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恋は思案の外に転がっている


「主は興味ないの?」
燭台切がからかうように言ったのは、演練場でのことだった。
「なにに?」
すっとぼけるように返事をした。彼が何について言ってるのかはうっすらわかっていたけれど。
「恋愛」
ストレートに燭台切は続けた。
「・・・・縁がない」
「結んであげようか?」
「縁結びの神様だったっけ」
「末端も末端とはいえ神様だしね、やれば案外できるかも」
「寿退社って言葉知ってる?」
「知ってるよ」
「・・・・・」
遠まわしに主の変更を願われているのだろうかと思ったのは仕方ないことだと思う。燭台切はいつもどおりの笑顔だ。
だれがいい?どんな人が好み?と矢継ぎ早の質問に深く深くため息をついた。
「職場内恋愛はしない」
「そっか」
職場以外の出会いなんて望み薄の職業なのに、何をいっているのだか。
「わたしね、普通に恋愛して普通に結婚して、普通に家庭もって、子育てして、年取って孫とかかわいがったりして、普通に死ぬんだと思ってたの」
結婚願望は強い方だった。
「けど、理想と現実は違うのかも」
普通ってやつは、案外難しいものだった。がっくりと肩をおとした。世の女性たちはどうやって恋なんて難攻不落のお城に挑んでいるんだろう。
「そっか」とはちみつ色の瞳がまっすぐに私を見ている。
「紹介とかされてもびびって逃げて、すぐ壁つくっちゃうしどうしようもないね」
「・・・・そういうのしてたんだ」
「してたしてた」
知らなかった、と言われても困る。話すようなことじゃない。話すほどの内容になる前に終わってしまうのだ。
「私には無理ゲーだぁ〜〜」
無理げーって何?と思ったに違いないけれど燭台切は優秀なのできっと文脈から察してくれたようだ。
「そっか」と再び相槌をうってくれた。



***



暇なものが待機所代わりに使う一室に、燭台切が突如現れた。

「ねぇ、機械とかコンピューターに詳しくない?」

開口一番にそう言った。

「どうされたのですか?」と一期が問う。
「主をそでにした男を見つけたいんだ」
「おいおい、不穏な発言だなそりゃ」と鶴丸が茶々を入れた。
「主の何が気に食わないっていうんだ!居場所さえわかれば祟るのは簡単だし」
「物騒なモンペだな!」
「鶴さん黙ってて」
「落ち着いてください、そのようなこと主殿は喜ばれぬでしょう?」
「主の気持ちはこの際、関係ないよ。僕がむかついただけ」
「おっと、神の怒りに触れるたぁ一大事だな」

燭台切光忠は憤慨していた。いったいどこの誰だろう、自分の知らぬ間に主がそんな扱いを受けていたなんて。

「万死」
「歌仙の十八番奪うなよ光坊」

どすんと、鶴丸の横に腰をおろす。でかい図体の背を鶴丸の細腕がなだめるようにたたいた。

「僕は色恋ってやつがわからないんだよ」とうなだれるように吐露する。
光忠は悩んでいた。他の本丸の自分は、色恋にさといように見えた。主と恋仲になっていたり、政府の職員といい感じのものもいた。それではより刀の本分に忠実なのかと思えばそうでもない。中途半端な自分の感覚。
恋に憧れるけれど、理解ができない。いっそそんなものは不要だと思えれば幸せだった。
主の言葉に共感したのだ。
恋に焦がれて、多くの恋する人たちのように自分も恋がしたかった。けれど。

――むいてないのかもね。

と、ぽつりと諦めたように主がつぶやいた。それはそのまま、燭台切の胸の中にもすとんとおちてきた。
むいていないのかもしれない。
自分はそれで納得できた。納得できたが、その分だけ、人の子の主が哀れだった。
所詮は自分は分霊だ。刀だ。いくらでもかっこうがつかないけれど言い訳ができた。

「お前がそんだけなやんでくれてりゃ、主も嬉しいだろうさ」
「・・・・」

鶴丸はなだめる手はそのままに、からりと笑った。
向かいに座る一期一振もまた穏やかに燭台切を見ていた。
「恋は、身の破滅にもつながりますしな」と何とも言えない軽口をたたく。天下人の刀の言うことは軽口のはずなのにどこか重みがある。

「しかり」

それまで黙っていた平安刀が口を開いた。

「人の子などにおめおめくれてやらずとも良いだろう?我らが主についておるのだしな」

茶をすすりながら天下五剣でもっとも美しいと歌われる三日月宗近は言う。

「なお物騒になったな」
「まぁ茶でも飲め」と鶯丸に差し出された茶を、燭台切はまるで酒でも煽るように一気に飲み干した。

「俺が思うに、光坊のそれは主と共有できるものだろう?一度じっくり話してみればいい」
「共有?」
「欲しいけど、手に入らんものが同じなら、同じような愚痴がたまるだろう。それを肴にいっぱいやるのも乙なもんだ。俺は色恋に焦がれたことがないからそもそもが理解に及ばんしなぁ」
主の墓にはともに入ってやるつもりだがな、とおどけるように言う。鶴丸国永の本分なのだろう。
「傷のなめあいなんてかっこ悪くないかな・・・」
「笑い飛ばして生きてりゃ、かっこはつかんかもしれんが悪くはないと思うがなぁ」
「露と落ち、露と消えにしわが身かな・・・・と申しますしな。所詮は露のごとき生ならば楽しんだもの勝ちではありましょう」

ふむ、と燭台切は頷いた。

「で、コンピューターとかネットに詳しい刀はいないんだよね?」
「・・・・陸奥守が詳しいんじゃないか」
「じゃあ、ちょっと話聞いてこようかな。相談に乗ってくれてありがとう皆、お茶ごちそうさま」

さわやかな笑顔を浮かべてその場を燭台切は後にした。

「露と消えるのはどちらの御人でしょうなぁ・・・」一期一振が困ったようにつぶやいたのに、室内に顔をそろえた刀剣たちは神妙に頷いた。









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