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27:とある上司の機嫌についてのレポート (WT長編:名探偵side)


今日の降谷さんは機嫌が悪かった。
とにかくピリピリしていた。俺の後ろに立つ奴は殺す、とでもいわんばかりの殺気を身に纏っている。おかしい、今朝方は機嫌がよかったはずなのに。

「八嶋、今日の食事だが」

とりあえず伝達事項を八嶋経由で伝えてもらおうと声をかけた。それが一番あの人を機嫌よくさせる方法なのだ、――が。

「あ、すいません私予定が入っちゃったんで行けなくなってしまいまして・・・すいません風見さん」

「お前が元凶か」

「へ?」

「予定は変えられないのか。こちらが先約だろう、今回の店はめったに予約が取れないことで有名な高級和食懐石の店だぞ」

即座に予定の変更の変更を求めた。とにかく、これに袖にされたことが不機嫌の一端であることは間違いない。あんな状態の上司と飲みの席を一緒にするのは断固拒否したい。高級料亭らしく、密室だ。どう考えても地獄である。周りの同僚たちからの「風見ファイト!」という温かい支援を視線で感じた。そうだ風見裕也、お前ならやれる。年下の少女の予定を変更させるくらいできなくてどうする、お前はそれでも公安か?公安につとめるからには、年下の少女くらい手のひらで転がして見せろ風見。自分を奮い立たせる。かつて小学1年生の少年に盗聴器をしかけられて以来、年下とてなめてかかってはならないと心に刻んでいるのだ。全力をもってことにあたらねばならない。

「もう予約が入れてある。少しでも顔を出してからにしないか」

まぁ実際少しでも顔を出せば簡単だ。酒を入れてべろべろにして降谷に世話をさせれば問題あるまい、と違法捜査がお得意な公安は勝手な算段をしている。仕方ない、公安だから。

「お前の食いたがっていたふぐの刺身がでるぞ」
「ええええ、行きたい、ですけど、」

けど、困ったなといい淀む。

「赤井さんが久々に来日してて・・・・」

思わず目頭を押さえた。徹夜明けですか?目薬いります?なんていう気遣いをしてくれなくていいから、赤井秀一との約束はなかったことにして飲み会に来い。それで少なくとも現在きりきりしている胃の痛みは軽減する。一番の地雷をどうして平然と踏み抜いていくのか。特異な能力を持つと言う彼女の精神構造は、凡人には測り兼ねる。

「こちらの飲みだってそうそうあるわけじゃないだろう」
「そうなんですけど、うーん」
「たまにこちらに戻っている時くらい、付き合え。近頃付き合いが悪いぞ。三門の人間になってしまったと降谷さんが寂しがっている」
「降谷さんが、寂しがる、・・・・ですと?」

そんなまさか、という顔をする。なんでだ。
あの人はお前を猫可愛がりしているだろうが。

「口には出さんだろうがな」

にへらぁと八嶋が笑み崩れる。おい、お前を喜ばせてやるためにだけにきったカードじゃないぞ。

「来るんだな」
「いきまーす!」

元気のいい返事に胸をなでおろした。とっておきのカードを切ったかいがあったというものだ。すぐさま降谷さんに『八嶋、参加になりました』と連絡を入れる。これで午後の仕事の時には何割か機嫌が上向いているはずである。
そのもくろみどおり、午後はつつがなく仕事がすすんだ。その日は風見が降谷の運転手を務めていたので、予約の店に到着したのは一緒だった。少しばかり時間がおしていたが、さきにはじめておくようにと言い渡しておいたから、問題ないはずである。その日最後の仕事がとある研究所での事件であり、精密機器への影響がありますので、などと言われて電源をおとしていたのが全ての過ちだった。


「あ、おつかれさまです降谷さん、風見さん」

笑顔の八嶋の隣にいる人物を見つけて、意識が遠のきかけた。おい、八嶋どうしてそういうことをお前はするんだ。俺の胃の安全を返せ。隣から不機嫌オーラがみるみる立ち上っていく。つい先ごろ行った占いで「報告・連絡・相談はこまめにしないと凶」と言われたが、そのせいか。『来る』のが一人でとは確かに八嶋は言わなかったが。

