないか、というクラウドの言葉に、始めは共感するばかりだった。しかしシドの演説を聞き、その考えが徐々に変わってゆく。

「誰かが守る、それは俺様達じゃねえのか、ってな!」

「シド……なんだか素敵」

「おう! シドさんよう! 俺は感動しちまったぜ!」

彼の言葉を一通り聞き終えた後には、皆の士気は再び高まっていた。いつも文句ばかり垂れていた彼が、これほどまでに熱く星のことを思い、語った言葉は、全員の心に響いたに違いない。

「……」

彼は仲間を一人ずつ見渡し、にっと口角を上げて笑った。そして、彼等の会話に一人入れずにいたイリスを見るなり、彼女に一歩近付く。

「イリスも見てたんだぜ、あの宇宙も、この星も、な!」

「で、も……」

宇宙へ飛び立ってからの記憶は、途中で途絶えてしまっている。そう口を開こうとすれば、シドは、わかっている、と言いたげに手で制した。

「今はちびーっと忘れちまってるかもしれねえ。でもな、ちゃんと見てたんだぜ、その目にしっかりな」

「うん! イリスも見てたよ、ちゃんと見てた」

「アタシらと居たらきっといつか思い出すよ!」

記憶の抜け落ちていることなど物ともしないと、口々に声を掛けられる。それは遠慮やただの気遣いではなく、本心からそう思ってくれているような言葉だった。

ありがとう、と小さく言葉にしながら笑みを浮かべて感謝すれば、皆も笑顔を返してくれる。自分も皆と同じ、この星を守る一員なのだという使命感すら生まれてくる。

「いいじゃねえか!うおおお、やってやるぜ! で、どうするんだ? どうやってメテオからこの星を守りゃいいんだ!?」

「それは………………考え中でぃ」



特に具体的な案があった訳ではなかったようで、考え中だといって頭を掻いたシドに、皆は呆れながら顔を見合わせた。それでも、彼の言葉で再び闘志が芽生えたことに変わりはなかった。

この星を守るという使命を再度心に刻み、これから何をするべきかと話し合いを始めていた。その時、地鳴りのような、或いは地響きのような、聞いたことのない音が辺りに響き渡った。

「な、なに!?」

「なんか聞こえた、よね?」

話は中断され、その音がどこから来るものなのか耳を澄ませる。断続的に聞こえるその音は、どこか叫び声のようなものにも聞こえる。

「これは星の悲鳴……?」

ふと呟いたティファの言葉に、皆ははっと気が付いたように目を見開く。疑問符を浮かべながら発した彼女の発言ではあったが、きっとそうに違いないと、直感的に判断していた。

「そう、そうだよ! 星の悲鳴が聞こえてるんだ」

「なあ、どうして俺達はこれが星の悲鳴だって知ってるんだ……?」

疑問を浮かべつつも、その疑問がとても重要な事実に繋がっているような気がしていた。必死に記憶の糸を手繰り寄せ、この引っ掛かりを解消しようと頭を捻る。

「思い出した、ブーゲンハーゲンさんが教えてくれたからよ!」

「ブーゲンハーゲン……そうか、コスモキャニオンの」

「じっちゃんに会いに行こうよ! きっと何かためになることを教えてくれると思うんだ!」

疑問が解消され、再び目的地が決まったと、シドは早速操縦席へと駆けた。レッド]Vは先程とは打って変わって、尻尾を振りながら嬉しそうに鼻を鳴らしている。

「イリスは会ったことないよね、オイラのじっちゃん」

「うん」

「星のこともだし、ひょっとしたらイリスのことも何か教えてくれるかもしれないよ!」

コスモキャニオンへ訪れたこともなければ、そのブーゲンハーゲンにも会ったことはなかった。しかし、皆の話を聞く限り、非常に博識で知恵に富んだ人物らしい。

「自然主義者かと思ったら機械に囲まれて暮らしてるしよう、変なジイさんだぜ」

「コスモキャニオンの機械類は、ほとんどがガスト博士の贈り物だと聞いた。神羅製の機械に囲まれ、星の不思議に思いを馳せているのだろう」

隣に立つヴィンセントは、遠い記憶を辿るようにしてそう呟いた。そしてこちらに視線を移すと、やわらなか表情で頭を撫でられる。

「あの老人の中では、科学と星とが共に生きている。イリスについても助言を与えてくれるかもしれない」

「はい……!」

自分の身体について、このまま何も知らずにいたい気持ちがなかったと言えば嘘になる。何も知らず、ただその時を待つことも、考えなかった訳ではない。

しかし、彼と約束した「覚悟」を、今こそしっかりと持つべき時なのかもしれない。この期に及んで逃げることは、きっと覚悟を持つという約束を反故にしてしまう。

「早く早く! じっちゃんに会いに行こ!」

喜びコックピットを駆け回るレッド]Vの声と共に、飛空艇はコスモキャニオンへ向けて発進していった。


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