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芽生えない二人


「就職先がきまりました〜!おめでとう私!さようなら灰色の就活生活!」
「結局ボーダーだろ」
「おめでとうございます」
「春さんお祝いにチャーハンを用意するわね」
「…おめでとうございます」

東隊の面々が祝福してくれた。隊長をのぞくが。ひどいな東君もうちょい祝ってよ!と春はその首ねをつかんで揺さぶった。東春秋の春の扱いは割とぞんざいだ。弟子たちのように慈愛が欲しい。

「ふっふっふ、私はついに憧れの英雄を超えたのさ」
「馬鹿言うな」
「いいや、言うね」
「どや顔をやめろ」
「東君、私のボーダー内の配属先を教えてあげようか」
「本部長補佐だろ」
「ちーがーいーまーす。この間ね、二宮くんのおかげでひらめいたのよ私は。ボーダーに自分の理想の職場を作ればいいんだってね!」

名前のあがった二宮がびくりと肩をゆらした。

「その名も”資料保管・研究部”!これまでの記録とか、今後の戦闘に使えそうな資料の収集とかするの!それを戦闘員やオペレーターちゃんに提供する部署なのよ!やったね!これで戦史これからも研究しほうだい!発想は戦史編纂室からであります」

「ヤン提督はそこには配属されなかった」

「そう・・・そこには行けず・・・いやもう何も言うまい東君!とにかく憧れのヤン提督が憧れてた職場環境を私は手に入れたの!気を付けてね東君、君はヤン提督ルートだぞ」

「今、二宮に貸し始めたばかりだからこれ以上の発言は自重してくれ」

「なぁに?何の話かしら?」

「私と東くんのバイブルの話」

「銀河英雄伝説。小説とアニメと映画と漫画がある。俺は今小説を東さんに借りはじめたところだ。俺の次が三輪だ」

「二人が読むなら私も読もうかしら」

「加古ちゃんの好みとは違う気がするけど面白いし、戦術とか戦略の参考になるし気が向いたら映画だけでも見よ!銀英は原作小説はそこそこの長さだけどはまるとアニメ見たくなるし、旧版アニメは死ぬほど長いから暇な大学時代に見ておくのがお勧め」

「春さんが解説してくれるなら」

「私なんかでいいなら、いーよ!加古ちゃんならちゃんと最後まで見てくれるだろうし。上映会しよう!」

「私なら?」

「太刀川くんに見せたら10分で寝た。もういい、太刀川君にはスペースオペラは百万年早かった」

「もちろん寝ないわ」

「・・・小説は途中ですが映像作品を見るのなら参加します。映画で寝たことはないですし」

二宮が話に割って入る。

「俺はかなりはまりそうなので」

「今何巻?」

「2巻ですけど」

「そっか、これからだね。さわやかなキルヒアイス提督は実写でやるなら嵐山くんとかどうかな、ちょっと違うかな・・・響子ちゃんはね、グリーンヒル大尉だよね。愛ゆえの補佐だし。本部長がヤン提督かっていうと違うけど」

「春、そろそろ黙ろうか」

「あ、ごめんつい。最後まで読んだら感想聞かせてね!新アニメもあるからチェックしてみてー」

「はい」

「東くん、今度の新アニメ化についてですが藤子ちゃんと冬島さん誘ったので宅飲みしつつ毎週上映会するから。これ決定だから」

「……俺は一人で見たいんだがなぁ」

春と東は割と熱狂的な銀英伝ファンである。特にはまるとおたく気質を発揮する春はもろにである。二人でカラオケにいくともれなく最後は自由惑星同盟の国家を歌う。この間東隊のカラオケに参加したときに、いつもどおり歌おうとしたら東に拒否された。
オタクな部分を隊長は部下に隠したい年頃なんだな、と春は少しがっかりしたがおとなしく引き下がった。

「お二人は仲がいいですよね」

二宮の発言に加古の瞳もきらりと輝いた。

「同期入隊の同大学同学部だからね〜」
「私たちに実は内緒で付き合っている、とか」

加古がずばり本題に切り込んだ。

「加古ちゃん少女マンガの読みすぎだよ。銀英伝よも?私と東君は・・・なんだろうね、東君がラインハルト様で私がキルヒアイス?いや全然違うな・・・俺様感と顔の豪華さが足りないわ東君じゃ。あ、あれだよ、帝国の双璧!ミッターマイヤーとロイエンタール!!」
「重い。そしてたとえがマニアックすぎる。秀二が引いてるだろう・・・・」
「それどっちも男ですよね」
「男同士の熱い友情を男女で体現する仲だよ」
「恋が芽生えないのかしら?」

