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Bye Bye Blackbird


ボーダーというのは総じてブラックな会社なので、就職先にはおすすめできない。
『やりがいのあるお仕事です』という謳い文句掲げてるところは総じてブラックだから気を付けた方がいい。という本音はいつだって仕舞い込み、今日も今日とてお仕事をしている。帰りたい、帰れない……。
しかしまぁ、やりがいは本当にある。仕事も楽しくないわけでもない。仕事があるだけありがたいのだ。ブラックだけれど、ボーダー就職はかなりの難関となりつつある。審査基準はイマイチわからないが。とにかく、かつては完全に色物扱いだったボーダー就職はいつのまにやらかなりの激戦区となっている。
だがしかし、薄給だ。

私は庶務三課という(二課じゃないのかよというはなしだ)ボーダーの雑用を一手に引き受ける部署に所属している。ボーダーは入る人間を選びまくっているせいで年中人手不足だ。トリオンだとか、トリガーだとか未知の情報の宝庫であるがゆえに、単純作業を外部委託なんてのももってのほか。しかし組織自体は膨れ上がって言っているから、必然雑務は増えていく。事務方を増やすよりも戦闘員の育成の方に比重が傾きがちだから、いつでも裏方は人手が足りない。
今日は開発室で頼まれたデータの打ち込みを延々繰り返す作業を続けていた。そこでうっかり面白いデータを見つけて遊んでいたのがいけなかった。
あんなことになるなんて。




――二宮隊のスーツがやばいww

――二宮さんが開発室に向かいました(合掌)



私は、逃走した。殺される。間違いなく二宮くんに殺される。
全身全霊で逃げをうった。

「どしたんだよお前」

途中で出くわした太刀川くんにかくまわれている。個別で部屋を与えられているA級なのだ。その快適空間で、汗をぬぐう。

「・・・・二宮君のスーツを面白い色とかにしてシミュレーションしてあそんでたら・・・・データが何故か反映されてしまったみたいで」

「まじか」

太刀川くんが腰をうかせる。

「待って!どこいくの?!」
「二宮のとこ」
「だめだよ怒り狂ってるから今はやばいって!」
「どんながら?」
「・・・伊勢丹の紙袋みたいな」

太刀川くんは爆笑した。お腹をかかえて笑っている。

「芸人かよ!まじ見に行こう!今すぐに!んで模擬戦やらせよ」
「話はそこだけじゃないの!」

悲鳴のような声をあげてしまった。私は深夜のテンションでおかしくなっていたのだ。だってデータ入力が膨大すぎた。たまにお遊びでもいれないと、とてもではないが完走できる自信がなかった。出来心だ。開発室の他のメンバーだって楽しんでいた。
実際、最終データのチェックしたはずなのだ。開発室がGOサイン出したのだから、私は悪くない悪くないけど絶対に二宮君はぶちきれているだろう。

「・・・ごめんよ、太刀川くん」

素直に私は謝罪した。二宮君とは高校からの付き合いだが、太刀川くんとは逆に中学までの付き合いだった。高校が違えば接点ゼロ。ボーダーで就職して再会したときには随分驚くよりも納得していたが。小学校、中学校が同じ太刀川くんはやんちゃだがいい人だ、という認識が第一にある。もちろん二宮君がいい人じゃないというつもりはない。いい人だ。高校1年から3年までクラスが一緒で、委員長の二宮君と副委員長の私というのは何故か定番の組み合わせ扱いだったし、まさかの生徒会長なんてものに二宮君がなったときには嫌だと言ったのに副会長をやらされた。話が盛大にそれてきたが、つまり、二宮君には叱られてばかりだが、太刀川くんという人は大体において私に親切だった。中学時代に掃除時間バケツをうっかりひっくりかえして太刀川くんにぶちまけたときでさえ、笑って許してくれた。あれが二宮君だったら、絶対零度の視線で殺されていたと思う。
なので、私は自分の罪を素直に太刀川くんには自白した。


「・・・・今トリオン体になると、太刀川くんもお揃いの色になっちゃう・・・・」

すなわち、伊○丹の紙袋。某芸人もかくやの派手さ。
深夜にシミュレーションで太刀川VS二宮をしたときは、開発室はものすごい盛り上がりだった。あの熱量をトリオンに変換できたいいのに、というほどの。個人的にはあの真っ黒なロングコートっぽい太刀川隊の隊服はとっても太刀川くんに似合っていると思う。かっこいい。中2病とか言われているのも知っているけれど、結成が決まって隊服のデザイン案が開発室にあったのを発見してこっそり手を加えたことは誰も気づいていない、はずである。ふわりと裾を翻して三門の空を飛び回る太刀川くんはまるで烏のようだ。かっこいい。お前は口をひらくと阿呆が露呈する、とは二宮君の言である。ひどい。よく、かっこいいってのは二宮とかじゃないの?と首を傾げられるのだが、鑑賞用のイケメンではあるのはわかる。わかるが、ときめきがない。会長は鬼である。それが刷り込まれている。
ちら、と太刀川くんをみた。太刀川くんはきょとんとした顔をして、それから屈託なく笑った。


