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13:カウントダウンはゼロにならない (WT長編)


「どうしてこうなった・・・」


目の前にある爆弾と向き合いながら春はつぶやく。そもそも目の前にある爆弾、というシチュエーションがおかしい。自分はただの女子大生であるはずなのに。

この日はボーダーの広報活動が三門市の中心街にあるデパートで行われていた。嵐山隊がデパートにやってくる!というチラシが少し前から街のあちこちに貼られていたので春も知っていた。
広報部隊は多忙だが、少しも笑顔を崩すさない嵐山のことを春は心から尊敬している。嵐山に実はサインをもらって自分の部屋に飾っている。サインをください、と言った時の嵐山はきょとんとしてそれから「婚姻届の証人欄か?」などと言うものだから春の方が度胆を抜かれた。何とかサインはもらえたが「迅をよろしく頼んだぞ春さん!」と言うコメント付きである。
ともかく、春は嵐山のファンだ。なので広報イベントにもいそいそとファンとして参加しにやってきていた。とはいえ、もうボーダー隊員である。広報のターゲット層の邪魔はしてはいけない。適度に見やすい、適度に後ろの席で最前列は勿論一般の方に譲った。
あともう5分ほどでイベントスタートという時間に、ポンポン、と後ろから肩を叩かれた。


「春さんちょっといい?」


迅がそこに立っていた。

「ユーイチ君?どしたの?」

「ちょっと困ったことになっててさ」


そして春は泣くなくステージ鑑賞のベスポジから連行された。
連行された先はステージの舞台下である。そこには既に何人かのボーダー隊員がいた。そしてボーダー隊員が囲むものの真ん中をみて春は「うげ」と呻いて自分が呼ばれた理由を理解した。
ステージ下に、不可解な箱が設置されている。その箱の中に、春にとっては久しぶりに見る『見慣れた』ものが鎮座していた。
爆弾である。
それも、この規模ならば、間違いなくステージは吹き飛ぶというほどの。


「アンチボーダーの仕業みたいなんだけど、結構手が込んでて。春さんが何とかできるっておれのサイドエフェクトが言ったから」

「・・・これ、すごいめんどうなやつ・・・警察の爆発物処理班は?」

「できれば警察沙汰にしたくないんだよね」

「・・・・ぇえ〜、相談しようよ」

「あんましおおっぴらにしたくないんだよ、ほら市民の不安を煽っちゃうし、ボーダーの評判下がっちゃうしさ」


隣の迅がごめん、と春を拝む。迅のサイドエフェクトが言うのなら、春は無事に爆弾を解体できるということなのだろうけれど。春は鞄から解体に必要な道具のセットを取り出した。朝出かける瞬間に、ごとんと部屋の中で音がして春は玄関先から引き返した。部屋の棚から不自然に転がり落ちていた爆弾解体に必要な道具一式を見たときから、なんだか不穏な一日のはじまりだという気はしていたのだ。転がり落ちていたそれを、渋々春は鞄に入れた。こういうことは、無視して出かけると後々痛い目にあうのだ。使うことがなければ、それでよし。使うことがあれば・・・それは不幸な偶然に感謝するよりほかはない。



「ボーダー本部を爆破した女だしな」と護衛役の諏訪が言う。

「諏訪くん黙ってて」

結局大活躍することになった道具を、順番に使っていく。手順を間違えそうになるたびに、記憶の中の先生に怒られるのでおっかなびっくりである。

『八嶋、そこのコードは?』とインカムから寺島が口を出す。

「だめ、トラップ」

『爆弾解体はしたことないから面白い』

当たり前である。春だってこんなことに慣れたくはなかった。

「私の爆弾解体ショーより、上でやってる嵐山くんたちの広報ショーが見たい〜〜!!うう、休暇中なのに!時間外労働だー!労基にうったえてやる・・・」

ぶつくさいいつつも、手元はするすると進んでいく、ように周りには見えている。手馴れてんじゃねーか、と諏訪が口に出して春から「慣れたくて慣れたわけじゃないし!」と反論を食らったが、迅も同じことを思った。

「赤井さん仕込み?」

「・・・これは降谷さん仕込み」

降谷にはその勘の鋭さを買われて、何度となくこの手の仕事に付き合わされたのだ。よく今まで生き延びてこれたな、と我ながら自分のしぶとさに春は感心している。

『トリオン体は通常より強くできているので、すごく力持ちなんですよね〜』という表のショーの音声がインカムに流れる。せめて音声だけでもお届け、ということなのか。
広報イベント自体はつつがなく進行していく。ボーダーの紹介、隊員への質問コーナー。その真下では爆弾が刻一刻と爆破へのカウントダウンを刻んでいる。

