上司サンド:BBB | ナノ
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02 : Hilfe!!


私、アリス・V・ローゼンシュタインは自分のミッションの罪深さに打ち震えている。

(お兄様……私には!私には無理ですぅううう!)

ラインヘルツ家の三男坊を篭絡してこい、なんて見も蓋もないミッションに意気込んで(泣きながら)このHLにやってきたものの、もう逃げ出したくてしようがない。何故ってもう後ろめたさで死にそうだからだ。
お兄様がたは牙狩りとして、クラウスさんと交流があった上でこんな見も蓋もない計画をよくたてられたものである。鬼か。鬼なのか。こんないい人に!(というよりもそこに目をつけられてしまったというべきかもしれない)我が家族ながらすがすがしいほどの外道である。
クラウス・V・ラインヘルツ氏は初対面こそバッドコミュニケーションとなってしまったけれど、ほんとうにほんとうにほんっとーに、素敵で優しくて頼りになり多分私はこれまでの人生で一番親切にしてもらっている自信がある。
ギルベルトさんが入れてくださった紅茶を飲みながら、

(あ、わたし今すごく幸せなう)とかってうっかりSNSとかで呟きたいくらいだ。(呟かないけれども!)

「アリス、何か不便はないだろうか?君の兄上がたには大変お世話になったのだ。ライブラの本部に間借りで困ったことがあれば遠慮なく言って欲しい、すぐに改善しよう」

やめて!私にそんな優しい言葉をかけないでくださいクラウスさん!!翠の瞳がまぶしいですクラウスさん!私、浄化されちゃいそうですクラウスさん!

そもそもクラウスさんの寝込みを襲いやすくするために(勿論既成事実を狙っていく方向である)『安全のため』なんてこじつけでお兄様がたが無理やりねじこんだだけなんです!不便とかそんなむしろ快適すぎてこちらが申し訳なくなるくらいなんです。
泣いてお詫び申し上げたい。せめて、上の姉さまがたのような美人で有能なかたを派遣すればよかったのに!私みたいなのにクラウスさんを篭絡してこいなんて無理です。無理。
クラウスさんの優しさに感激していたら、大きな体でおろおろとクラウスさんが私を心配そうに見つめている。なんかでかいイキモノ、とか言って怯えたあげくに卒倒した私許すまじ。

お世話になったのだ、とかいってらっしゃったが十中八九、あの兄さまたちが他人のお世話なんてするはずがないのだ(確信)
そして数週間一緒に過ごして理解した。ラインヘルツ家、本人に何も言ってないねコレ!ライブラ本部、ひとつ屋根の下で半同棲みたいになっているのは両家の暗黙の了解のなせるわざだ。事実上、クラウスさんの婚約者候補扱いなのだけれど、クラウスさんにその認識がない。
ここまでいい人すぎるとむしろ心配だ。いや私みたいなのに心配されるのは心外かもしれないけれど。というか、クラウスさんにはありのままのクラウスさんでいて欲しい気はするのだけれど。三男坊で油断しすぎですよクラウスさん!貴方いまめちゃちゃ厄介な一族に目を付けられてるんですよ?わたしなんかに優しくしてたらいつの間にか気づいたらチャペルとかなっちゃいますからね?

「とっても、快適です!!」

がしり、とクラウスさんの手を握り締める。数週間かけてやっとお手手をつなぐところにこぎつけました、とかどや顔で報告したらしばらく仕送りが止められて酷い目にあったのも今や昔である。

「日に何度もパニくって俺のところに電話してきたのが懐かしいくらいだよなぁ」

――ひっ、と私は思わず悲鳴をあげて飛び上がった。
思わずあがった足がテーブルを揺らしたせいで、ギルベルトさんが入れてくれた紅茶のカップがかちゃりと音を鳴らす。こぼれては、いないようだ。
ふぅ、と一息つくと私は原因を振り仰ぎ精一杯(ほんとうに精一杯)睨んだ。あまり効果がないのは勿論わかっている。

「すてぃーぶんさん……」
「ただいまクラウス。せっかくの二人のお茶会を邪魔して悪いね」
「おつかれだったな。すぐに君のものも用意させよう」

わたしのことはスルーか!睨みつけてくる子どもをあやすように頭を撫でられた挙句にこのスルーである。大人の余裕がにくったらしい。
クラウスさんと二人でいるととたんにそこへスティーブさんがやってくる。クラウスさん本人に伝わっていない意図も、副官殿はきちんと理解しているようだ。スティーブンさんがいる限り、変な女や一族にクラウスさんがかっさらわれてしまう心配なんて皆無だろう。ありのままのクラウスさんは守られたのだ……、とか感動してしまう。
クラウスさん攻略において何が一番大変かって、そりゃ勿論この人の鉄壁の防壁だ。あんしんあんしん。
クラウスさんに近寄る蛆虫(自分含む)なんて、スティーブンさんの鍛え上げられた両の脚でプチっと踏み潰されてしまうのだ。ここに来たばかりのころときたらもう私はスティーブンさんの笑顔で凍死寸前だった。今は…もはやこれは脅威にあらず、と認識されているのか以前よりは、以前より、は多少あたりもやわらかくなってきている。ほんとに。多少だけれど。真っ黒な笑顔のスティーブンさんにプチっと踏み潰される夢を三日に一度は未だに見ることがある、というのは私だけの秘密である。こわいこわいこわい!えすめらるだしきけっとーどうこわい!

「いや、それでいいよ」
「ううっ?!あ、わ、わたしのかふぇらてが……!!」
「一口ぐらいいいだろう?」
「いや、そんな、」
「いいだろ?」
「……イイトモー(諦め)」

私の目の前からカップが強奪されていき、あまつさえ空いたソファの隣にスティーブンさんが座り込む。スラリとした(私を何度となく夢の中で踏み潰す)長い足がいっそ芸術的な角度で組まれるのを「ぐぬぬ」と見つめる。
私の諦め混じりの返事にすぐさまクラウスさんが「す、すまない、すぐに代わりを用意しよう!」とギルベルトさんにお願いしてくださった。天使だ。

「疲れた上司のお願いを“直属”の部下たるアリスは嫌がったりしないよな?」
「モチロンデストモー」

にっこりにこにこ。笑顔が!こわいよー!
ひくひくと顔がひきつっていたら、容赦なくほっぺをつねられた。「いひゃいれす!」という抗議もむなしく慌てるクラウスさんに「これが部下とのコミュニケーションだから」なんて嘘をさらりとのたまい、ぷにぷにと私のほっぺたは横暴な上司に蹂躙された。



拝啓、お兄様、お姉様。
そろそろ、おうちがこいしいです。HLは今日もいい霧具合のはずなのに私の心はいつだってぶりざーとにさらされてます。ほっかいろ?じゃぱにーずあいてむらしいソレをおくってもらえるとうれしいです。
クラウスさん攻略はまだあいなりません。最凶のセコムを前に私は……私は……、



後日、もうセコムの方でいいからとりあえず押し倒しておけとかいう身も蓋もないお手紙が大量のほっかいろと供に送られてきました。
わたしにみかたなんていなかった!!(絶望)


Hilfe!!
(助けて!)


みかたが、ほしい!








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