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44:君のそういうところが、 (WT長編)


暗躍に忙しく久しぶりに本部にやってきて、足は自然にS級作戦室に向いた。A級の作戦室が並んでいるから、A級隊員に絡まれることもある。大体ここを通るときは迅の目当てがS級作戦室で、そこにいる春なのを皆知っているから余計に面倒だ。誰かに出くわさないように早足で、目的地にはすぐについた。運よく誰にも捕まらなかった。
鍵のかからないS級作戦室のドアが開く。応接用のソファにも、デスクにも姿が視えないから当たり前のように迅は仮眠用のベッドが置かれている部屋に足をすすめた。本来なら女性の寝室に無断で入り込むようなことは許されるべきではないし、迅だって弁える。だが、自分の暗躍と春の外部への出張とが重なってもう随分と顔を見ていなかった。つまるところそれは春の《未来》も視ていないのだ。焦燥感に急かされて足早になる。巻き込まれ体質の名探偵の話を春はよくするが、春自身も結構負けていない。時折外部への出張なんてもうしなければいいのにと思ったりするような未来が視えてしまう。危険極まりない仕事を、それでも『やめろ』と迅に強制する資格はない。
ドアを開けて、中に足を踏み入れた迅は、あまり見たくない光景を見て思わず固まった。

嵐山がいた。後姿でもそれはわかった。


「ちがう!ちがうぞ迅?!これはそのあれだ、迅だ!」

おれは迅なんだよ今、と嵐山は言う。迅はおれだけど、と思った。
ぎゅう、とベッドサイトに座る嵐山の首元に顔を寄せて抱き着いた春がなにか寝言を言っている。
結構嵐山は騒いでいるけれど、起きる気配がない。

「・・・よく寝てるね」
「春さんこないだ外部の仕事で出ていただろう?そこから帰ってから今度は開発室に捕まってたらしくて、疲れてるようだったから様子見ておいてくれと廊下で会った冬島さんに頼まれたんだ」

確かに足元には差入れらしきものがビニール袋にいれられて置かれている。
迅は春のほっぺたを指先でつついた。
嵐山曰く、布団もかぶらずに寝ていたからこれでは疲れも取れないだろうと思い、声をかけた。それでも起きないので、ひとまず寝やすいように体勢を整えようとしたところ、薄目をあけた春が「ただいま、ゆーいちくん」と嵐山に抱き着いた。そこへ迅が現れたということらしい。

「おれと嵐山を間違えるなんて酷いな〜春さんってば」

つんつんとほっぺたをつつき続ける。もちもち肌を勝手に堪能していると嵐山に「・・・迅」とさすがにたしなめられた。

「昔はよく間違われてただろう?」
「だなー。久々」

年齢も身長も血液型も同じで、背格好や髪型が似ていたので、二人をそろえて《偽双子》なんて呼ぶ人もいた。それもボーダーがこんな大所帯になる前の頃の話で、知っている人間はもう少ない。

「今回長かったな、出張」

迅は指をひっこめた。嵐山は迅の表情をちらりと伺った。何かをじっと、迅は『視て』いる。
あらゆる未来を視て。それから一度だけ瞬きをした。

「しばらくは、うちにいるよ」

おれのサイドエフェクトがそう言ってる、と迅は続けた。

「そうか」

よかった、と嵐山は思う。この人がいるだけで、迅はどこかほっとしたような顔をするのだ。

「あーー、変わろうか?」
「今、体勢変えると起きちゃうからやめとく」
「・・・・・このままというのは、俺としては困るんだ」
「いいじゃん嵐山、役得で」
「春さんは迅だと思ってるんだよ。けど違うだろ?」
「ボーダー内アンケート取ったらおれより嵐山に抱き着きたい女子のが多いし」

迅、と唸るように名前を呼んだ。どうして時折こんな風に意固地になるのか、嵐山には少しもわからなかった。迅には迅の考えがある、といつだって思ってはいるけれど。

「春さん、嵐山のファンだしな」
「春さんは俺のことを迅と間違えることはあっても、迅のことを俺だと間違えたりはしないと思う」
「どうだかね」
「さっきからずっと春さんが寝言で何て言ってたと思う」

