恋するパラメーター
「なにやってるの零くん?」
きょとん、とした顔で結は尋ねた。手には数枚の紙。
「え、あ、や、ちょっと、研究を・・・」
「へー」
対局って相手の細かいとこも調べるんだねえ、と桐山お手製の調書をぺらりぺらりとめくっている。口ごもってしまったのは、彼女の島田への熱烈なアタックを知っているからだ。まさか貴方の懸想してらっしゃる方を、あかりの結婚相手にふさわしいかチェックしてましたとは、空気を読めない新人類と先輩に言わしめる桐山とて口が裂けても言わない分別はあった。
リストの割と最初の方に名前を書いた先輩棋士。歳はかなりいっているが、優しく包容力があり紳士的。真面目。島田開はあかりの結婚相手に結構理想的かもしれないとは思っている。
「優しさ?とか、ちょっと零くんこの島田さんのパラメーターなに!」
ぎくり、と体がこわばる。
品定めをしていたのがばれたのか。
「評価低すぎる!零くんは島田さんのポテンシャルを甘く見積もりすぎだよ!」
まったくもう!と結は口をとがらせた。
そしておもむろに筆箱から赤ペンを取り出した。零の引いた線の上に、新しい赤い線が引かれていく。きゅ、きゅ、きゅ。楽しそうな横顔だ。
「・・・・って、結さんソレ」
「んー?」
差し出された島田のパラメーターを見る。
「全部、満点ですか・・・」
「満点ですよ」
やりきった、とばかりに結は渾身のドヤ顔だ。
「結さんて・・・・」
桐山は毒気が抜けたように微苦笑した。
「島田さんのこと、ほんっと大好きですよね」
なにをいまさら、と結は笑った。
それがさらに桐山のいたたまれなさと申し訳なさをぐわりと煽り、そそくさと紙の束を鞄に突っ込んだ。
恋する彼女のパラメーターはいつだって振り切れんばかりに全開だった。