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08:バニラアイスが溶けるまで (降谷短編)


「全部終わったら迎えに行くから待ってろ」

私の恋人はある日突然そんなことを言い出した。いきなりなんだ。戦争映画なら死亡フラグである。私はそっとおなかを撫でた。ベタな流れだと、残された私のお腹には実は彼の子供がいたのだった・・・という展開になるのだが、残念ながらそんな事実はない。
彼の避妊は完璧である。私よりも私の体調に詳しいし、確実に生理周期その他もろもろ把握されている。表だってそれを言われたわけじゃないが、気の利きすぎる彼の行動を見れば何となくわかった。
そういうの気持ち悪くない?とか友人に言われたこともあるが、気持ち悪いというよりは気恥ずかしい気持ちの方が強い。
話がそれた。

「アイスを食べる手を止めてていいの」
「アイス食べてていい話なのコレ?」

溶けるぞ、なんて当たり前のことを言う。

「別れ話、だよね?」
「待ってろっていったつもりだけど」
「全部終わるまでっていつまで?」
「アイスが溶けるよりもずっと先」
「・・・・やはり遠まわしな別れ文句」
「これにサインするのと、おとなしく待ってるのとどっちがいいんだ」

差し出された一通の紙切れに私は思わずアイスの入ったカップを落としかけた。アイスはどんどん溶けているが、ちっともスプーンは進まない。

「こんいんとどけ?」

夫の欄に彼の名前が書いてある。

「今からすぐに出しに行くのと、待ってるのどっちだ」

口ごもる。結婚なんてまだ考えてなかったからだ。彼のことが嫌いなわけじゃない。大好きだし、付き合ってそれなり立っている。
この人の奥さんになる覚悟、というものが私にはまだないのだ。
私の尻込みを見越していましたとばかりに彼がため息をついた。そんなに呆れなくてもいいのに。私からアイスのカップを奪っていったと思ったら、溶けかけのアイスがのっけられたスプーンをずいと差し出された。

「口開けて」

あーん、しろというのか!私は瞬間湯沸かし器みたいに熱があがった。この人はどうしてこういう恥ずかしいことを、さも当たり前のようにやってくるのか。
正直やめてほしい。心臓がもたない。けれど私のちっぽけな心臓なんて知ったことじゃないとばかりに、彼はスプーンを差し出したまま私をじっと見ている。

「無理やりが好みならそうするけど」

私は素直に口を開けた。するりと、冷たいアイスがすべりこんできた。

「・・・・アイスの甘さが倍加した気がする」
「よかったな」

いいのだろうか。胸焼けしそうだ。

「私が糖尿なったら降谷くんのせいだからね」
「そんなだらしない食生活をさせた覚えはない」

まったくもってその通りなのでぐうの音も出ない。料理は好きだ。嫌いなわけじゃないが、いかんせん相手が悪すぎる。彼の料理はプロか?!と思うほどだし、実は管理栄養士の資格を持っていますといわれても納得の栄養バランスなのだ。
彼と付き合いだしてから少し太った(ごはんがおいしすぎるのが悪い)が、体脂肪とかコレストロール値とかあたりが軒並み改善されていることからも明らかだ。
むしろ私の健康診断結果をもとにした料理をしてそうである。

「俺がいなくても不摂生しないように」
「・・・・」
「返事」
「・・・はい。あのもう一回確認するけど、別れ話じゃないんだよね?」
「ちがう」

またスプーンが差し出される。餌付けされている雛の気分だ。

「こういうのってさ、映画とかだと『待たなくていい(待っててくれ)』的なフレーズだよね」
「何でも対面通りにとる恋人にそんなまどろっこしいことはしない」
「行間くらい読めるよ!」
「へぇ」

せせら笑われた。恋人にする態度かなそれは。
待つか、結婚かの二択ってかなり横暴ではないか。帰ってこなかったらどうするんだ。私が言われた通り待っている間に、かれが素敵なレディと結婚とかしていたら私は・・・・かなりしょんぼりする自信があるぞ。

「余計なこと考えてないで待ってればいいんだよ」
「そうかなぁ」
「そう」
「勝手だなぁ」
「そこがいいくせに」
「自意識過剰!」

そこも好きなところだけれども!
彼は言わずにおいた私の本音もきちんとお見通しだから、得意げである。
そのあともあれこれ約束させられた。

ひとつ、不摂生をしない。
ひとつ、毎日メール連絡をよこせ(ただし返信はしない)
ひとつ、鍵はきちんとかけろ。
ひとつ、髪をきちんと乾かして寝ろ。
ひとつ、男と連絡先を交換するな。
ひとつ、露出の多い服は着るな。

エトセトラエトセトラ。そんなに一度に言われたって覚えれない!と抗議したら「どうせそんなことだろうと思った」と待ってる間の禁止事項一覧がずらずら書かれた小さなノートが差し出された。

「げ」

夏休みの宿題みたいだ、と思わず本音がもれた。
この夏休みはいつ終わるか全くわからないみたいだから、最終日にまとめてやるのは不可能そうだけど。
アイスのカップをデスクにおいて、彼の両手がのびてきた。ぎゅうと抱きしめられて、耳元にかすれた声でささやかれた。

「全部終わったら迎えに行くから待ってろ」と。
二回目の言葉に、私は素直に「うん、いい子で待ってるよ」と答えた。

最後の夜にしたキスは、胸焼けしそうなほど甘いバニラアイスの味だった。




その夜を最後に、私の恋人は消息不明だ。
私の恋人。
――降谷零、職業、警察官。
警察学校の同期だった彼は、いったい今どこで何をしてるんだろうか。

時々全部夢だったんじゃないかと思うことがある。
降谷くんみたいにできた人と付き合ってたのが、にわかに信じがたくなってくる。待ってるとは言ったけど、寂しいときは最後の夜に食べていたアイスを買う。
一人で食べるアイスはなんだかあじけなくて、寂しさも募るが最後のキスは幻じゃなかったと思えるのだ。




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21:降谷さん コナン、降谷さんに攻められる

シリーズ等の指定がなかったので降谷さんで短編にさせていただきました。じつはこれで長編書きたかった・・・・。
あんまり攻め切れていない気もするのですが、楽しんでいただけたら嬉しいです〜!
零の執行人やばすぎて死にました記念に。。。









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