なんだろうか。迅には過去は視えない。視えるのは未来だけだ。

「『ただいま、ユーイチ君』――春さん、ずっとそう言ってた」
「・・・・・」
「おかえり春さんって、言ってあげたくなるだろ?俺は、迅じゃないけど」
「・・・・・・・・・」
「なぁ、迅。」
「なに」
「目をつぶって未来視無しで、自分がどうしたいか考えてみてくれ」
「・・・・・もう視えてるし」
「迅」

視えているのだ。
嵐山の端末がもう少ししたら鳴る。それに驚いた春が目を覚まして飛び起きてバランスを崩して床に倒れそうになる。だから、迅は春を受け止めやすい位置に立っている。
未来視なしで?無理だ。だってそれでもしも、春が転がった拍子にどこかに運悪く頭をぶつけて死んでしまったら?人間はかんたんに死んでしまうのだ。春だけじゃない、嵐山も、他のだれもみんな。かんたんに。未来は無限に広がっている。いいことにも、わるいことにも。
すぐそこに、視えた未来が近づいている。迅はスマホを取り出して、ぱしゃりと写真のシャッターボタンを押した。嵐山の眉間にしわがよる。正義の味方と目される嵐山の注意が飛んでくるより先に、迅の視た未来がやってくる。
嵐山の端末が鳴った。
春が目を覚ます。

ほら、視たとおり。
迅はさっとスマホをポケットに戻して腕をのばした。ぽすり、と背中から降ってくる春を抱え込む。少しばかり後ろに倒れかけたけれど、不測の事態ではないので何とか踏ん張った。

「〜〜っ?!」

目をぱちくりとしている春を覗き込んだ。

「おはよ、おかえり春さん」

この状態は一体なんだ?と混乱しきりの春は「おはよう」より先に「ただいま」とへらりと笑った。
嵐山がそんな春を見ながら頭をかいている。

「嵐山を寝起きで襲う春さんの写真がこちらにあります」
「え?は?いやいやいや?!」
「・・・・迅」
「これを流したら春さんは嵐山ファンクラブからの除名は免れないだろうなぁ〜」
「待って!ものすごく待って!ねおきなう!あたまはたらいてないですなう!!濡れ衣こわい!え、なになにユーイチ君に何かわるいことしたかな私?!」
「消してほしい?」
「ほしいです!」
「じゃあ、玉狛移籍する?」
「いやいやいやいやいや、それはちょっとどうだろうな?!私が玉狛行くとチートすぎないかな玉狛が?バランス大事だよ?!私はね、それでもいいのだけどもね?いや駄目か・・・・だめだな無理、絶対仕事にならない、あそこには天使がいるからな・・・・召される。正気でいられる自信がない。無理だー!」
「春さんには何が視えてんの?」
「だから天使だってば!」
「天使・・・・?視えるっていうのは迅のこどものころだろう?」
「嵐山君・・・・ちっちゃいユーイチ君の可愛さときたら殺人級だから!!嵐山君だって妹ちゃんたちは天使でしょ?」

なるほど、と頷いた後で嵐山は首を傾げる。納得のいかないことがあった。

「けど春さん、妹や弟とは24時間一緒にいたくならないか?」
「光属性の人に聞いたのが間違いだった。無理だ・・・私は真っ黒な組織に長居しすぎたんだ・・・・私の手は真っ黒に染まってるんだ!!うううう、無理ですあんなピュアなイキモノに触れて許されるわけもない!!」
「今のおれよりそっちがいいの?」
「今のユーイチ君なんか、その百万倍くらい尊いからもっと無理です」

迅に抱えられて両手を組んで神様に祈るみたいに春は叫び倒している。寝起きのせいでテンションのブレーキが壊れているようだった。そもそも、今回はかなり長い出張だったので疲れもたまっていたのだろう。
嵐山は唐突に閃いた。迅はこれだって視えていたのだろうか。
ぱしゃり、と取り出した端末で写真を撮った。迅と、春を。

