そして、彼に告げられる言葉
「ごめん、結ちゃん」
島田さんがつらそうに、まゆを顰めて、言う。
「君の、気持ちは受け取れない」
俺なんかにはもったいない、だから、と続けられることばに、心が抉られる。
胃が痛むのか、おなかを押さえる島田さんを見て更に頭が真っ白になっていく。
「もう、こういうのは……ヤメにしよう……」
手渡そうとしていた差し入れがそっと押し返される。
手がかすかに震えている。何かを言わなきゃ、言わなきゃ、このまま終わってしまう。それがわかっているのに、言葉が出てこない。
「今日まで、ありがとう」
線が引かれて、立ち入り禁止の看板が立てられて、島田さんとの距離が開いていく。
「嬉しかった」
握り締めた差し入れが、ぐしゃぐしゃになってしまったかもしれない。
「これまで、ありがとう」
お別れの言葉だ。これでおわりなのだ、とわかっているのに、心が追いつかない。
何もいえなかった。
涙のひとつも出てきてくれないのが、いっそ不思議なくらいだ。泣いてすがれば、なかったことにしてくれないだろうか?いや、島田さんはもう答えを出したのだ。
涙の一粒でも出てくれたら、もう一度くらい触れてもらえたかもしれないのに。
――これまで、ありがとう。
その一言が最後だった。
「しま、ださん……」
振り絞る。ありったけの勇気をかきあつめて、
「私のほうこそ、ありがとうございました」
背伸びして、手をのばして、必死でしがみついていた恋だった。
「これからも、ずっとファンで、応援して、ます」
――君にふさわしい人は、きっと他にいるから。
島田さんにこそふさわしくありたかった。大好きな人が去っていく。
その後姿を見送って。
一つだけ、決めていたことがあった。
この恋のルール。
『島田さんに迷惑をかけない、断られたら潔く諦める。』
ふりしぼるように答えを切り出した島田さんは、きっと島田さんなりにたくさん考えて悩んでくれたんだろう。胃が痛むほどに。そんな顔を自分のせいでさせたくなんかなかったのに。
受け入れろ受け入れろ受け入れろ。
そう自分に言い聞かせるのに、うまくいかない。
恋のルールなんてちっとも守れそうにない。潔く、なんてなれない。
好きで、好きで、どうしようもなく好きで。
この気持ちをどうしたらいいのか、もう、わからなかった。
告げられた言葉が、刃のように突き刺さって、心が血まみれで、もうどうしようもなかった。