50万打御礼企画 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



09:ひねくれた二人の不器用な優しさについて:3ライ


「あと一息じゃない、もう押し倒しなさいよ」

棋士の娘さんはとんでもないことをいいながら、一枚の紙切れを差し出した。そこには香子らしい字で、ある住所が書かれている。

「・・・?」
「島田の住所よ」
「は?」

それを私に渡してどうしろというのか。怪訝な顔をしたら、鈍いわね、と呆れられた。悪いのは私ですか?!

「押しかけて押し倒しなさいよ」
「・・・・むり!無理無理無理!無理です!押したらそのままどん引きされる可能性のが大じゃないですか?!」
「もうそういう段階は終わったのよ。それで引くぐらいなら、あんたの熱烈アピールの段階できられてるわよ」
「ね、熱烈?!しつこかったかな?!」
「あ、あのジャケット可愛い」

現在、実は香子ちゃんとウィンドウショッピング真っ最中なのだ。おしゃれさんの香子ちゃんに、大人っぽい服を見繕ってもらっている。

「ちょっと香子ちゃん話真面目に聞いて?!」
「あんたの話は半分くらい惚気でしょ。マジメに聞いた方が馬鹿観るじゃない」

その認識はおかしい。

「こういう個人情報流すの駄目だってば」
「棋士の世界なんて狭いんだから、今さらすぎ」

ぐうの音もでない。将棋の家の子は、棋士に対しても一般の人よりも垣根が低いのかもしれない。同じ、人間なんだとより実感として知っている。

「島田さんはトイレなんか行かない!とか言い出さないわよね?」とおかしなものでも見るような目で見られたのでそこは断固否定しておいた。そりゃ、多少アイドルへの憧れのようなところはあるかもしれなかったけれど。憧れからの神格化をしていないか、美化をしすぎていないか、という問いかけはいつだって自分の心の片隅にある。
ただ一人の、男の人としての、島田開と言う人を、私はまださして知らないのだという事実は結構凹む。



「へー、トイレ行かないのかお前」
「・・・・行きますよ」


後ろから声がして、私はこの日、心の底から神様を呪った。ジーザス!
ギギギ、と錆びたブリキ人形のごとく私は後ろを振り返った。


「し、まださん」


私は死んだ。羞恥で。


「酒もたばこも女も好きだよな」
「・・・・後藤さん、あんたもう黙っててもらえます?」
「こんなところで何やってるのよ後藤」
「あの島田さん、今のはきょーこちゃんが言ってただけで、私はそんな全然思ってませんから!!酒もたばこも女もお好きならそこにちょこーっと私を並べてもらえたら嬉しいなとかそんな、」
「指導対局の帰りだよ島田と同じ会場でな」


復活して言い訳をする。私は島田さんしか見てないし、香子ちゃんは後藤さんしか見ていないから会話がものすごい交錯しているが、そんなことにはかまっていられない。後藤さんに香子ちゃん。この組み合わせは良くない。非常によくない。
私と島田さんのことを最も茶化してくるのに定評のある二人なのだ。


「お前らはあれか。二人仲良くストーカーか」


違うわボケ。――おっと、口が滑りかけた。私は心の声を口に出す前にぐっと飲み込んだ。


「・・・ストーカーするのにこんな大荷物抱えてるわけないじゃないですか」

自意識過剰かよ、と思う。いや冗談なんだろうけれど。笑えなさすぎる冗談である。言葉があまりにストレートすぎて、だからこの人は勘違いされるのだ。とがったナイフのようで、割とデリケートな精神しているくせに。


「普段はやってる自覚あるわけか」
「ファンです。ただの、おっかけです」
「・・・後藤さん、年下からかうの趣味が悪いですよ」
「良かったな、まんざらでもないそうだ」

喜んでいいところかなんだろうかこれ。流れるように後藤さんの隣に移動した香子ちゃんブラボーすぎる。歪みない。それでも、絶妙な距離だ。この二人の関係も、中々難儀なのを知っているから余計にその距離感が切ない気持ちにさせるのだ。だがしかし、二人並んで嫌な顔だ。おい、しんみりさせておいてくれ。その顔やめて。


「じゃ、あとは二人でごゆっくり〜?」
「島田、ストーカー被害届出すなら交番はすぐそこだからな」

ひらひらと手を振り、後藤さんが嫌な助言を残して去っていく。香子がその後ろを追いかけていく。だから・・・・なんで、そういう言い方しか出来ないんですか貴方たち。

ぽつんと二人とり残されて、島田さんと顔を見合わせた。

「買い物はもう終わったのか?」
「は、はいっ」

両手に下げたショッピングバッグを見せると「女の子はすごいな・・・」と島田さんが目を丸くした後、そのまま私の手からその荷物をさっととった。

「春ちゃん、この後の予定はあったりする?」
「香子ちゃんとお茶してからバイト先に行くつもりだったんですけど、これは振られましたね・・・あ、あの荷物大丈夫ですよ?!ちゃんと、その自分で、」
「指導対局終わりで、後藤さんと何か飲むかって話してたところだったから、振られもの同志お茶でもしてかないか?」


前言撤回。あの二人はとっても気を利かせてくれたのかもしれない。私は島田さんの言葉に全力で頷いて、近くの喫茶店でバイトの時間ぎりぎりまでお茶をした。ありがとう香子ちゃん、後藤さん!この御礼はいつか必ず!!と思いつつ、私は心の中でガッツポーズを決めた。








−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
29:きょーこちゃんとデート!(可能なら島田さんと後藤さんと遭遇)

数年ぶりに香子ちゃんと後藤さん書きました!バイトの設定もふんわり思い出しつつ。最終的に島田さんとデートしてるじゃねえか!って話なんですけどね!!
すいませんもっと香子ちゃんとのデートパートいっぱい書けばよかった・・・。反省。






back