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僕らのカレーライス論争 (織田作)


「織田作さんとはカレーの趣味が合わない」
「そうか?」
「致命的だと思うんです。カレーってのは今や家庭料理の定番だというのに、そこの好みが違うって・・・・」
「春の作るものは何でもうまいぞ」
「・・・・でも好物のカレーは私のカレーじゃないでしょ?」
「どのカレーもそれぞれが最高の味だ。そこに優劣はないと思うんだが」
「・・・・」
「あきらめなよ春ちゃん。君の料理が世界一さ!ってセリフは代わりに私が言ってあげよう!」
「太宰さんは黙っていてください」
「・・・?そのセリフを言えば春は嬉しいのか?」

ならば言うぞ、と織田作がきょとんとした顔をする。そういう問題じゃないのだ。
春は頭を抱えた。太宰は余計なことしか言わない。

「太宰さん、私の料理を食べていいのは織田作さんだけです」
「そりゃそうさ!君のランダムクッキングに耐えれるは織田作だけだものねぇ」
「・・・・・織田作さんはいつでも正直に感想をくださいます」

春の料理は最高の味だ。
どんな食材だろうが、春の手にかかれば最高のフルコースへと姿を変える。だが、しかし――非常に残念なことにその完璧な料理は毎回提供されるわけではない。

「前回は食べる寸前に死ぬのが視えたからな」
「危なく織田作さんを殺害してしまうところでした・・・回避できてよかった・・・」

ごくまれに。ランダムにそれは発動してしまう。
春の能力『最後の晩餐』は異能殺しの能力としてマフィア内部で重宝されている。彼女は料理を愛しているが、彼女の料理は時に『異能を消滅』させ、時に『異能者を殺す』のだ。そして、恐ろしいことに、常人ならば食べてもなんら問題なく、そこに何の痕跡も残らない。こと、異能者に対しては完全犯罪が成立する。
彼女はよくよく敵対組織の厨房に潜入しては、その能力をいかんなく発揮しているのだ。


「異能を無効化する私と、異能を殺す春ちゃんって運命感じな〜い?」
「感じません」
「すげないなぁ」
「太宰さんは少し甘やかすと調子にのるんです。織田作さんも甘やかしちゃだめです」
「甘いか?」
「甘いですよ。ほら、そうやってすぐに私の愛の手料理を分けてあげちゃうんだから・・・」

腹が空いているのだろう、と太宰のために織田作は取り皿に料理をよそっている。

「うまいからな。だがカレーは辛いから甘くはないんじゃないか?」
「織田作さんだけが美味しいと思ってくれたらそれでいいんです。そして甘い辛いはカレーの話じゃない・・・・いや、もういいんです。そんな織田作さんが私は好きですから・・・・」
「そうなのか?」
「そうです」

