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長州閥本丸 弐


当本丸がノルマをきつめに設定しているのは、政治的な要素もふんわりと絡んでいる。政府の要職にある父、その父の後を継ぐであろう弟たちの体面にかかわるのだ。私の成績が失笑されようものなら、それは我が家の威信をそこねる重大犯罪である。
妹たちの嫁ぎ先にだって影響するだろう。付喪神プロジェクトによって新たに生まれた審神者という職は、今や日本で最も重要視されているといっても過言ではない。優秀な審神者が身内にいるものは、嫁ぎ先からも歓迎される節がある。

明治維新から数百年。2205年になって、いまさらながらに過去の派閥がよみがえっているのもおかしなものだ。優秀な成績を打ち出した審神者に旧幕府方の血筋をひくものが多かったのが一因でもある。

「仕方ないっちゃ仕方ないよね。だって明治維新の流れの中で刀は実用品から美術品になっていってしまったんだもん。刀の、侍の時代を終わらせたのは明治政府側で、刀とともに最後の侍として生きてきた人の方が刀の付喪神にしてみたら愛着生まれるの当然だよ」

会津出身者の審神者は強い。過去の歴史が、彼らの強みになるのだろう。明治の刀にしてみても、顕現するのは幕府方の刀が多い。特に新撰組の刀などは有名どころがずらりとそろっている。翻って、明治維新政府側は坂本竜馬の刀である陸奥守くらいなのだから、差は歴然だ。
個人的には高杉さんや、桂さんあたりの刀がそろそろ顕現してくれてもいいと思う。そのあたりなら一発で顕現してくれそうな気がするのに。
ちなみに、私の本丸に新撰組の刀剣男士はゼロである。これは完全に嫌われている。徳川を打倒したという事実もまずいのか、徳川にゆかりのある刀も限りなく顕現率が低い。

「むっちゃん、私はもうだめだ・・・精神的ダメージがひどいぜよ・・・・」
「血は水よりも濃い、ゆうが難儀なもんじゃなぁ」
「私がなにをしたというのか!新撰組好きなのに!ひじかたさんマニアなのに!ううっ、呪われた血族みたいで泣くしかない・・・私より後に審神者になった人たちガンガン新撰組男士そろっていってるし・・・」
「わしでがまんぜよ」
「むっちゃん愛してるぜ」

初期刀も、加州清光を新撰組好きなミーハー気分で呼ぼうとしたが顕現にことごとく失敗し、後ろで授業参観のごとく見にきていた弟妹たちに爆笑された。私は半泣きで陸奥守を顕現させた。なにごとも話し合いが肝要である。

「しかし、そう卑下せんでもよかじゃろ」
「そうかなぁ?」
「徳川絡まん刀ならレアからそろっていきゆうがじゃなかか」
「そ、そそそうかなぁ?」

むっちゃんは審神者の気分をあげてくれるのがとってもお上手である。
初期刀はむっちゃんだった。初鍛刀はごこたいちゃん、初ドロップは秋田くん。
ここまではそこまで審神者格差を感じない成果といえる。徳川とあまり良好関係にないところの家の刀から揃っているといえなくもないが。
次に来たのが何と一期一振だったのだ。

「一期くんとかは、ほら、毛利の刀だった時期もあるし。御物だしね!」

一応とはいえ錦の御旗の元にお仕事をし続けてきた家柄なので、御物刀はよくおいでになってくれる。初太刀がレアな一期一振で、実家の方にも面目躍如となって大変に助かったのを覚えている。全体としては織田や伊達、豊臣の刀を中心にこの本丸は回っている。
徳川への怨念じみているチョイスといえなくもないが、皆過去の恨みつらみをぬきにして元気に働いてくれている。

「余所から討幕本丸とか呼ばれてて笑えないよね!むっちゃんとか不本意極まりないだろうけどごめんよ。長州閥本丸が実態だよね!政党同士のつばぜり合いとかほんと政治ってきたない!ふけつ!まぁ、文句言いつつ駒として頑張っちゃうけどもね!お姉ちゃんですしおすし」

「では主、私も兄としてお願いいたします」

「うむ!くるうしゅうない!」

「大阪城行きますぞ」

「ひっ、むっちゃん!むっちゃんヘルプ!ヘルプミー!」

大阪城任務での一期一振は人が変わる。大阪城の任務では彼の大事な弟たちがごく稀に顕現するのだ。博多、後藤、信濃、包丁藤四郎の四振りはだれもまだ我が本丸に不在で、なおさらお兄ちゃんは気合が入っている。
これぞ完璧なお兄ちゃんを地でいく一期は時に審神者にはまぶしすぎるのだ。おなじく長子としては応援してあげたいから、ついつい無理をしてしまうが、そのたびにみっちゃんに叱られるはめになるのだ。

「一期、ちょっと深呼吸しよう。うちにはまだまだ君の弟全然来てないから」
「あんな有象無象が跋扈する城で主の弟君が今か今かと迎えを待っているとしたら深呼吸をしておれますか」
「・・・・うちの弟たちがあそこいたらいつのまにか城主になってても主驚かない」
「・・・・」
「主の身内は、まっことあぐれっしぶじゃきの」

初期刀のむっちゃんは何度か弟たちにもあっているので、ぐっと親指をたてて同意してくれた。政界に棲む狸爺どもを相手にしているせいか、うちの弟たちは可愛げというやつがないのだ。

「だがしかし、一期くんの可愛い弟君のためとあらば、審神者がんばるよ!さぁ行くぞ大阪城!いったい何周したらいいのかな?!とくに博多君!当本丸は小判がっぽりだよ〜、むしろお金だけはあるからおいで!」

身内からの援護射撃がありすぎてむしろ怖いレベルだ。
金満本丸でごめんなさい。資材が困ったことはぶっちゃけないです。だがしかし、その資材を無駄にしまくっている現実が怖い。あれだけ鍛刀して初期実装刀にここまで空振りしまくっている本丸もそうはあるまい。

「金銭で弟を釣ろうとされんでください」
「重機免許取得の申請出してる刀に言われたくないです」
「兄ですから一刻も早く弟を迎えるのに全力を尽くすのが務めというもの」
「刀なんだからその自慢の一振りで颯爽と助けに行こうよ!だいたい、重機免許の講習代だってばかにならないんだからね?!」
「金に糸目はつけぬとおっしゃったではありませんか」
「・・・恰好だけじゃなくて金遣いまで派手ですな一兄」
「前の主のと今の主の影響ですな」

秀吉さんと私に全力で謝れこのブラコン!ロイヤルな微笑み浮かべつつ、都合が悪いことはしれっと主の影響で片づけているあたりたちが悪い。太刀だけに。

「大阪城を攻略すれば、主の本家も煩くは言ってきますまい」

さらりと流し目で一期が私を見た。のびてきた白手袋に覆われた手が、私の頭をぽんと撫でた。生粋のお兄ちゃんだな、と感心する。弟のことしか考えていないようなそぶりをしながら、ちゃんと私のことも考えてくれている。天下を取った人たらしの刀だっただけある。こういうところこそ、前の主の影響なのかもしれない。

「・・・・うん、がんばろ」

長子同士のはずだけれど、一枚も二枚も一期の方が上手なのだ。







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