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神様はいつサイコロを振ったのか


宇宙人拾いました。
人類を飼いならすとかいう悪の組織じみた計画を滔々と語ってくれたので、飼育によるデメリットについて私は真剣に考えた。
人類を飼育する。完璧な管理下で?それって果たして面白いのか?

「昔、蟻の巣を観察したことあるんだけども」

宇宙人は、いやこういうと少し嫌そうな顔をする。外星人です、と何度も間違えを訂正された。
彼は目線で先を促した。

「観察日記をつけてたんです。学校の宿題ってわけじゃなく、単純に面白いなって思って。どんどん蟻の王国が目の前にできてくんですよ。すごい楽しかった――でも、突然全部ぐっしゃぐしゃにしたくなった」

「ほう?」

「あんまりにも完璧すぎて。完璧なものほど、人を飽きさせるものはないと思う。私たちはメフィラス君にとって蟻でしょ?でも蟻ほど完璧じゃない。人類は未完成の種族だ。強欲で貪欲」

居酒屋で割り勘を覚えた宇宙人は、私のゲーム実況配信を邪魔したり、近所の公園で遊んだりと楽しそうだ。

「こんな面白い箱庭を完璧に管理しちゃったら、意味ないよ」
「まるで神のようなことをおっしゃる」
「神様を信じてるよ。面白い映画にはどうしようもないキャラが必要なんだ。殺人事件が起こると『私は自室に戻るぞ!』とか言い出して次に殺されるとか。恐竜が真ん前にいるのに悲鳴あげるとか。不合理だけど、面白い。神様はこのB級箱庭映画を愛好しているサイコパスだから、きっとメフィラス君の悪だくみもある程度は泳がすけど、絶対に成功はしないだろうラインでカウンター仕掛けてくると思うな」
「私に匹敵する何者かを神がつかわすと?神風を信じている?」
「違う。神様はだれも守らない。料理の仕上げに塩をひとつまみ気まぐれにいれて味を調えてるくらいはするかも」

最高にエキセントリックなシェフの気まぐれ料理。多分、地球ってそういうものなんじゃないかと思っている。メフィラス君を見ていて思う。宇宙はちっとも面白そうじゃない。少しも好奇心がそそられない。なんてつまらないんだろう。

「カウンターを喰らう日が来るよ」
「貴方の言を信じるなら、それでも多少の犠牲は出るのでしょう?神はそれも多少のスパイスとして楽しむ、と。自分も死んでしまうのが恐ろしくはないのですか?」
「好きに生きてるもん」
「ここで人類に興味を抱いた外星人に慰み者にされても?」

するりと不埒な手が伸びてきて、私の腰を撫でさすった。あたたかい、人の手をしている。

「私は蟻にこんなことしなかったけどなぁ」
「ぐちゃぐちゃにしたんでしょう?まだカウンターはないようですね」

体重をかけられたらどうにもならない。

「やめといたほうがいいよ」
「なぜ?」
「ミイラ取りがミイラになるから」
「私があなたに絆されると。中々のご自信ですね」

囁きながら耳元に口づけが降ってくる。
抵抗が無意味なのは経験からわかっているので、くすぐったいのをこらえる様に身をすくめた。

「蟻より、犬に近いのかも。ハグして、チューくらいはするかも。ペットロスは悲しいよ。メフィラス君は才能ある」
「貴方を篭絡させる?」
「違うよ」

息がじわじわあがっていく。人の身体なんて簡単だと思っているであろう宇宙人のほっぺをなけなしの力でちょっとだけ抓った。

「『好奇心』が強いから――とっても人間の才能がある」

目を真ん丸にして、うごめいていた手がとまった。
それから何がそんなに面白いのか、満面の笑みを浮かべた。ほら、こういうところだ。

「では、試してみましょう。貴方に私が溺れるかどうか――『有言実行』私の好きな言葉です」

口癖のような好きな言葉ができてる時点で君の負けなんだよなぁと思いながら、私は外星人の未知への挑戦へと付き合わされた。
どこまでも底意地悪く触れてくる手と、瞬きもしない目。
ゲームが好きだった。小説家の傍ら、ゲーム実況配信で稼いで、ひきこもって生きてる自分がまさか宇宙人と出くわすことになるなんて思いもしなかった。
だから多分。
自分を全ベット。掛け金はこれ以上にない。

「めふぃらす、くん、」

息があがる。名前をつっかえつっかえ呼ぶ。

「すごい、にんげんって顔してる、よ」
「まだ、余裕があるとは・・・これはこれは失礼いたしました。空気を読む、私の中々好きな言葉です」
「〜っ、うぁ、」
「そうそう、そうやって哀れにのたうって見せてください。」

とても人間の才能がある。
私は新しいゲームをしている。何度も何度も繰り返す。睦言のように。
眼の前にいる自分よりも遥かに高知能なイキモノに囁く。
あまりにもニンゲン的な行為の真似事を繰り返す異星の民を、じっと見つめた。

「めふぃらすくん」

彼は名前を呼ぶたびに同じように私の名前を呼んでくれた。
それも良くないよ、と思う。名前はとても力がある。名前を呼ぶ。それだけのことのように見えて、ものを縛る。メフィラス星人は、名前を名乗らない。いつか聞き出してやろうと密かに企んでいる。

カウンターはとっくに発動していると思った。
神様はサイコロを振ったのだ。出会うはずもないモノに出会った瞬間に、神様の賭けは始まっている。

蟻の巣を思い出した。
遠い夏の日に、ぐしゃぐしゃにしたくなった完璧な世界。
メフィラス君の汗がぽたりと頬に伝った。ほら、やっぱり完璧よりも――この混沌こそがなによりも愛おしいのだ。







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