春としては結構アピールしているつもりだが、織田作はまたカレーにスプーンを突っ込んで「うまいな」とだけ言った。この人の生きているテンポはまさに天衣無縫である。

「思ったんだが、」

織田作がこの後「太宰が春に触れながら料理をしたら普通の料理ができあがるんじゃないか」なんて言ったものだから、太宰はますますウザ絡みをエスカレートさせた。








「そもそも、織田作さんは!私がべたべた太宰さんに触られながら料理をしてていいんですか?!」

「そうだな・・・」

肯定されてしまうと、ますます春としては立つ瀬がない。
だがすぐに織田作はこう続けた。

「そうすることで、どんな料理でも食べれるようになるのならいいと思う。時々、春の料理を食べれないのは酷く残念なんだ」

「・・・太宰さん、今度やってみましょうか」

「君、ちょっと織田作に甘すぎると思うよ」

「織田作さんが目下食べてるカレーは激辛です」

「同じボケはいいからさぁ〜〜、ああもうっ、ごちそうさま!」

「まだ食べ終わってないだろう?」

織田作が不思議そうに太宰を見やり、ぱくりとまたスプーンを口に運んだ。
そして想像した。先日も、見るからに美味しそうな料理があった。「織田作さん、できましたよ!」と嬉しそうに春が言う。だが、次の瞬間にその食事を口にして倒れる自分が『天衣無縫』によって見えた。箸をのばしかけていた織田作が手を止めた瞬間に、春の表情がくしゃりと歪む。せっかく夕食に招いてくれたのに春は「外食にしましょう」と肩を落として言った。織田作のためにと用意された食事の全てをゴミ箱へと春が捨てようとするものだから、あわててそれを止めた。料理は織田作が面倒を見ている子供たちのところへ差入れとして持っていった。子供らは随分喜んで食べていたが、織田作が食べたのは下の亭主が作ってくれたカレーだ。それとて勿論十分に腹を満たしたが、春のつくった料理を織田作とて食べたかった。異能者であるがゆえに。
無邪気にいつでも「また食べたい」と強請れるこどもたちが、たまらなく羨ましいと織田作は感じていたのだ。

だが。
春の腰に手を回し、台所で二人が並んでいる姿までを想像してから。ごくん、と飲み込んだカレーの味が一瞬わからなくなる。もしや春の異能が発動してしまったかとも思ったがそうではない。だた、そう。二人が並んで台所に立っていると、嫌に仲睦まじく見えて。想像しただけで、どこか胸がむかむかとする。

「・・・食べ過ぎたか?」
「まだいつもの半分も食べてないですよ?」

きょとんとした春がこちらをのぞきこんでくる。

「春」

なんですか?と春が首を傾げた。

「君の料理は世界で一番おいしい」

「・・・・・」

春は一拍おいてから、顔を瞬時に真っ赤にさせた。まるで桃だ。うまそうだな、と正直にその頬に手をのばすと「そんな冗談を?!織田作さんが?!」と春は更に赤くなって、いっそ林檎のようだ。

「織田作は冗談をいわないよ〜」
「うるさい太宰さん!もうっ、もうっ!!私はデザートを取ってきます!!」

叫びながら春はデザートの保管してあるらしい冷蔵庫へと逃げて行った。

「何故怒ったんだ春は?」
「織田作はもう少し女心について勉強したほうがいいかなぁ・・・春ちゃんってば苦労が絶えないね」
「春は何か苦労をしてるのか」

ならばいつも美味い物を喰わせてもらっている身としては何とかしたい、と織田作は思う。
太宰は曖昧な笑みを浮かべた。

「そうだね、春ちゃんはね、」
「太宰さんっ!

仁王立ちの春が両手にデザートの桃のタルトを持って現れた。天衣無縫は何も見せない。これは食べても問題ない。いや問題があっても、あんなに美味しそうなのだから、食べたいが。
太宰は言いかけた言葉を引っ込めたのか「私も食べれそう?」と織田作を伺う。問題ない、と頷けば嬉しそうにフォークの用意をしに席をたった。


「太宰さん、余計なこと言わないでくださいってば」
「余計なこと〜?私はな〜〜んにも言っちゃいないよ?ただね、春ちゃんは『恋という名の不治の病なんだよ』ってことを教えてあげようとは思ったけど」
「太宰さんのケーキにだけ異能が発動したらいいのに」
「無効化できるかやってみる〜?」
「太宰さんから能力を取ったら、少しも役に立たないじゃないですか。ボスに怒られるのは私ですよ?!」
「ねぇ、春ちゃん」

太宰は笑って、それから自信たっぷりに言った。

「大丈夫、君の恋の特効薬はいつか必ず手に入るさ」

胡散臭いことこの上ないのに、何故か妙な説得力がある。前言撤回は悔しいからしないけれど、能力なしでも、太宰はマフィアで幹部をやっていけるだろう。口八丁手八丁。なのになぜだか、人を引き込む。まったくもって怖い男だ。


「いいから黙ってフォークを運んでください」

「カレーの後にタルトってのもどうなんだい?」

「私のつくるものにケチをつけていいのはこの世で織田作さんだけです」

「織田作は言わないから代わりに私が言っているのに〜〜?」

「何か手伝おう」

カレーを食べ終えたらしい織田作がいつの間にかすぐそばに立っていて、その胸板にどすんとうっかりぶつかってしまう。落っことしかけたケーキ皿を、視えていたのかひょいと織田作がキャッチした。