加古が小首をかしげる。普通の家の子のはずだが、お嬢様の気品がある。帝国貴族っぽいよな、と更にネタを続けたら東に頭をたたかれたので渋々口を閉じた。この質問は二人でうきうきと戦術・戦略を模擬戦で実践しまくっていたころから、うんざりするほどされたがまさか東隊のメンバーにまで言われると思わなかった。

「芽生えないな」
「芽生えないね」

息がぴったりなのに、と心底不思議そうにされても芽生えないものは芽生えないのだ。

「東くんが34歳になったら一考してみる」
「らしいわよ二宮君」
「黙れ加古」

何故そこで二宮にふるんだ?と春は思うがスルーした。

「まぁ東君は私よりも響子ちゃんとの方がワンチャンあるよ。本部長に振られたらなぐさめてあげてね。間違いなくうまくいくと思う。いや本部長×沢村もおいしいけど、本部長←沢村前提で東×沢村もありだと思う」

「ない。誰だお前に余計な知識与えたの」

「開発室配属決まった藤子ちゃん」

「芦花か…そもそも俺には恋人がいる」

芦花藤子は花たちの同期の一人だ。貴重な女性エンジニアだが、春を上回る生粋のオタクである。

「同期っていいよね。加古ちゃんたちも大事にしたほうがいいよ。あと妄想はやばいな・・・恋人?いないでしょー。恋人っていうのはね、会うとお互いが幸せになる二人のことでしょ。東君が言ってる人とは顔を合わせるたびに殺し合い始まりそうな気配じゃん」

「東さんが頭を抱えてますが」

「事実を包み貸さず伝えてくれる友人の存在に喜びで打ち震えてるんじゃないかな・・・・双璧よりぴったりの思い出した。ポプランとコーネフかな。口喧嘩するけどズっ友的な」
「就職を機に疎遠になる友人関係は割と珍しくないらしいぞ。あとちゃんと、付き合ってる付き合ってるからな?!」

東がジト目で花を見る。この人のこういう表情は貴重だな、と弟子3人は思っている。

「就職先同じ人に言われてもな。それから彼女さんの方からは言質とれたことないんで証言に真実味が・・・・」
「まだ就職してない。そして、あいつはちゃんと付き合うと言った。むしろ俺が告白された方だ」
「私と藤子ちゃんと響子ちゃんと東君で、ボーダーを第13艦隊みたいにしよう。東君にイマジナリー彼女がいても大丈夫、友人は心広く見守るからね」
「芦花と沢村は断固拒否するし、おれにはイマジナリー恋人なんていない。現実にいる。ちゃんと」
「手始めにあのめちゃくちゃダサい遠征艇の外観を変えよう、ヒューベリオン的な」
「繰り返し言っておくが芦花と沢村は断固拒否するぞ。芦花は帝国派だからな。あと俺も拒否する。俺を巻き込むな頼むから。さらに言うと俺の彼女はこのネタ一ミリも理解しない」
「まぁ言うだけだから。私は基本」
「お前の軽い思いつきを本気にする人がいるんだよボーダーには。ていうか誰も本気にしてないのか?俺ちゃんと公言してるだろう付き合い出したって?!」
「ボーダーっていい職場だな〜。就職できてよかった!」
「話をそらすんじゃない」

弟子三人は生暖かい目で二人を見ている。

「よかったわね二宮君、芽生えないみたいよ恋。都市伝説だと思ってた方の噂がほんとだったなんてびっくり!今度真相を聞きに行ってみなくっちゃ」
「・・・加古、模擬戦で覚えてろよ」
「何の話ですか?」

三輪は相変わらず会話の内容がさっぱりつかめない。

「あの二人仲いいわよねって話よ」

お祝いチャーハンの具材リストをメモ書きしながら加古が微笑み、そのリストを横目に二宮は眉間にしわをよせ、三輪はよくわからないという顔をした。






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