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12:物騒な保護者達の集い (WT長編) 


日本、米花町、某所にて。

「春の好みだったな」
「城戸司令官でしょう?」
「いけすかないが上司にはまぁ悪くない」
「降谷さん手厳しい」
「ちょっかいかけるが、味方につくのは本部長だろう。春は自分を上手につかいすぎる人間のそばは割と嫌がるからな」
「FBIでもそうでしたっけ?」
「最終的には君についただろう」
「なるほど。その理屈でいくと僕が本部長で、赤井さんが司令で、降谷さんが外務営業部長さんですかね」
「あれにかかわるなと言ったのに」
「同族嫌悪か?」
「公安の要注意人物リストにいるの男を目の前にして尋問できないつらさがお前にわかるのかFBI」

ボーダーに関して言えば、あらゆる情報がブラックボックスにぶち込まれている。公安はあの手この手で潜入捜査官を送り込もうとしているが、うまくいったためしがない。潜入捜査官だらけだった某組織よりも、ガードが堅い。長期計画として、三門市への妻帯者捜査官の移住もプランに上がりつつある。ボーダーは土着の組織だ。自警団、というのが近いかもしれない。イタリアのマフィアのようだ、と表現したのは誰だったか。

「にしても、してやられた」
「うちにもらうはずだったのに」
「まったくだ」
「卒業式にさらいにいったらどうです?ほら”卒業”みたいに。うっかり流されてくれるかもしれませんよ」

映画好きの春はシチュエーションに弱い。雰囲気に流されるタイプだということは周知の事実である。

「望み薄だな」
「赤井さん何か知ってるんですか?」
「少しな」
「出し渋るな。さっさと吐け」

降谷が赤井をにらみつける。

「この間、FBIに残してあった籍を正式に抜きたいからその手続きの書類が欲しいと言われた」
「そっれは・・・よっぽどですね」
「ざまあみろ」

降谷は心底嬉しそうに持っていたグラスを一気にあおった。

「公安に行くわけでもあるまい」
「日本国民であることは確定した」
「嬉しそうですね降谷さん」
「優秀な人材が他国に流出しないのは朗報だよ新一君」
「あははは」
「で、君は試験を受けるよな?」
「おっと坊やはうちに来るんだろう?」

矛先がこっちにきた、どうしてくれるんだという名探偵からの苦情が春のところに届いたけれど「そんなん言われても困るよ」としか春は言えない。

「赤井さんを振るってよっぽどなんでしょうけど。だって大学入る前は卒業後は渡米路線で動いてたし」

実際、春の本宅はすでにアメリカにあった。巣みたいなものだ、と本人が言うとおり、持ち物すべてがぶちこんであるともっぱらの噂だ。その部屋も引き払って、荷物は整理してから三門に持ち込む予定らしい。

「娘を嫁に出した気分だ」
「ざまあみろ」
「しつこい男は嫌われるぞ、まだ国家公務員試験のテキストを送りつけてるらしいじゃないか」
「勉学は学生の本分だ」
「・・・それ、僕ももらいましたよ」
「新一君にテキストなんて不要とは思ったけど一応ね」

降谷が渾身の笑顔で新一を見るので、思わず口元がひきつった。

「不要だな。坊やはFBIに来るんだから」
「……話の着地点がまた同じところに」


組織としてのボーダーは、少なくとも春に対して強硬な姿勢を示してはいない。むしろ、国家組織と距離を離せたことは悪くない結果ではあるというのが共通の認識ではあるので、無理やり連れ戻そうという結論にはならない。
一方で、別の話題はまた、別の問題だった。


「で、あの茶髪グラサンのふらふらしてるのが春の相手なのか?」
「真面目そうな子でしたけど」
「新一君は好意的だね」
「・・・・・赤井さんと降谷さんの採点が辛すぎるとは思います」
「春を任せるなら、そうなるだろう」
「そこは赤井に同意する。とはいえまぁ、甲斐甲斐しい努力はまぁ評価してもいい」


珍しくも意見が一致している。過保護の表現の仕方は違えど、方向性は同じ二人なのだ。
かいがいしい努力ってなんだろう、と新一は思った。春相手にちょっとやそっとでは太刀打ちできないのは目に見えているし、降谷が『かいがいしい』と評すくらいなのだから、通常の19歳男子の百倍くらいは努力してるんじゃないだろうか。

「例えば?」

かいがいしい、というのがイマイチぴんとこない新一が問うと、つい先日降谷が三門に顔を出した時のことを語りだした。降谷は定期的に春のところへ顔を出す。彼は最高の女子大学生生活を春に送らせることを至上命題にしている節がある。定期的に服や化粧品を見立てて、考えうる最高の女子大生を演出するために日夜研究を惜しんでいないのを新一も知っている。トリプルフェイスをこなした男は、やるからには徹底的にがモットーなのだ。
降谷が指折り数え上げる。ひとつ、服のセンスは悪くない。ふたつ、その為に参考資料を取りそろえようとする努力も評価できる。みっつ、それを降谷に牽制の意味でおこなうという気概もまあ評価してもいい。

「・・・それもう十分なんじゃ、」
「最低限だよ、新一くん」

ぐうの音も出ない。ひとつ年上の友人の前にある鉄壁の防御を果たして敗れる人間がいるのか。迅悠一少年に心の隅でそっとエールを送った。新一としては割と応援しているのだ。