「何故お前がここにいるんだ赤井っ!」
「ああっ、すいません降谷さんお邪魔でしたよね?」
「君はいいんだ新一くん、ゆっくり食事を楽しんで行ってくれ」

工藤新一と赤井秀一が八嶋をはさんで席についていた。他の同僚の恨めし気な顔を向けられたがこれは断じて俺の責任ではない、はずだ。

「春、飲みすぎだ、次のはウーロンにしろ」
「ひえっ、まだ飲めますよ?!」
「三杯目でつぶれるやつが文句をいうな。新一くん、とりあげて」

手にしていたカクテルを取り上げられて八嶋がぶーたれた。お前・・・その顔は俺がしたい、と風見は心底思った。

「酒の席だ、無粋な真似はよさないか?」
「せっかくの酒の席に招かれざる客がいれば誰だったこうなる」
「ほう?降谷くんは酒に弱かったかな」
「なんだと?俺の酒量はお前も知っているだろう」
「さて、しばらく飲んでいないからな」
「・・・・上等だ」

公安の慰安をかねた飲みの席が、公安VSFBIの飲み比べへと姿を変えたのがこの瞬間である。風見!この店にあるだけ酒を持ってこい!と上司から言われてしまえば、もはや逆らえるはずもない。

「新一君、お刺身美味しいよ」
「・・・・春さんってたまに、手段選ばないとこありますよね」
「ここのお刺身、食べれるのって奇跡なんだよ知ってた?ミシュラン三ツ星で向こう1年予約入れらんないんだよ?さすが公安だねー」
「あ、ほんどだ。うめー」

視界の隅ののほほんとした平和な空間をよそに、戦場と化した一角で風見裕也は屍と化した。






翌日、降谷さんはいつもどおりの顔で仕事をこなす。あれだけ飲んでいて、どうしてああも当たり前の顔をしていられるのか。酒精にあてられて、いまだに酔いが残っている自分の身体が恨めしい。あの二人は人外枠だから気にしたらダメですよ、と八嶋あたりならいうだろう。
だが、喧々囂々と飲み比べをし、自分の方が先に参ってしまった後もそのバトルは続いていたらしい。会場は二件目に移動しました、三件目に突入、四件目、そろそろ帰りたいです、と後からラインをチェックすると八嶋からの報告が逐一入っていた。ジョッキを山ほどからにしている上司の写真付である。最後のカラオケ勝負で今夜は降谷さんの勝利で幕が下りました、と最後のラインは締めくくられている。あのメンバーでカラオケにいったのか。頭痛がすごい。合間に工藤くんの写真がはさまっている。巻き込み事故にあっている優秀な頭脳に深く同情した。
だが、深酒をし、気分よく熱唱をし、そのまま潰れるように眠ったおかげなのか、ここのところ根を詰め過ぎていて降谷さんの眉間に居座り続けていた皺が少しばかり薄くなっている。一仕事終えた八嶋は早々に新幹線に乗って三門市へ帰って行った。「今度は風見さんのガス抜きに付き合うんで許してくださいね」と言っていた。つまるところ、全部わかっていてやったということなのだろう。降谷さんのガス抜きに赤井秀一をあてたということか。恐ろしい手段を使う。酷い目にあった、と思いつつも、足取りもかるくなっている上司の疲れがあれでとれたならば仕方ない。だがしかし、彼女にガス抜きを用意してもらうなんて言う、保護者たちが何を言い出すかもわからないイベントは断固遠慮しておいた。降谷さんをさしおいて八嶋と食事になぞ行けば、翌日の仕事が倍になるだけである。『気を使わないでくれ後生だから』ときちんと伝える。不満げな返信がきていたが、彼女のホームが三門である以上早々そんな機会もない。

「風見!出るぞ」

厳しい声が飛んでくる。不機嫌そうだが、昨日とは明らかに声音が違う。すっきりした声だ。ぬいでいたスーツのジャケットを羽織って、車のキーをとる。運転テクはあの人の方が上だが、念のために。常に備えておくのが公安に身をおく人間である。

「はい、すぐに!」

今日の降谷さんの機嫌は上々である。







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▽12:今日の降谷さんは機嫌が悪い的なモブ視点で保護者組の観察日記
割と災難な風見さんの一日でした。観察日記に!なってない(死)
すいません、日記テイスト難しくてこうなりました。時々死ぬほど空気をよむことを放棄している夢主ですが、それもこれも風見さんがいるし大丈夫だろうという風見さんへの信頼と甘えなので、そこらへんも含めて一時期降谷さんは夢主と風見をくっつけてみてはどうだろうかとか勝手に思ってそう。公安の嫁計画を大学卒業とともに始動させるつもりが出遅れて三門のボーダーにかっさらわれてしまった公安のエリートは、ボーダーにいつもおこです。けど日本だからアメリカにとられるよりはマシだなとは思ってるよ!










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