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18:サマータイム・ドリーム (コナン+WT長編)


暑い夏の夜、にぎやかな祭りの喧騒の片隅で道行く人たちを眺めていた。

出張占いもたまにやっている。自分の店が最高にわかりづらい場所にあるという自覚はあったので、実際のところこうして出稼ぎがてら出張占いをして、そのお客さんが気に入ってくれたら店にも足を延ばしてくれる、というのが基本スタイルだ。つまり新規顧客開拓。出張占いのできがその後のお店の売り上げにも関わってくるので気合は十分にはいっている。ぶっちゃけ、ひやかしのお客さんは見つけられない仕組みにしているのも問題かもしれない。こればっかりは、店を開く時に私のうかつさに変な客につけこまれたら大変と親戚の子があれこれと世話を焼いてくれたおかげなのだが、占いなんて最初は冷やかしなのが大半で。あんまりにも仕事がなくなると困るので、こうして自ら客を求めて出て行かざるを得ない。これだと外で変なのにひっかかると困るだろうと思われるだろう。ご安心ください。うちのセキュリティ完璧おぶ完璧です。外で変なのが普通を装って店の場所を知ったとしても、セキュリティは発動します。仕組みは正直分からない、魔法だから。魔法すごい。紅子ちゃんは最強なんだ!(ドヤ顔)
つまり。うちの店にたどりつけたという点において、月影せんせいは怪しくない。何度も来れると言うことは、それだけ占いによる手助けが必要だってことなのだ。
このシステムをイギリスの魔法学校の本を読んで思いついたのを私は知っている。必要の部屋、というやつだ。
どうでもいい、信じてない。それでも月影先生はうちにたどり着く。
助けが、救いが、必要な人。
満たされている人に、占いはそもそも必要ない。心を軽くしてあげるくらいしかできないし、はずれることもあるけれど。占いってのは、心の処方箋みたいなものなのだ。


「あ」

縁日でいつものように、出張占いをしていた。手相占いと、タロット占いだ。暑さに負けそうになりながら、働いていたら見知った顔を見つけて思わず声に出ていた。
月影先生がいた。それも一人ではない。お連れさんは何と女子高生だ。見たことのある制服だった。紅子ちゃんの通う江古田高校じゃない。確かこれは帝丹高校か。


「あれ、知り合いですか?」と女の子はめざとく視線と反応に気が付いて近づいてきた。おっと、隣の人はお怒りですよ。ごめんなさいだって女子高生とデートしてたらさすがに「ひゅー、さっすが先生やるぅ〜」ってなるじゃないですか勘弁してください。

「占いってやってもらったことないんで」と言う女子高生に「君に必要ないだろ」と先生が言う。すぐさまここを離れたいというのがありありと出ている。酷い。もしかしたら女子高生の更なる口コミでうちのお店が大繁盛するかもしれないというのに。

「手相視てわかるもんなんですか?」といそいそと女子高生は私の真向かいのお客様用椅子に腰かけた。月影先生が深い深いため息をつく。
5分で移動するからな、とすげなく言い捨てる。おっと、女子高生のわがままには勝てない月影先生。女子高生さんが手に持っていた林檎飴と綿あめの袋を押し付けられている。

「恋人なかなか厳しいですね」とこっそり女子高生さんに言うと「やだな、いくつ離れてると思ってます?」とざっくり若い子は恐ろしいことを言う。相手にされませんよ、と一応フォローのような言葉をそえているが。