「委員長は相変わらずぶっとんでんなぁ」
「あいかわらず?!」
「中学ん時、呪いの藁人形に委員長を苛めてたやつの名前書いてぶんまわしてたじゃん」
「太刀川くんっ!!そ、そそそれは、たまたま稲刈り手伝ったらたくさん藁をもらったから・・・ちょっとやってみただけであって」
「藁人形手作りしてるとこがすげーよ」
「・・・・・すとれすのはけぐちが他になかったかんだよ」
「二宮の名前書いたことある?」
「二宮君の消しゴムにこっそり二宮君の好きな人の名前書いてカバー元通りにしておいたことはあったかな!」

あとさすがに高校では藁人形は作らなかった。作る暇もなかった、ともいえる。忙殺気味だった高校時代が走馬灯のように脳内をめぐった。

「え、まって。あいつ好きなやつといたの?うっそだろ」
「二宮君が携帯鳴って画面確認して、無視せずワンコで出る相手は東さん除くと一人だけだったからね!ちなみに私は10回以上コールしないと出てくれないよ!」

そもそも腹が立つ男ではあるが、むかっぱらではないのだ。滅びろ滅しろ爆発四散し消え失せろとか思ったことはない。

「消しゴムどうなったんだ?」
「すぐには気付かなかったんだけど、数か月後にボーダー内で小さくなってカバー邪魔になって外したタイミングがどうにも思い人と一緒だったみたいで翌日私は地獄のアイアンクローを食らいました。なんて誤魔化したんだろうね!」
「ボーダーの奴かよ。名前名前」
「守秘義務なので」
「そこ守るのかよ」
「会長に殺されちゃうよ」

小さく笑う。ついつい昔の癖で、未だに二宮君を『会長』と呼んでしまう。会長には絶対服従なのである。現行はむかっているのだが、そこはそれとしておく。そういえば太刀川くんも未だにわたしのことを「委員長」と呼ぶのだ。親しみのこもった呼び名が嫌いではないが、願わくば名前で・・・いやせめて苗字で呼ばれてもみたかった。もしかしたら、苗字も名前も把握されていないのかもしれない。その可能性は大いにある。

「でも俺、ランク戦やりてーんだよな」
「・・・・解除するには開発室に戻らないと・・・でも絶対二宮君そこにいるし・・・・」
「ちゃちゃっと解除した方が怒りも収まるんじゃね?」
「二宮君怒ると長いから・・・」
「わかってんのにやるんだもんなー委員長は」

太刀川がにやりと笑う。「一緒に謝ってやるって」

「ほんとに?!」

「まず開発室で俺の換装を元通りにするだろ?」

「うんうん」

「それから、委員長が腰に腕をあててふんぞり返りつつ『太刀川くんから一本取れるごとに元の換装に近づきます』って言ってくれれば完璧」

「・・・・・それ怒りが増し増しになるルートじゃないかな」

そもそも二宮相手にふんぞり返れる自信はない。ふんぞり返った瞬間に二宮くんから飛んでくるであろう殺気にあてられてそのまま倒れる自信ならあるけれど。

「俺の入れ知恵だから怒りは分散すんだろ?一緒に怒られてやるよ。まかせろ慣れてるから」

「叱られのプロみたいなこと言われもなぁ。まず俺のを元に戻せって言われない?」

「そこは委員長がそれっぽいこと言って誤魔化すとこだな」

「えぇ・・・・」

「一人で怒られるよりは、二人のがマシだろ?」

そうだろうか?
そう言われるとそんな気もしてきた。
何故だか昔から、太刀川にかかるとどんな問題もものすごく単純かつ明快な気がしてくるのだ。華道部がなくてしょんぼりしていたら「じゃあ作ればいいじゃん」と言った中学時代とおんなじで。
太刀川の生き方はいたってシンプルだ。

「最近戦術かぶれてっからつまんねーんだよなー二宮のやつ。基本はトリオン量にものを言わせたごり押し力押しのくせに。たまには怒り狂って戦術だのなんだのいってらんねーくらいの状態にしてやんねーと」

「戦闘員たいへんだよね」

それなのに私と来たら・・・・出来心とはいえ戦闘服を玩具のように扱って最悪だ。自分の大事な花鋏を真っピンクに変えられたら・・・いやそれはそれで可愛いか。いやでも茶化されるのは腹が立つ。