『嵐山隊長とじゃんけんをして、最後まで勝ち残った方はボーダー見学と嵐山隊の好きな隊員(男性限定)にお姫様抱っこして写真撮影してもらえまーす!あ、男性が勝ち残った場合は好きな隊員さんと肩組んで写真撮影ですけど』

『いえ、男性でも持ち上がりますよ?』と嵐山が言うが、そういう話ではない。

『え、ええ?っと、持ち上がるそうですので希望者はどうぞ〜』

春が「わたしも参加したかった・・・」と呻く。

「爆弾解体できたら、おれがお姫様抱っこで本部に連れて帰ったげるよ」

そういう問題でもないのだ。それではただの羞恥プレイである。迅が頭をかいて、ちょっと上の様子見てくるね、と爆弾解体現場を去っていく。残っているのは春と、諏訪と、木崎である。ボーダーは部隊で動くことが多いけれど、こうしたイレギュラーな組み合わせも最近はかなり増えてきている。会場の警備には風間隊がカメレオンを使ってついている。明らかに次世代の育成にかかっているのがわかる組み合わせに春はめまいがした。21歳、大学3回生の囲い込みに、ボーダー上層部は余念がない。

『てか八嶋は何でトリオン体に換装しないわけ。もしもの時やばいだろ』

「その心配もうちょっと早くにしてほしかったな寺島くん!」

「俺もトリガーを起動しろとは言ったんだがな・・・」と木崎がため息をこぼした。

勿論、木崎だけでなく迅にも護身用トリガーを使うことを薦められたのだが、これは春が辞退した。トリオン体になると、春の危機察知能力は著しく機能を低下させることが『太刀川慶、八嶋春うっかり殺人未遂事件』で判明したばかりである。
トリオン体に換装され、痛覚をオフにしてしまうことにより、本能的危機察知能力が働かなくなるのだ。死なない、と本能的にわかっているからアラームが鳴らないのだ。

『あ〜、太刀川の件でわかったやつか。あれよくお前生きてたよね、頭おかしい』
「頭おかしい組織の頭おかしいことしか研究してないとこのチーフに酷い言いがかりをつけられてる」
「太刀川はそれから1週間ランク戦禁止と、弧月没収くらって、忍田さんから死ぬほど説教をくらっていたな」
「太刀川くんも大概頭おかしい。ねじが百本くらいとんでる。さすがA級1位」

普通あんな事件が起きたら、恐怖心から戦闘がトラウマになっていてもおかしくないはずだが、太刀川の第一声ときたら「春さん、今のもっかいやろう!」である。その場にいた良識ある人たちに袋叩きあったことは言うまでもない。



『では、じゃんけ〜ん〜、』


MCの声がもれ聞こえてくる。

『イベントも佳境だ、解体は順調か?』
「もうちょっと」

じわりと汗がにじむ。舞台下はろくに換気もきいていないせいで、春はじわりと汗ばむ手を服でぬぐった。
ややこしい配線を、ひとつずつ切っていく。順番をひとつでも間違えればドカン、だ。心臓の拍動が煩く耳の奥で響いている。細い細い綱渡りをしているような緊張感をこらえるように唇をかんだ。

(・・・あー、あつい)

せっかくのお出かけにと着てきたお気に入りのシャツに汗がにじむ。
トリオン体の諏訪はそれを見て、加えていた煙草のはしを噛む。変わってやるわけにもいかないのだ。


『はいっ、あいこの方もすわってくださいね〜!じゃんじゃん行きますよ〜』
『最初はぐー!』と嵐山隊の佐取の声が響いた。嵐山隊のメンバーが順番にじゃんけんの音頭をとっていくようだ。


「呑気なもんだよな〜、観客もよ」
「ボーダーってほんと悪い組織だと思う・・・・普通わかってたらイベントやんない・・・ううう、降谷さんにばれたら半日お説教コースだ、根に持つんだよなぁあの人ってば」

これは明らかにネイバーへの対応ではない。日本の治安維持に関して、ボーダーは何の権限があるわけでもない。明らかな越権行為といえるだろう。

「だからバレないようにやんだろ」
「・・・秘密ってのはどこからか漏れるものなんだよ」とげんなりと春は答える。恐らくはどこからか情報は伝わるだろう。表向きにはにこやかに、しかしてその裏では壮絶な腹の探り合い。そこらへんのやり取りは自分の仕事ではなく、唐沢や根付の仕事ではあるが。にこやかに交渉する唐沢と、降谷の間で胃をいためることになる根付に心から春は同情した。

