上司サンド:BBB | ナノ
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13:Something There


「すきです、あいしてます“スティーブンさん”」


耳の奥でその小さな声が大音量で響いていた。
聞きたくない、その言葉を聞いていられない。がんがんと頭が割れそうだった。


「だれよりも、あなたがすきなんです」


にぎった手のひらが力をこめすぎたせいで血が滲んでいる。それでも力を入れていないと、その拳が何をしでかしてしまうのか。恐ろしくて、とてもではないが力を緩めるなんてできそうになかった。


「すき、だいすき“スティーブンさん”だけです」


何故。
何故こんなにも苦しいのか。クラウスは自問する。しかし、純朴に過ぎる彼はその答えを導き出すに至らない。ただ、身のうちでのた打ち回る正体不明の感情が暴走してしまわぬことだけに必死だったのだ。

――なぜ、じぶんではないのか。

その口で愛を囁かれるのが自分であれば、などと。
なんて愚かしいことを。これは彼女の意思ではない。彼女に請われるままに、彼女を膝に乗せ、機械的な愛の言葉を囁かれている長年の友人の意思でもない。
これは全て、事件にまきこまれてしまったことによる不運な副作用だ。だからこそ、こんな場面を仲間に見られていたことを後々彼女が知れば気まずいだろう、とメンバー全員で席をはずすことになった。


「スティーブンさん、好きなんです」と、彼女はひたすらにテンプレートな愛の言葉を繰り返している。


「きいてますか?」
「きいてるきいてる」
「すきです」
「はいはい」


後ろ髪が引かれる。喉が渇いて仕方なかった。わずかに漏れ出てしまった殺気じみた気配に気がついたのかスティーブンがクラウスを見た。「よそみしないでください」と彼女が泣きべそをかき始めたから、一瞬だったが。
スティーブンの手が、ポンとアリスの頭を撫でる。

「クラっち、さっ行きましょ」
「あとはお二人でごゆっくり〜」

ソファからひらひらと手を振るスティーブンの後姿と、その首にすがるように回された白い腕がガラスごしの目に焼きついて離れない。


(愛を囁かれたい獣)


後日、とてもつもなく照れて照れて照れまくっていたアリスが、スティーブンをさけてクラウスにべったりひっついてきた。困惑しつつも、どこかクラウスはほっとした心持で、そっとあの日撫でたくて、触れたくて仕方なかったアリスの頭を撫でた。









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