「歳の差カップルひゅ〜って思ったのですが」
「違います」
「おまわりさん案件とかじゃ?」
「ぶはっ」

女子高生が体をくの字におりまげてお腹をかかえて笑った。月影先生の眉間のしわが深くなっていくので大慌てで私は彼女の手をとった。

「んんん?」

何度も見る。これはまた何だろう。厄介な手相だ。これは月影先生ばりである。

「運命の出会いがすぐそこまで来てます」
「運命?へー」

おっと、そのワードは女子高生受けがいいのに、どうにも彼女は半笑いだ。信じてないな。

「でも、そうだな……転機の相が出てるから環境が変わってからかも。今、もしかして高校3年生?」

彼女は頷く。高校三年生。ということは17歳か18歳。改めて聞くと若い。ぴちぴちだ。の割には手相が波乱万丈すぎて怖い。

「新しい環境も選択肢に入れてみるのをおすすめしま、いだぁっ?!」
「余計な入れ知恵をするな」
「占いにそう出てるってだけですよ?!」
「それが余計。五分たった、もう行くぞ」
「ええーもうちょっと。」
「い、く、ぞ」
「やです」

すごい。月影先生が敗北した。女子高生すごい、強い。感心してしまったのが顔に出ていたのか、先生が盛大に舌うちをした。ものすごい形相でにらみつけられたけれど、仕事に関してはすいませんちゃんとやる主義です。嘘つけない。

「新しい環境かぁ〜」

ふむ、と考え込む。もうすこしこの子のこと見てみたいなと思った。最近はだいぶ月影先生のかげきな運命も落ち着きを見せだしているというのに、こんなに親しそうなこの子はまだまだ人生の波乱はこれからやってくるらしい。おかしいな、ここまでの人生も波乱はあったみたいな相をしているのに。最近の女子高生どうなってるんだ。そしてこの子どんな進路を選択しようとしてるっていうんだろうか。
ふと湧いた興味に蓋ができず、もう少し何か手助けできないかなと、トランプを取り出した。丁寧にカードをシャッフルさせていく。扇のように広げた。

「一枚どうぞ」
「お、手相からトランプに。すごいなぁ、なんでもありなんですか」

女の子はカードを一枚抜き取った。出たカードはハートの3だ。

「ラッキーナンバーは『3』かな」
「安直すぎでしょう、それ」と先生がため息をついた。
「占いなんて、割とそんなもんです」

けれど彼女は少し黙って、じっとカードを見つめていた。
元々、トランプのハートは教会の「カップ(聖杯)」のマークだったと言われている。そして安直な意味を拾えば『愛』のカードだ。誰もが追い求めた『聖杯』として意味はほとんど忘れられているけれど、人は『愛』を未だに追い求めているから、本質は変わっていないのかもしれない。

「なるほど……」と彼女は頷いた。そしてニッコリ笑ってから「安心しました」と言った。
ぎゅっと手を握られてしまい、思わずのけぞった。

「これからもどうぞ、『兄』のこと宜しくお願いします」
「誰が兄だ」
「これからもどうぞ、『おじさん』のこと宜しくお願いします」
「……兄だ」

女子高生強い。恋人でも、身内でもない、女子高生と謎の男。怪しさがさく裂している。
ほんと、なんなんだろうなこの二人。
女子高生の携帯がなって、更に月影先生の眉間にしわがよる。どうにも呼び出しだったらしい。呼び出した相手の名前をきくと更に先生は不機嫌に磨きがかかって、そんな先生を前にして女子高生も『あ、やばいな』と思ったのかそそくさと去って行った。

残ったのは私と、先生だ。




「まったく……」

先生は彼女が先ほどまで座っていた席に腰をおろした。

「彼女、いいんですか?」
「保護者がきたから問題ない」

保護者はあんたじゃなかったのかよ、とは思ったが口にはしなかった。

「ええっと、じゃあ、手相でも視ましょうか?」

「喉が渇いた」

ここは喫茶店ではなく出張占い所なんだが。ここで逆らってもどうしようもないのは知っているのでそそくさと私は持ってきていた先生直伝のアイスコーヒーの入った水筒を取り出し紙こっぷにそそいだ。長話になったお客さんに振舞っていたものだ。飲むなり「薄すぎる70点」と酷評された。

「これを客に出してるのか」
「はぁ、すいません」
「まずすぎる」
「まったくもっておっしゃる通りで」
「……いつまでやってるんだ」
「縁日は今日と明日なんで」
「そうか」