『あいこで〜、しょっ!』

きゃっきゃとにぎやかな笑い声が、遠巻きに聞こえてくる。アンチボーダーとやらもどうかしている、とため息をつきたくなる。一般人を巻き込んでしまったら、どんな主張だってゴミ屑同然だ。



『・・・おい、迅が上にいる』

風間からの通信が入る。

「様子見てくるっつってから帰ってきてねーな。なんか上でまずいことでも起きてんのか?」

『じゃんけんに参加している』

「は?!」

「・・・・・」木崎は頭を片手でおさえた。

「ええーー!ずるい!いいなぁいいなぁっ!私も行きたい・・・」

『あれは反則じゃないのか?』

未来視のある迅がじゃんけんに参加するということは、もう勝ち確である。

『あ、また勝ちましたね』と歌川が言う。菊地原が『馬鹿じゃないの?』と完全にあきれ果てた声で言った。

「勝ってどうすんだよ」

「どうって、嵐山君にサインもらってお姫様抱っこしてもらうんじゃないの?わかる・・・こんな機会でもないと言い出せないもんね」

「迅が、か?」

「ユーイチ君、嵐山君のこと大好きだもんね」

迅が大好きなのはお前だよ、とは誰もつっこまない。だが、オープン回線とは別にトリオン体での内部通信に切り替えた隊員たちは、春の聞こえないところで『好かれてるのはお前だよ』と突っ込んだ。


『八嶋のためだろ?』
『だろうな。目が本気だ』

本気で嵐山のサインを勝ち取るつもりである。広報イベントなんだがな、と風間がため息をこぼす。

『うざ』
『菊地原。 迅さんでも、そういうところはあるんですね』

菊地原を歌川が窘める。

『おい、諏訪、木崎そっちはまだ終わらないのか』


「おい八嶋まだ終わらねーのかよ」
「もーちょい。あとひとやま、あらしやま〜」
「座布団没収」
「ちょっと!頭叩かないでよ諏訪くん!手元狂う!」
「お前がアホなこと言うからだろうがよ」
「今、爆発したら私は黒焦げだよ。後始末よろしく。遺体はイギリスの研究所に献体する段取りになってる」

黒焦げ、を想像してしまい諏訪は苦い顔をする。遠征に参加しない諏訪は、遠征組と違い『そうした』状況には慣れていない。

『献体?』
「知り合いの研究者と約束だからねー。黒焦げじゃブチ切れかもしれない。解剖しやすいように死ぬなら綺麗に死ねと言われております〜」
『・・・ちょっと待って春さんソレ聞いてない』

迅が会話に割り込んだ。地上で嵐山とのじゃんけん勝負も続行しているらしい。

「え、ちゃんと上層部には申告してあるよ?死んだらすぐに指定の研究所にまるごと送ってねって。ちゃんとしとかないと、後々揉めるからさ」

迅にはどうにも伏せられていたらしい。カメレオンを使って地上警備にあたる風間からは歯噛みする迅がよく見えた。

「どこで霊を見てるのかとか、未来視だったり過去視のメカニズムはまだまだ未知の分野だからね〜。顔なじみの学者馬鹿がうきうきで解剖するはず。その人も能力者なんだけどね、自分で自分の解剖はできないからな・・・って心底悔しそうにしてた」

「自分で自分を解剖したいという発想が頭おかしいだろ」

「基本的に私の周り頭おかしい人しかいないんだよね・・・諏訪くんといるととても癒されるよ」

「は?」

「良質な常識的ツッコミ素晴らしい・・・」

「それはわかるな」

「何言ってんだ筋肉ゴリラ」

『春さんが解剖されてる未来は視えてないよ!』

『迅、残念なお知らせなんだが・・・』

嵐山の声が、心から申し訳なさそうに割って入る。広報の内部通信ラインでの指示がはいったらしい。

『広報イベントでボーダー隊員が勝ち残ってどうするんです!と、メディア対策室から・・・すまん、参加は自由だと思うんだが、SE使っているなら他の人に譲ってあげてくれ』

『当然です』と木虎の合いの手が入る。これが烏丸のサインだったら、木虎とて話しは別になってくるが。佐取が『八嶋さん、佐鳥の腕いつでもあいてますよ〜』と茶々を入れた。恐らくは時枝のであろう小さなため息が聞こえた。

