記憶と真実

「さあ、急いでセフィロスを追うぞ!」

四人はクレーターの更に奥深くへ、足早に進んだ。一瞬姿を現したセフィロスに、早く来てみろと言われているような気がしてならない。

「ちょっと待って、何か変よ」

「どうした……うわっ、なんだ!」

奥へと進んでいたとき、突然辺りが眩い光に包まれた。思わず目を閉じ、再び目を開いたそこには、先程までの光景とは全く違う街の風景が広がっていた。

「ここは……ニブルヘイム、ですか?」

「そのようだ。しかし……何故だ?」

「これはセフィロスが創り出した幻覚だ。俺たちを混乱させようとしてるんだろう」

混乱する三人をよそに、クラウドは平然と言ってのける。確かにこんな北の大地にニブルヘイムがあるはずがないのだが、風景があまりにリアルで、本当にそこに居るような錯覚に陥る。

「幻覚だとわかってれば何も怖くない。さっさと通り抜けよう」

そう言って先へ進もうとしたところへ、ニブルヘイムの入り口にセフィロスが現れる。

「セフィロスさん……」

二人の神羅兵と一人の黒髪の男性を連れてやってきたセフィロスは、こちらには目もくれずに何やら話している。

「これは……5年前の……」

何故か突然わなわなと震え始めたティファに、クラウドが駆け寄る。これは5年前のニブルヘイムを見せられているということだろうか。そうだとして、何故ティファがこれほど震えているのか。

「クラウド、これは幻覚なんだから……気にしちゃだめ……」

「ああ、わかってる。大丈夫だ」

見たことのないほど弱々しい彼女の様子に、イリスは不安を覚えた。何か知られたくないことがあるのだろうか。

「わっ」

「今度は何だ」

再び眩い光に包まれたかと思うと、そこには炎に包まれたニブルヘイムの街があった。民家からあちこちの木に至るまで、火柱を上げて燃えている。

幻覚だと言われたが、実際に炎の熱さを肌で感じ、舞い上がった煤にむせてしまう。

「これは5年前、実際にあった風景だ。けど、あの神羅屋敷から出てくるのはきっと俺じゃない」

クラウドの言った通り、炎に包まれた神羅屋敷から出てきたのは、先程見た黒髪の男性だった。彼は燃え盛る街を見て驚き、すぐさま倒れている住人達の救助を始めている。

「セフィロス! お前が言いたいことはわかった! 5年前のニブルヘイムに俺は居なかった、それが言いたいんだろ!」

クラウドは、この光景をどこかで見ているであろうセフィロスに向かって声を張り上げた。

何かに怯えている様子のティファと、それに違和感を覚えるイリスとヴィンセントだったが、クラウドだけはあくまでも平然としていた。或いは、努めて平静を装っているのかもしれない。

「理解してもらえたようだな」

またもや突然に姿を現したセフィロスに、クラウドは敵意を剥き出しにする。

ヴィンセントは咄嗟にイリスを庇うように彼女の前に立ち、彼もまたセフィロスを鋭い目で見ている。

「お前は俺を混乱させたいんだろうが、こんな幻覚を見せられても何とも思わない。俺は覚えてる、あの炎の熱さも、心の痛みも」

「それはどうかな。お前は人形、心など持たない、痛みも感じない。そんなお前の記憶にどれほどの意味がある?」

「なんだと?」

セフィロスが口を開く度に耳を塞ぐティファの様子に、イリスはいよいよ不安が大きくなってきていた。

目の前のヴィンセントのマントを掴むことも出来ず、かといってティファに駆け寄ることも出来ずに、ただセフィロスの話を呆然と聞いていた。

「今見せた世界が真実の過去、幻想を創り出していたのはお前だ、クラウド」

一体どちらの話が本当なのか。いつかクラウドが語った話と、今見せられている光景の、どちらも現実味がありすぎて判断がつかない。

「こんなことをして、何が目的だ?」

「お前には本来の自分を取り戻してもらいたいのだ。そして黒マテリアを再び……」

クツクツと笑うセフィロスに、余裕のなくなりつつある四人は得体の知れない恐怖にのまれそうになっていた。

「それにしても……失敗作だと思われたお前が一番役に立つとは。宝条が知ったら悔しがるだろう」

「宝条? 俺と何の関係がある」

「お前は5年前、ニブルヘイムが炎に包まれた後に宝条によって創り出された。セフィロス・コピー・インコンプリート、ナンバリング無し。それがお前の真実だ」

淡々と話すセフィロスに、クラウドは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに肩を竦めた。しかし一方で、しゃがみこんで耳を塞いでいるティファは、ますます何かに怯えるように肩を震わせている。

やはり彼女は何か知っているのだ。それをクラウドに明かすことなく、隠し通そうとしていたものが今、セフィロスによって明らかにされようとしている。

「宝条に創り出されたなんて嘘に決まってる。ティファは言ってくれただろ、『クラウド久しぶりね』って。その言葉がいつも俺を支えてくれてるんだ」

「まだわからないのか?」

あくまでも話に耳を傾けようとしないクラウドに、セフィロスは炎に包まれながら倒れている一人の男性に近付いた。首から高価な写真機をかけているその男性の懐から、一枚の写真を取り出す。

「ニブルヘイムから山へ向かうとき、写真を撮った。そのときの写真がこれだ」

ひゅん、と音を立てて投げた写真をクラウドは受け取った。そこにはセフィロスと、やや幼いティファ、そして先程見た黒髪の男性の三人が写っていた。

「この写真も偽物なんだろ。俺は覚えてる、5年前俺が16歳のとき、ニブルヘイムに帰って来た。魔晄炉調査が任務だったんだ」

クラウドは自分を記憶を辿るように慎重に話している。イリスもヴィンセントも、彼の言葉を信じようと、聞き逃さないよう耳を傾ける。

「村は全然変わっていなかった。久しぶりに帰って来た俺は……そうだ、母さんに会った。それから一泊してニブル山の魔晄炉へ向かったんだ」

うんうんと頷きながら話すクラウドの言葉に、偽りが含まれているようには到底思えなかった。細かなところまで鮮明に覚えている様子の彼は、やはり本当のことを話しているのではないか。

「俺はその日はりきっていた。何故ならその任務はソルジャー・クラス1stになって初めての仕事で……」

そう思っていた矢先に、彼の目がだんだんと焦りを帯びてきた。眉間に皺を寄せ、なんとか記憶を掘り起こそうとしているようだった。

「ソルジャー・クラス1st? ……俺はいつソルジャーになったんだ? ソルジャーって、どうやってなるんだ……?」

何も思い出せないというより、何の記憶もない、というような表情で、クラウドは頭を抱え込んで地面に膝をついてしまう。

「イリス、ティファを頼む」

「はい!」

イリスはうずくまっているティファの元へ、ヴィンセントは頭を抱え込んでいるクラウドの元へと駆け寄り、なんとか落ち着かせる。

そうしている内に再びセフィロスの姿は消え、ニブルヘイムの風景も見えなくなり、後に残ったのは先程と同じクレーターだった。

光のあまり届かない暗いクレーターの中で、四人は焦りと不安に襲われていた。


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