何が、そうか、なんだろうか。
翌日、先生は完全なるコーヒーセットを持って現れ、私の横で終始接客をしていた。出張ポアロなんです、という先生は『安室さん』と呼ばれていた。にこやかに接客している『安室さん』は時折呆けたようにぽかんと『安室さん』を眺めてしまっている私の足をこっそりふんだり、見えないところひねったりとやりたい放題である。
そこへ何故か小学生の4人組が現れ、盛大に客引きまでしてくれた。おかげで今年の出張占いは大変に盛況で、しばらくは店にも客が増えるだろう。さらにはポアロで出張占いしませんか、とお誘いまで受けて「梓さんまじ天使」と、差入れがてらお客として来てくれた梓さんの手を握りしめた。「手相見るんでしょう?」と『安室さん』につっこまれたけれど。出張占いはありがたいが辞退して、先生がいれてくれた美味しいコーヒーを一口飲んだ。
メガネをかけた小学生の男の子がこっちを見ていたので「なぁに?」と聞いた。ついでに客足が引けてきたので少しばかり手相もみた。うわー。こないだの子もすごかったのに、この子もすごい。最近の学生ってどうなってるんだ。私が学生というものをやめてからまだ数年しかたっていないはずだが。

「なんでポアロで占いしないの?」
「くつろげないでしょ」と答えた私に、
「誰が?」と聞いてくるあたり、ほんとに小学一年生なんだろうか。

「……えっと、君はたしか、」名前が出てこない。小学一年生5人の名前を一度に名乗られて一回で覚えれるほど賢くない。ごめんよ。

「江戸川コナン。コナンでいいよ」
「コナンくん」

ハーフかな。

「コナン・ドイルからもらったんだ。おねーさん、誰がくつろげないの?」

エスパーかもしれない。ドイル。ドイルか。ドリルじゃないのはわかる。ごめん冗談です。名探偵のやつですね。けどそれそんな一般常識でしたっけ。

「せんせいが」
「せんせい?」

あだなだよ、と教えた。『安室さん』と彼らが呼ぶ人の。

「そっか」

と、メガネの小学生、コナン君はニコリと笑った。

「おいコナンっ、ずりーぞー俺達だって占師のねーちゃんに見てもらってねーのに」
「そうだよぉっ、歩美たちも〜」
「順番ですよコナンくん」

おしかけたちびっこたちに「しゃーねーなぁ」とコナン君が席をゆずった。

「コナンの手相はどうだったんだよ〜」
「デンジャラスな手相だったかなー。あのさ、コナンくん、」
「なぁに?」

無邪気な笑顔でこくびをかしげる。くそ、可愛い。お持ち帰りしたい。いやしないけど。それくらい可愛いし、可愛いのを知っている。知ったうえでのあざとい笑みだとわかるけれど、それでも大人は癒しを求めてしまうのです。

「ラッキーカラーは赤で、ラッキーナンバーは『0』だよ」

占った結果を伝えたら、コナン君だけじゃなくてその横にいた月影先生も何とも言えない顔になっていた。いや、私の占い結構あたるんだけどな。





***




翌年も私は同じように縁日に出張占いを出した。
隣には、最初から先生がいた。出先ついでに寄ります、と言ってくれていた風見さんが見えて手を振ったのに、隣に先生がいたのに気付いたとたん周り右して去っていたのが哀しい。風見さんはストレスフルな職場の癒しを求めているだけなのに。

「部下いじめすぎるのよくないですよ――『降谷さん』」

「いじめ?しつけだろ」

しつけれているのは風見さんだけでなく私もなんだろうなぁと思う。この人の自信はすごい。

「お仕事いいんですか」

「いいんだよ。大きな山は片付いたし、管理職は暇なんだ」

「そのうち、また忙しくなりますよ」

「占いか?」

「占いです」

信じてない降谷さんは、笑うだろうと思った。いつものように鼻で。けれど今日は「そうか」といつもなら絶対に言わない肯定の言葉が返ってきて私は目を丸くした。明日は槍が降るのかもしれない。そして鋼鉄の傘は生憎持ってないんだがどうしよう。

