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永遠の夜を生きている


ヤン提督のお役に立ちたいから、軍人になるつもりだ。ユリアンが至極真面目に将来を語ると、ヤン提督の補佐官であるハルは露骨に嫌そうな顔をした。

「君は馬鹿かユリアン」

彼女は言った。ユリアンはこてりと首をかしげる。

「軍人ってのは好きな上官の下に着けるとは限らないんだよ?私しかり、ヤン提督しかり、希望の部署につけてるように見えるのか君は」

「ハルさんはヤン提督の補佐官はおいやなんですか」

「そういう話じゃなくて」

「ですが、提督の補佐官なんて同盟軍人の憧れですよ?」

「そういうのはグリーンヒル大尉に言ってあげるべきだ。私はいつ死ぬかもわからないような最前線からはさっさと身を引きたい!」

ハル・レインは優秀な補佐官なのに、なぜそんなことを言うのか。

「謙遜ですか?」
「ユリアンはちょっと提督に対して盲目すぎだよ。考えてみ?提督が退役したらどうすんの?君もやめんの?軍人なるって結構ヘビーだよ?ブラックだよ?私が君だったら普通に大学行かせてもらうね!!」

断言する。ハルもまた孤児で、引き取られた先が軍人の家だった。軍の金で、生活してきたがゆえに選択肢はない。ヤン提督のような人に引き取られたのは僥倖だ。是非ともその幸運を活用するべきなのに、とため息をつきたくなる。

「・・・・けど、僕は、」
「そりゃ君がいいならいいけどさ。君の人生だし」

ユリアンはすすめられた紅茶をいっぱい飲み干した。提督のようにこだわりのある人間ではないのに、ハルの入れる紅茶は美味しくてたまに提督自身も彼女に紅茶を所望している。こだわりを持って紅茶に向き合うユリアンにしてみれば納得いかないが、こうして飲んでみるとやはり美味しいのだ。

「セカンドキャリアについて考えといたほうがいいよ」
「僕まだ10代ですけど」
「私は入隊した時から退役後のバラ色の年金生活夢見てるけどな」

こういうところが味に影響しているのもしれないな、とユリアンは思った。
彼女はとてもヤン提督と似ている。もしも提督が女性だったらこんな感じなのだろう。


***



「ユリアンってヤン提督のことが好きすぎですよね」

ヤンは何とも言えない顔をした。補佐官であるハルの言わんとすることは彼も重々わかっていた。

「提督が軍人やめたら僕もやめますとか言い出しそう・・・若いって怖いですね!私なら絶対大学行かせてもらうな」
「本人の意思だからね」
「モテル男はつらいところですな」

ハルのいれてくれた紅茶に口を付けた。

「大学に行ったら何がしたかったんだい?」
「政治」
「興味あったのか?」

意外な答えだったから、ヤンはまじまじとハルを見た。

「ヤン提督の里子になってたらですけど」
「わたしの?」
「だって、里親の役に立ちたいでしょ」

じっと、ハルがヤンを見ている。

「どれだけ優秀な部下がいたって、所詮は文民統制だし。帝国の英雄は一人でも戦えるけど、同盟の英雄には命令をしてくれる文民が必要です。そろそろちゃんと考えた方がいいですよ」

「そうはいってもね」

「理想高すぎなんですよ。妥協も覚えるのが肝心」

妥協しろ、と補佐官はいつも口酸っぱくいう。ヤンにいっそ貴方が立てばいい、なぞとそそのかす不穏な男よりは幾分かリアリティのある意見だ。

「そのうち、理想に首絞められて殺されそうですよね提督は。もしくは民主主義に後ろからぐさりと刺されそう」

”理想”も”民主主義”も人ではないから殺しにはやってこない。だが、彼女のいわんとすることはなんとなくヤンもわかっていた。民衆からの支持が厚い軍の英雄。そんな存在の行きつく先がなんなのか、歴史が何度も語っている。

「・・・・バラ色の年金生活は遠いな」
「楽するのにも努力は必要ですよ」
「君はしてる?」
「絶賛、活動中ですよ。いつまでもこんな最前線で補佐官やってると思わないでくださいね」

貴方の傍は危険度高すぎます、とハルは呆れ顔だ。

「頼りにしてるんだけどね補佐官殿?」
「わ〜、そっれはそれは。恐れ多いです」
「今から政治家を志してみるとか」
「わたしを地獄の道連れにしようとするのやめてもらえませんかね」
「死なばもろともね」
「ユリアンに言ってあげたらどうですか。年齢満たしたらすぐさま立候補してくれますよ」
「ユリアンには幸せになってほしいんだ」
「私の幸せをさくっとトレードに賭けないでほしいんですが」
「君なら何故かいい気がして」
「・・・・でたな魔性の男め」
「ん?」

ハルが露骨に舌うちしたが、それをとがめるような上司ではない。

「妥協してください。誰でもいいから誑し込んで、いいように裏で糸を引けばいいんですよ」
「悪の組織のすすめかい?」
「生存戦略です。貴方にはそれが決定的にかけていることを補佐官としては強く訴えておきます」
「なんだか遺言みたいだな」
「私、次の異動で念願の戦史編纂室へ行けそうなんですよね」
「え」
「いつまでも補佐官やってると思わないでくださいってさっきも言いましたよね」
「・・・・」
「動かないで流されてたら、貴方に殺されそうですから」

向かい合うふたりに、沈黙がおりてくる。まっすぐに提督を見据えてから、ハルはため息をついて視線をそらした。

「・・・そういう顔で人を誑し込もうとするのやめてください」

口を引き結んでそっぽをむいた。まったくたちが悪い。天然の人たらしめ、と心の中で罵った。





後日、辞令は下りなかった。

「なんで?!あらんかぎりの人脈と、こつこつ積み重ねた賄賂の結果がなんで失敗?!今度こそうまくいきそうだったのに・・・!」

ハルは頭を抱えた。隣でヤンが補佐官の入れてくれた紅茶をすすっている。

「・・・・・提督、もしかして、」

わなわなと震えながら補佐官は上官を見た。さっき入れたばかりの紅茶がまだ湯気をゆらめかせている。もうあと何回淹れてさしあげれるかわからないしな、ととびきり丁寧にいれた一杯だ。それを上官殿は満足そうに飲んでいる。

「出世するってのはいいものだよ少佐」
「・・・・・提督」

ハルは唸った。にこやかにヤンが言う。

「生存戦略。君が教えてくれたから、私も少し頑張ってみたんだ」

「他のところで発揮したらどうなんですか・・・・」












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