「すまない春さん、呼び出しなんだ」
「待って嵐山君?今何か撮ったよね?ね?何を普通に会話して去っていこうとしてるの?え、え、え?時差ボケのせい?ききまちがい?シャッター音しなかったかな今」
「迅、おれと春さんの写真流してもいいぞ。そのあとすぐに俺も今撮った写真を降谷さんに回すからな?」
「あー、なるほどそうくるのか。ってか嵐山、降谷さんと連絡とれんの?おれ、連絡先交換してもらえなかったんだけど」
「そうなのか?普通にこの間テレビ局で出くわしたときに名刺をもらったぞ?」
「え、それめっちゃレアだよ?降谷さんの名刺とかむしろ私も貰ったことないな?!失くさないようにね?もしもの時のお守りにしたらいいと思う御利益あるよぜったい!」
「太刀川さんも知ってるはずだぞ?」
「え、知らないのおれだけ?」

迅が口をとがらせた。

「・・・ユーイチ君はむしろ盗聴器つけられてそうだから気を付けて」
「春さんちも盗聴器だらけだもんね」
「知らぬ間にGPS体内に埋め込まれてても驚かないな・・・まぁちょいちょい誘拐されたりしてたから仕方ないんだけど・・・・あの人たち手段を選ばないからね・・・・」

そういう所はボーダーとよく似ている、と春が笑いながら言う。

「唐沢さんが冗談交じりに口説いていたぞ?うちで働きませんか?って」
「唐沢さんはけっこうなギャンブラー・・・・でも無理無理、あの二人自分のお仕事大好きだからね。ダメ元で当たってみるのが唐沢さんのすごいところというか」
「とにかく、ダメだからな迅。変な噂をこれ以上流したら、保護者二人が黙ってない」
「春さんが隙だらけなのがわるいと思うけどね〜おれは」
「かえすことばもない!だがしかし、その写真は消そう!何かの拍子でうっかりとかあったら大事故だからね!さぁさぁユーイチ君!私のモンペ二人が召喚されちゃうよ?」
「もうちょい怒ってもらった方がいいんじゃない?」
「・・・あ、あはは、ユーイチ君けっこうおこって、る?」
「ん?なにに?」

春の顔色はじわりと青くなる。確かに、これはけっこう露骨かもしれない。嵐山は喉を鳴らして笑った。
好きな子をいじめるのはよくないぞ、と出かけた言葉をぐっと飲み込んだ。あまりからかいすぎると春がパンクするのが未来視がなくても目に見えた。

「出張中寝てないでしょ」
「・・・・おしごとなので、その、えっと、」
「クマできてるしさ、無理ばっかしてたらダメだよ」

もごもごと、春が言いよどむ。
しょっちゅう暗躍していて、いつだってトリオン体でいる自分をかなり棚に上げて迅はお小言を重ねた。嵐山としては、その意識をぜひとも自分自身にも向けるべきだと思った。迅も、春も、他人の心配ばかりしていて自分のことときたら後回しなのだ。

「だって、」

はやく帰ってきたかったから、と小さく縮こまるように背を丸めて指先をにぎにぎと動かし呟いた春に迅が撃沈しているのを見届けてから、春の呼び出し先は開発室のはずだから、途中でもう少しだけ遅くなるかもしれないとついでに伝えておこうと、嵐山はその場を颯爽と後にした。











「春さんって、ああいうとこあるよね」

迅が言う。
ああいうところ、とは先だってのことだろう。嵐山は会議の資料を読みながら頷いた。「そうだな」という嵐山の相槌に迅は気をよくした。
嵐山の「そうだな」、の後に続く言葉を迅は知らない。


( でも、そういうところが好きなんだろう? )






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32:ヒロインが酔っ払った(もしくは寝起きなど)状態で迅と間違えて嵐山とイチャイチャ。それを発見した迅がめっちゃ焦る。どうにかしようとする話










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