「すまん、驚かせるつもりは」

「いいいいえ!ケーキ食べましょう!さぁさぁ早く!」

「ふふふ」

「どうした太宰?」

「いやね、悪くないなと思って」

太宰は目を細めた。逃げ出していくみたいにテーブルに駆けていく春をゆっくりと二人で追いかける。歩幅が違うせいか、すぐに追いつくのだ。慌てる必要はない。

「悪くない、とーっても」

「そうか」

太宰はそれから「ずーっと、こうだといいのだけどねぇ」と呟いた。

「太宰さん、なんかいいましたぁ?」

春が「早く!」と照れ交じりに急かす。

「春ちゃんのカレーがあと少し甘くなったらいいのになって話」

「次は更なる激辛を太宰さんにお届けしましょう」

「おや、次のお誘いとは嬉しいね」

「・・・・・織田作さん、何かリクエストありませんか?」

「春のつくるものは何でも美味しい」

「はいはい、エンドレスループになるからいちゃつくのはその辺ね!」

「いちゃついてない!」

春は心の底からそう思った。










――ずっと、こうなら。


確かにそうかもしれない。そうだな、と。
織田作は小さく同意した。


「え、い、いちゃついてたんですか私達?!」

「いちゃつくとはどういう定義になるんだ?」

「ていぎ・・・定義?えっと、ちょっと太宰さんが言いだしっぺでしょう説明をしてください」

「胃と茶がくっついちゃうことだよ」

「今日は水しか飲んでいないな・・・・・」

「ツッコミ!ツッコミ不足!安吾さんはどうしたんですか!」

「仕事だよ」

「・・・・安吾さんが恋しい」

「・・・・春は安吾が好きなのか?」

「違いますよ?!そ、そそそいうんじゃなくて私が好きなのはっ、!!」

好きなのは?と織田作が首を傾げた。この男、まったく罪作りだなぁと友人ながら、春に太宰は盛大に同情した。
食事の後で二人だけになったとき、「安吾に恋人はいたか」とか「安吾は激辛カレーは好きだろうか」としきりに織田作は気にしていたが、どちらも問題なかったらどうするというのか。そう問えば、目を見開いて黙り込む。「どうするんだろう・・・安吾と、春を祝福、するのか?」と自分にきかれても困るんだよなぁと太宰は笑った。まったく、この二人ときたら、少しも太宰を退屈させないのだ。


「人間は恋と革命のために生まれてきたのだよ、織田作」

「恋も革命もしているのかお前は」

「していないねぇ・・・だから死にたいのかもしれない。君はどうなんだい織田作。恋も、革命も」

「先だって革命的な変化があった」

「ほう」と太宰は先を促した。

「好物よりも食べたいものができる、というのは中々の革命的できごとだと思う」

「そうだね」

太宰は自分よりも背の高いを男を見上げた。
真正面からなんの衒いもなく、太宰をまっすぐに見ている男と、そして先日顔を真っ赤にしていた少女のことを思い出す。ああもう、と太宰はこそばゆい感情に身悶えたくなるのを必死で我慢した。恋とはかくも照れくさく、恥ずかしい!当人でもない自分がである。


「ああ、自殺したい!」

今日は男三人で飲みに行くことになっている。これは安吾に盛大に突っ込みを入れてもらうよりほかに、事態の進展の余地はない。そうだ、それが一番だ。常識人の一般的恋愛観が何よりも織田作には必要なのだ。
春の能力で殺されたい、と幾度が実は試しかけたことがある。だが、いつだって隣の男に邪魔されるのだ。
ほんとうは他の誰かに、少しでも春の料理を食べさせてなんかやりたくないくせに。


「次のカレーはいつだい織田作?私はその日を命日にしようと思うのだよ」

「そうか。お前の墓前にはカレーを供えるのがいいか?」

「春ちゃんのカレーだよ?」

「了解した」

どこまで本気なのかわからない、いや全部本気の男、ど天然の織田作はこくりと頷いた。それを盛大に笑い、二人はそろってBarルパンの扉をくぐった。








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