『ええ〜、いいじゃん!春さん頑張ってるのに!』

『けど春さん、俺にお姫様抱っこなんかしてほしかったんですか? サインも前にしたような・・・?』

「ううう、お気になさらず・・・あの、勝ち残りたかったわけではなく嵐山隊のじゃんけんイベント楽しみにしてただけだから!!お祭りにのっかりたかっただけなので!あとちょっとで解体も終わるよ〜」



『さ〜〜、人数絞れてきましたね〜〜!』
MCのお姉さんの声が響いた。舞台下にいる春たちには見えないが、すばらしい晴天のもと、真っ赤な嵐山隊の隊服が衆目を集めている。
最後のコードにとりかかる。配線を切りかけて、手を止めた。

(あ、今なんかぞくってした)

自分の直感を信じて、手を止めてもう一度爆弾をチェックする。
――焦りこそ最大のトラップだ。

(はいはい、わかってるよ降谷さん)

脳裏をよぎった爆弾解除の先生の口癖を思い出して、口元に笑みが浮かぶ。そうだ、焦るな。まだ時間はある。最後の最後まで考えろ。焦るな。手元に集中する。
動きをとめた春に「八嶋?」と諏訪が声をかけた。それに大丈夫だと答えて、汗を腕でぬぐった。



嵐山の拳が高らかに上に突き上げられた。

『じゃんけん、』

最後のコード、その前に切るべき配線を切って、

「よし、」

『ぽん!』
「解体完了!」


最後のコードを春が切ったのと同時に、じゃんけん大会の勝者が決まった。
歓声が響く。爆発音は、響かない。
勝ち残ったのは三門市の小学生の女の子だった。照れくさそうに舞台上に少女が案内され、嵐山と握手をした。


『おつかれ、春さん』
「ありがとーユーイチ君。もう他に問題なさそう?」
『大丈夫そうだね』

良かった、と春はその場に座り込んだ。諏訪が、お姫様だっこで上まで連れてってやろうか?と底意地悪げな顔で言うので、「結構です!」と肩をすくめた。
だがこういう気を使わない会話は少し心地よくもある。良くも悪くもこれまでは年上に囲まれ、甘やかされてきたので、同級生との軽口はどこか新鮮で、当たり前の日常を春に感じさせてくれる。

「じゃー、おれが立候補しようかな」

「へ?――っうわ、え、ま、ちょっ、?!」

安心してうっかり抜けていた腰を誰かの手が抱えて、ふわりとした浮遊感が春を襲う。誰か、というか迅だ。じゃんけんに負けて下に戻ってきていたらしい。

「あとなんだっけ、サイン?」

迅が軽々と片腕に春を抱え上げる。空いた片手に握られたマジックのふたは既に開いている。


「はいっ?!」

「ちょ、ま、あのね?!私いますごく汗かいてて、」

「だいじょうぶだいじょうぶ」

春はもう恥ずかしくて両手で顔を覆った。
春のほっぺには黒のマジックで『 迅 』とハートマークが躍っている。


「撤収〜」と諏訪が言い、もくもくと解体の完了した爆弾を木崎が回収していく。
『通信切りますから』と数名が言った。
春は待って、ちょっと待って、これはどういうことなんだと騒いでいる。

「・・・あのね、ユーイチ君、きょうはこのあと恐怖の保護者会の日でね?」

恐ろしいことを思い出した、と春が小声で言う。
保護者、というのは勿論、赤井とそして、降谷のことである。あの二人は仲が悪い癖に(降谷の方が一方的にそうしているともいえるが)びっくりするくらい足並みがそろう時がある。
知ってるよ、と迅が笑う。

「知ってて?!あの、じゃあこれもしかして水性?すぐ消えるかな?」

消したいような、消したくないような。だが、このままであの二人に会うのは春が羞恥で死ぬ。


「いや、油性」
「まいがっ!寺島君!緊急時用のトリガーの貸し出し要請を!!開発室から出してくれませんかね?!」

トリオン体になっていれば、とりあえずほっぺの落書きは隠せるはずだ。だがしかし。同級生は無情にも『――本日の営業は終了したんで』と通信を切った。














――――――――――――――――――
42:夢主一人で爆弾解体作業。(その場にいつもの面々アリ)

爆弾解体作業中なんですが何だか呑気なお話しになりました〜。
書いてて楽しかった・・・。コナン第一作の映画みたいに「運命の赤い糸は切れない」なくだりもいれたかったし、勇敢なるボーダー隊員諸君よ、的にやるのも楽しそうですが、ちょっとそこまでやるとあれかな・・・と思い自重しました。
春ちゃんは降谷さんに爆弾解体仕込まれてるから、松田さんの孫弟子だね!!









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