「やっぱり誠心誠意謝った方が、」

「よし、委員長さっきの作戦で」

「いや、あの」

「善は急げだ」

手を差し出される。えええ、いいのかなぁ?二宮君ぜったいぜったい、めちゃくちゃ死ぬほど怖い顔でぶちぎれると思うけど。

「さーて、行くぞ委員長!」

差し出された手を取る。引っ張られるようにして立ち上がる。なにはともあれ、味方が一人いる。それも太刀川だ。これ以上に安心な人はいない。

「うん」

太刀川慶は世界一かっこいいなぁと、実は思っていたりするのだがあまり賛同を得られたためしがないのが残念だ。






開発室には案の定、二宮が鬼の形相で待ち構えていた。あああ、会長の怒りはマックスである。長年の腐れ縁とも呼べる会長副会長、委員長副委員長の付き合いである私にはわかる。
しかし、ここでびびるわけにはいかない。


「八嶋・・・さっさと、おとなしく、もとに、もどせ」

一言ずつ区切ってにじりよってくる。隊服のスーツではなく、私服だ。これまたイケメンは私服までおしゃれだ。

「・・・・っ、」

私は深呼吸をした。
すぐ後ろには太刀川がいる。大丈夫大丈夫、と何度も自分に言い聞かせる。


「た、太刀川くんから一本取れるごとに元の換装に近づきます!!ふはははは!元に戻りたくば太刀川くんを倒してから、いだだだだ、いたい!アイアンクローやめて二宮君!顔がつぶれる!」

「・・・つぶれろ」

「おいおい、二宮ぁ。やめてやれよ委員長の嫁の貰い手がなくなったらどーすんだ」

「てめえが責任もって引き取れば解決だろうが。お前の入れ知恵でアホやってんだからな」

「ひぃいっ」

二宮の手に力がこもる。考えてみればボーダー内の現役戦闘員二人に挟まれているこの状態は結構スリリングだ。

「安心しろ!俺も面白隊服だ!」
「おそろいだよ!」
「どっちも死ね」

アイアンクローが外れたと思ったら、痛烈な空手チョップが額にふってきて頭が割れるかと思った。後ろの太刀川が「いいんちょーのこと苛めんなよ〜」と頭を撫でる。

「冬島さん・・・」

唸るような声で二宮が傍観している冬島に「なんとかしてください」と要求したが、面白い方に一票のタイプである冬島は「芸人デビューみたいだな!」と爆笑をこらえている。見たいです、と顔が言っている。二宮は眉間に更に皺を深くした。


「太刀川を殺して、お前も殺す」という迫力ある睨みにわたしは震え上がる。早まったかもしれない。だがしかし、これはこれでいいのかもしれない。元々悩んでいたのだ。


「よっし、やるかー」
「言っておくがお前もそのままでやれよ?」
「げ」

死なばもろともだとばかりに二宮が太刀川の襟首をひっつかんだ。

「八嶋」
「な、なにかな二宮君」
「俺が勝った時はお前のオペ服をあの柄に設定させるからな。いいな。逃げるなよ。やるからな、いいですよね冬島さん?」
「おー、まかせろ」
「えええええ?!そんな殺生な?!変な恰好でも許されるのはイケメンと美少女だけですよ?!私がやったらただの痛い女じゃないですか?!」
「痛い女だろうが」
「会長酷い!」
「俺に『勝てたら』、だろ?余裕余裕。じゃあ俺が勝ったら委員長にはなにしてもらおっかなー」
「〜〜っ?!」

太刀川の腕が肩に回って重みがかかる。

「ところでさ、委員長」
「な、なにかな!?」
「これって委員長からの俺への誕生日プレゼントだよな?」

顔が瞬時に真っ赤になる。ばれていた。途中からちょっとそれもいいかもしれないから、ちょっと二宮君には悪いけれども犠牲になってもらおうとか思っていた。だって、思いつかなかった。仕事をしながら徹夜まみれの頭で、延々悩んだけれど、友人の誕生日に何が喜ばれるか思いつかなかった。そのもやもやの解消に、遊んでいた結果が思わぬ方向に転がったからこれ幸いにと飛びついたのだ。二宮君を怒らせれば、きっといつものクールであろうとする彼とは違う戦闘が楽しめることは請負だ。ランク戦を何よりも楽しむ太刀川くんには何をプレゼントするよりも喜ばれるだろう、という私の下心の暴走の結果である。

「・・・・・ほ、ほかになにもよういできてなかったから」

「ははっ、まじか。さんきゅな委員長」

「太刀川くんっ、誕生日おめでとう!」

拳を握ってお祝いを言った。本当は、あってすぐに言いたかったのに、ずるずると遅くなってしまった。ああ、会長は死ぬほど怖いけれど頑張ってよかった!太刀川くんは大層嬉しそうだ。もうそれで全部帳消しである。

「二宮どんまい」と冬島さんが二宮くんの肩をたたく。なにがどんまい?
太刀川くんは「やるかー」とご機嫌に腕をぶんぶん振り回している。
戦闘は太刀川くんの勝利で幕を下ろした。私は二宮隊の事務処理を山のように任されてそれから更に徹夜が伸びた。









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