「・・・太刀川くんは」

ラインのIDを交換した同い年の青年の名前をあげた。矛先をとりあえずそらしてみるか、と上げたのが、

「ない」
「ないな」

即答だった。おかしい。確か彼はボーダーにおけるトップアタッカーだと説明を受けたのだが。将来は有望、のはずだ。強い、という点においては春を守るのに絶対不可欠条件としてこの二人がまず上げる点である。この二人の攻撃力に勝る人間が果たしているのか。勝らずとも合格点を貰えるだけの人間なんて、両手で数えられるほどじゃないのか。本当にハードルが高すぎる。

「懐いているのは髭のせいか?」
「・・・剃るか」
「一考しよう。しかしトリオン体というやつは厄介極まりないな。やるなら大学構内だろう。さしものボーダーも所構わずの戦闘は避けたいだろうからな」

太刀川慶の髭をいかに剃りおとすかの議論が一時間ほど行われた。実行されないことを心から新一は祈った。戦闘に関して言えば、彼にと手自負があろうが、経験値にものを言わせそうで怖い。やるとなったら手段を択ばない過激派の二人なのを誰よりも新一が知っている。

そこでふと、赤井が別の名前をあげた。

「そうだな、荒船少年あたりは見どころがある」
「あらふね?」

赤井がデータを降谷に見せる。ほう、と降谷は顎をなぜた。これは中々の好印象だ。

「悪くない。うちにスカウトしたいな」
「残念ながらこちらがインターンに誘うのが先だ」
「春と親しいのか」
「映画好きらしい」
「なるほど。だが年下だぞ、春の好みは年上じゃなかったか?」

荒船くん、は新一もよく聞く名前だ。春が相当に懐いているのは間違いない。

「泳ぎが苦手という点が気がかりだな」
「まだ若いんだからこれからどうとでもなるだろう」

どうとでもなるようにされる計画がされそうで怖い。荒船君が海や川やプールに連行されて泳げるようになるまで解放される未来予想図がちらついて、新一は身震いした。恐ろしいことに、この人たちならやりそうなのだ。

「新一くんはどう思う?」と降谷に話をふられるが、下手なことが言えないので笑ってごまかした。




***



「しかし、降谷君は変なところで鈍いな」

赤井がしみじみという。降谷は手洗いに立っていて、席を外している。

「鈍い?」
「アメリカが既定路線だと君も言っていたが、それは少し違う」

こつり、と酒の入ったグラスを赤井がつついた。注がれているのは『バーボン』だ。

「結局のところソレは保険だ。わざわざ降谷くんが送らずとも国総の試験問題集なら、春は持ってる」

「へ?」

持っている、ということは。

「受けるつもりはあったはずだ。受かれば日本に残る覚悟を決めただろうな」

おちても警視庁を受けてみようかという気くらいはあったはずだ。

「初耳ですね」

「言って面白い話でもないからな。まぁ、それも結局はボーダーに持って行かれたわけだが。漁夫の利というやつか」

「降谷さんと、仲いいですもんね春さん」

赤井に全面の信頼を寄せていた春は、FBIにいつか入ると言っていた時期もあった。コンサルタントとして働きながら、顔つなぎをして。
それが変わったのは、

「――俺が死んでいる間に、ますます仲が深まったらしい」

「あぁ・・・」

新一が目を細めた。それはもうどうしようもない。この件に関しては、新一自身も春に負い目があった。
来葉峠での赤井秀一の死の偽装を、二人はごくごく数名にした伝えなかった。敵を欺くにはまず味方から。そして何よりも、赤井の死に真実味をもたせるために。
ジョディと、春の反応は赤井に近いしい人間であるからこそ、誰もが目を向ける。
特異な能力を持つ春は、その真実に気づけるのではないかと新一は思っていた。わかっていて、それでも演技をしているのではないかと。
だが、違った。
いつもどおり、いや気丈にふるまっている。そう新一たちが思っていた裏側で、春は想像していた以上に傷ついていた。新一と赤井はそこを決定的に読み違えていた。
そんな春を保護していたのが降谷なのだ。

「――それは、どうしようもないですね・・・」

とはいえ違法捜査は公安とて変わらないが。
公安と、FBIと、どちらにも春は恩義があって。だからこそどちらを選ぶこともできずに新一のところに逃げ道を用意していた。
『赤井秀一の死』という嘘。その嘘を真実に近づけるために赤井と新一は春を利用した。新一はそれを負い目に感じていて、春が自分のところに避難したいというなら両手を広げて歓迎する気だった。

「どちらにせよ、逃げられたわけだがな。仕方ない。何せあっちは――世界を救ったヒーローだからな」

「世界、ですか?」

「そう、世界だ」


意味深に、笑みを浮かべて赤井は言った。その意味を、新一は知らない。







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11:男性と出掛けるハルさんの尾行、あるいは情報収集結果を見ながらあれやこれやダメ出しやらコメントする保護者組

モンペ二人が会議しているのを戦々恐々と見ている新一くんのお話し。尾行も考えたのですが、今回は保護者会議という形になりました。
正隊員は確か名前がリストでのっかるはずなので、そのリストを上から順に赤ペンでチェックいれてそう感ある。
楽しいお題をありがとうございました!










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