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氷上ロマンチカ3


『ミスタ・スターフェイズ』

ハルはスティーブンのことをそう呼ぶ。そんなにかしこまって呼ぶ必要はないのだと何度スティーブン自信が言っても彼女は頑として『ミスタ』とどこまでも堅苦しい呼び名を変えようとしない。誰に対してもそうなのかと思いきや、そんな風にかしこまられているのが自分だけのようだと気づいたときのなんともいえない面白くなさといったら筆舌につくしがたい。

「ミスタ!こんにっちわ!あ、レオくんザッピーやっほー、ちょっと滑ってく?」

むっつりと、口が思わずへの字に曲がる。面白くないに決まっている。
スティーブンより後に知り合ったはずの彼らのほうがよっぽど親しげだ。
そんなスティーブンの不機嫌を知ってか知らずか、レオは懸命にもその誘いに首をふった。勿論ザップの首根っこもひっつかんでいる。

「ちぇっ、ふられた。」
「ハル」
「なんですかミスタ?」
「それ、やめない?」
「それ?」
「ミスタ、呼び」
「やですよ」
「なんでだい?」
「なんで、って…――だって、」

きょとんとした顔でハルがあっけらかんと答えた。スティーブンは聞かなきゃよかった、と心底後悔した。いや、正確にはこんなところで聞くんじゃなかったと、よりにもよってザップとレオを連れているときなんかに聞くのではなかったと、こんな場所で、こんなときに、なんでもないありふれた今更すぎるけれどもとても実は大事な問いの答えを聞くんじゃなかった、と心底後悔した。


「特別に大事にしたい人の名前って、簡単に呼ぶと減りそうでしょう?」


大事に大事にしまってあるんです、と氷の上で胸をはるハルにスティーブンは白旗をあげた。駆け引きのない、まっすぐなイキモノ相手に、スティーブンは割りと弱いのだ。








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