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長州閥本丸 参


「親のコネと七光りで審神者やってるやつに負けるかよ」

演練場でだれからともなく言われた陰口に、隣のみっちゃんが殺気立った。笑顔が五割増した。
だがまぁ、言われたことは事実なので反論しない。課せられるノルマが普通より多くなるのだって仕方ないくらいの援助を実家からもらっている。審神者の適正だって、実をいうとぎりぎりのところだった。普通の家の子なら、とりあえず様子見、審神者候補のリストに入るか入らないかという霊力だったのを、金と権力と伝手でごり押したのは爺様だ。

「みっちゃん、飴いる?」
「もらう」

意外だ。

「何びっくりしてるの」
「いつも断れるから。なに、どしたの?明日は雨かな?」

話をそらすために言っただけだったから、あわてて袂に手をつっこんで飴を探す。

「今日の相手なら飴舐めてたって余裕だよ」
「ははははは、舐めてかかるのだめ絶対」
「やだな、主。僕が舐めるのは飴だけだ」
「何味がいい?」
「おすすめは」
「しゅわしゅわする奴美味しいよ」
「また、そんなの買って」
「短刀ちゃんたち喜ぶから。あとね、大丈夫だからね光忠?」

光忠が怒ってくれるのは嬉しいけれど。

「私みたいなのをどう扱うかって人間性でるんだよ。ああいう風に影でこそこそ言ってる人だ、という報告を私が実家にするとか夢にも思わないのかなぁ?」

となりで光忠が目を見開いた。

「報告、するの?」
「するする。逆に優秀な人のことも報告してる。大規模攻勢の時に、どの審神者に声をかけるかとかって重要でしょう?成績からだけじゃ、ほんとに優秀かどうかは図れないし。あ、棒付きキャンディあった」

光忠の片方だけの眼が溶けそうだ。そんな笑い方をされると照れてしまう。私は何か彼を喜ばせるようなことを言っただろうか。
とりあえず、照れ隠しにキャンディを差し出した。

「主はかっこいいね」

どこが?!今の流れでどうしてその発言に至るのか審神者にはさっぱりわからない。刀剣男子の考えることは謎だ。

「飴、美味しい?」
「とっても」

そういう光忠のはちみつ色の瞳の方がずっと美味しそうだ。

「じゃ、僕のかっこいいところも見てもらわないとね!」
「みっちゃんはいつも最高にかっこいいよ」

伊達の刀は誇らしげに胸をはった。ところで余談だが、棒付キャンディくわえて結局光忠は演練に参加した。挑発するように飴をなめつつ、余裕の勝利をかっさらって「主、見てた?」と流し目よこされたときは卒倒するかと思った。演練見てたと思ったら、棒付キャンディのCM見てた?という錯覚に落ちいる。
私は何とか卒倒せずにふんばったが、近くにいた審神者さんや政府職員さん(男女問わずなところがみっちゃんはんぱない)がたがばったりと何人か倒れて救護所に運ばれる事態になってしまいまことに遺憾である。あとで始末書を書かされました。
そのあと演練のあちこちで棒付きキャンディ片手にかっこよくポーズを決める燭台切光忠が散見された。刀剣の間にもブームってあるんだなと思いました(作文)
けれどブームはブーム。学校でルーズソックスが流行っていたとかもういまどきの子は知らないと思うが、ブームってのは起こると往々にして規制もされる。かっこよく棒を加えていたところに投石がぶつかって重症になり、手入れで全快したものの最高にかっこ悪い姿をさらしてしまったショックで引きこもってしまう燭台切光忠が相次いで、演練中の刀剣の飲食は正式に禁止になりました。
ブームの震源地だった当本丸としてはまことに申し訳ない。実家からめっちゃ怒られました。






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