「1年前の占いは当たったからな……まったくラッキーナンバーなんて糞くらえだ」

先生、じゃなかった降谷さんは割とたまに口が悪い。綺麗な顔からそれが飛び出してくるのを聞いていると中々趣があるなとは思う。これがいわゆるギャップ萌えというやつだろうか。

「ああ、先生が貢いでた女子高生!」

先生の鉄拳がわたしに制裁をくらわせた。

「・・・・せ、先生と仲良しだった妹分的女子高生さん?」

「都内の大学に行くはずが、三門市なんぞの大学に行った。新しい環境も、ラッキーナンバー3も、……ついでに『運命の相手』とやらまで当たった。おかげで仕事の効率が下がって迷惑してる。あなたの占いのせいじゃないんですか?」

「やだなぁ、予言じゃなくて占いですし」

「ふぅん?」

「ははーん、一緒にもう縁日回ってもらえなくなったんですね!女子大ライフか…そりゃおっさんは用ずみ、げほっげほげほ、げほん」

いかん、つい本音が。大げさに咳き込んで誤魔化してみたが、そんな誤魔化しが聞く人ではない。先生は相変わらず、私の隣でにこやかにあちこちへ笑顔を振りまいている。なんだか最近は暇なときはうちの店にいりびたり、ウェイターの真似事をしてくれていたりもする。『安室さん』とはまた違う、とはいえこれは風見さんの知る『降谷さん』らしいとも違うそうで。わからんな、と思う。この人ばっかりは占いきれない。降谷零、という本名を教えてもらっても、やっぱり私にとって『月影先生』がしっくりきた。今でも中々せんせいよびは抜けきらない。

「――寂しいですか?」

「可愛い可愛い妹分だからな。そういえば、もう一つの方も当たってたな」

素直に寂しいのを認めたのは意外だった。

「変わっていくのは若者の特権ですしね。コナン君も元気にしてるかなぁ」

生意気なメガネの少年は海外の両親のところに戻ったそうで、そちらもまた寂しいのだろう。先生は彼が大好きだったように見えたから。

「おとなだってそうだろ。よくも、わるくも――まぁ大概あなたは変化がない」

「流れ弾が酷い」

「何年たってもここで占いを?」

「まぁ、してるでしょうねえ」

変っていくのは若者だけじゃない。確かにそうかもしれない。

「でも私も、そういえば変化してました」

先生が、首を傾げた。

「今年は最初から美味しいコーヒーの出る出張占いの館になりました。先生のおかげで去年の倍お客さん来てますね。潤うなぁ〜」

接客の神が長蛇の列ができても華麗にさばいてくれるから安心して占いに集中できる。おかげで的中率もあがっているから評判も上々だ。

「ほんっと、毎日でも先生にいてほしいくらいです!」

「忙しい」

「ですよね。知ってます知ってます」

「……だがまぁ、そのうち暇になったらやとわれてやってもいい」

そのうち。私は思わず笑ってしまった。なんだろう、これってなんだかこそばゆい会話なんじゃないだろうか。
暑い暑い、夏の日の夜。縁日のすみっこで占いをして。横では即席のカフェがあって、最高のウェイターさんがいる。

世界は少しずつ変化している。
よくも、悪くも。

自分の変化に、奇妙なくすぐったさはあるけれど、まぁ悪くない変化なんじゃないかと思うのだ。





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▽47:名探偵コナンの占い師シリーズで、占い師が縁日かなんかで出張占いしたら。てきなものを読みたいです

WT長編世界とクロスオーバー。
この世界線だと、夢主は赤井さんと出会ってなくて、ずっと日本住み。とある事件のせいで元の世界線だと占い師能力値は半減してるけど、こっちの世界だとそこそこ優秀な占師さんです。降谷さんとはどの世界線でも遭遇するからもう運命なんじゃないかな!!








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