50万打御礼企画 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



15:はつこい (WT長編)


夢をみた。
幼いころの夢だ。



迅悠一の幼少期は決して愉快なものではなかった。優しい母や理解ある大人に恵まれても、それでも。敏感な同世代のこどもたちにとって、迅悠一は『異質』だった。
へんなことをいう奴、と絡まれることも多くて、いつも迅は泣いていた。家に帰って泣くと母が心配するから、帰り道の途中で隠れるようにして。
うずくまって、ひざを抱えて。そうすれば何も視ずにすむ。
幼い日の記憶は、嫌な記憶と、それをおぎなって余りある母からの愛情でできている。

じぶんのせいで、母まで悪しざまにいわれるのが迅は我慢ならなかった。
いい子にならねば、とおもうのにうまくいかない。

夢を見ていると自覚があった。
幼い日々の夢の終わりがどこであるのか、迅は知っている。迅が誰かに甘えれる幼少期は、最愛の母を失った瞬間に終わったのだ。
最上がいたけれど。それでも。


母の最期を夢に見るのは自分の調子が落ちている時だ。
よくない傾向だな、と自己分析をしながら夢を見る、という不思議な状態だった。

だが、この日の夢の終わりは違った。時系列がぐちゃぐちゃなのはまさしく夢らしくはあった。
泣いている迅に誰かが言った。


『泣くなら、わたしの見えるところにして!』


あの日、迅は目に砂が入ってしまっていて、ずっと目がうまく開けられなかった。
覚えている。この後、迅は誰だかわからない少女と、近所のカメラ屋の店主に遊んでもらったのだ。冷たいハンカチが目にあてられた。夢の中のちいさな迅が、あの日と同じに「ありがとう」と口をひらいた。

――あの、ハンカチはどこへしまったんだっけ。

思い出せない。一時期は大事にしすぎて最上にしばしば呆れられていたのに。たぶん、ハンカチを大事にするよりも、ボーダーが忙しくなりすぎて、どこかへ仕舞い込んだままになっているのだろう。気になると、早く目を覚ましてハンカチが探したくなってきた。だってアレは迅の宝物のひとつなのだ。
ずっと忘れていたけれど、確かに。

目が開けたかった。
じぶんを叱った女の子は、どんな顔しているんだろう。

でも迅はハンカチを目に押し付けたままだった。
あの時、自分がどうして目を開けれなかったのか、年を取った今ならわかる。
恐かったのだ。何かが、視えてしまうのだ。視えて、うっかり変なことを言ったら、またこの子も自分を気味悪がるかもしれない。
気味悪がっているその子の『みらい』が視たくなかった。だから迅はかたくなにハンカチを押し付けていた。もう涙なんて出ていなかったのに。

ぼーん、と店内に置かれているらしい古時計の音がした。慌てたような気配がして、迅の頭を撫でていた手が離れていく。
そうだ、彼女はこれで行ってしまう。迅の手元に残ったのは、ぼんちだけだ。


( どんな子だったんだろ )


――なんで顔見とかないんだよ、あと名前。それが男としての礼儀ってもんだぞ?

なんて後から最上にからかわれた。顔も名前も知らない、女の子。
でもきっと、あれが迅の初恋だった。
初恋は檸檬の味とかいうが、迅にはぼんちの味になった。


みたいな、と思った。夢は夢だ。迅が視てないものを、見せてはくれない――はずだった。


( ・・・え? ) 


視界がゆっくりと開けていく。まぶしくて何度もまばたきした。焦点がしだいに目の前で心配そうにこちらを振り返っていたおんなのこに定まった。目がちかちかした。ちいさな迅はそのこをじっと見つめている。過去の夢だと思っていたら、そこに自分の願望が混じったのだろうか。


『だいじょうぶ? もう痛くないの?』


女の子はそう言った。迅はその子を知っている。
小さくても、変わらない面影が、確かにあった。



「――春、さん?」
「なーに?」

目の前に、春の顔があった。迅はこれが夢の続きなのか、現実なのかをイマイチ測り兼ねていた。
うたたねをしていた迅に毛布をかけて、それから横でずっと本を読んでいたらしい。名前を呼ばれて返事をした、と春が笑った。何の夢見てたの?と。


「・・・・・春さん、おれたちってさ、前に会ったことある?」


春はぱちり、と瞬きした。
あれはただの願望かもしれない。傍にいる、春の気配につられただけで、深い意味はないかもしれない。迅は過去を見る能力を生憎と持っていないのだ。それでも。

「前って?」
「こどものころ」
「・・・・ええっと、」


春が口ごもる。いきなり何を言い出したんだろう、と困惑しているのか、実はあったことがあったのを隠しておきたいのか。


「ねえ、春さん」


迅はじり、と片方の膝をソファにのせて、春に詰め寄った。


「俺のはつこいの話、しようか?」


寝起きだけれど、ぼんちあげを食べながら。昔話をした。
――迅のはつこい。
その相手が、春だったらいいとそう思いながら。








−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
24:迅が過去に夢主と会っていたことに気づく話

夢主と出会ってたんじゃ?とふんわり思い始めてるくらいのお話しになりましたー。
気付くのは本編で書けたらいい、なぁ。。。ガンバリマス。
このあと、夢主は「はつこいの人」である過去の自分に何とも言えない気持ちになるに違いない…。白状するかどうかは、読み手様しだいで〜^^ 
御礼企画文だから、楽しんでもらえたらそれでもうオッケーかな!という。















back