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恋愛ブラインドネス


これは後にゴーストマリッジ事件とナイトレイブンカレッジの一部界隈で名付けられることになる一連の大騒動の一幕である。学園長によって花婿候補に推薦されたイケメン男子高生がすでにもう幾人も幽霊花嫁イライザ姫による平手打ちのダメ出しをくらっていた。


「それにしても学園長、毎年適当にやっててよくこれまでこんな事態にならなかったよな」

今年の俺たち運悪すぎ?とエースの言葉にクロウリーは「そういえば」と右手をあごに当てた。

「この時期はハルがいつも忙しそうでしたねえ」

ハル、とは学園長の恋人であるらしい。こいつに恋人?と新入生は趣味の悪い恋人の顔を一度は想像したことがある。どうやら昨年までこの学園で事務方を担当していたらしい。

「・・・・ハルさん、ホグワーツに教員で採用されて・・・・惜しい人材を失った・・・」

リドルはそこまで言ってから、はっと何かに気が付いたように学園長を見た。

「ハルさんがこれまで気を配ってくださってたのでは?!」
「気を?」
「生徒が幽霊プリンセスに見つからないようにですよ!」
「い、言われてみると、そんな気がしますね?!私の恋人、優しいので」
「連絡してみます」
「は?」
「ハルさんですよ。何かご存じかもしれませんし」
「ちょっと待ってください、え、リドルくん、きみ今なんて言いました?」
「何かご存じかもしれないと、」

リドルはいぶかし気に繰り返す。クロウリーは違うもっと前ですよ!と叫んだ。

「連絡してみます?」
「それです!な、なななんで君が彼女の個人的連絡先を?!」
「・・・・・・こういう時のためだと思うんですが」

リドルはじっとりとした目で学園長を見た。そもそも問題、これまで問題を放置していた学園長に問題があるのだ。

「昨年学園を離れる際に、当時の寮長は全員『もしもの時は連絡してね』と連絡先を頂きました」

「聞いてません!」

「なになに、学園長やきもちやいてんの?ウケる〜」

エースが茶化すようにはやし立てた。

「リドル君、ちょっと即刻その連絡先を消してですね」
「お断りです」

これはリドルたち寮長の間ではこれまで秘匿されてきた対学園長用の切り札である。みすみす手放すはずもない。
リドルは躊躇うことなくハルに連絡を入れた。やめさせようとする学園長を残りのメンバーで羽交い絞めにすると「こんな不始末を耳に入れたら私怒られちゃうじゃないですか!」とどこまでもダメな大人の見本のような悲鳴をあげた。

「捨てられちゃったりしてな〜」
「はっはっは!あ、ああああありえませんよ!私と彼女、ラブラブですので!ええ、ほんとに」
「じゃあ問題ないじゃん」
「格好をつかないでしょう!」
「大丈夫ですよ、学園長はいつも恰好ついてないです」

エペルが小声でぐさりと学園長の痛いところをついた。
相手は幸いにもすぐに出てくれたらしい。クロウリーがこの世の終わりだとばかりにうめいている。

「え?はい、はい・・・・そうなんです、幽霊の姫君が。はい・・・・・え?学園長?ええ、あの・・・・いえ、そちらは特に・・・・・その心配はいらないと思いますが・・・・あぁ、はい・・・・・・そんなことまでしてらっしゃったんですか・・・・」

徐々にリドルがげんなりとした顔になる。

『リドル君?どうかしたの?』から『ああ!いつもの!』までは通常通りのハルであったがリドルが花婿が選ばれてしまってと口にしたところで彼女は少しパニックだった。『え!クロウリー見つかっちゃったの?!嘘!だってちゃんとこの時期はクロウリーに幽霊には見えなくなる魔法薬入りのクッキー食べさせてたのに?・・・こないだ送ったの食べてないのかな・・・・どうしよう、いつかこんな日が来るんじゃないかって心配してたんだけれど』

正直途中でリドルは頼る人を間違えたかな、と思った。彼女はクロウリーをしかりつけることのできる稀有な人材ではあったが、やはり恋人なのだ。恋は盲目。恐ろしい・・・・とリドルは眉間によった皺を指でほぐした。一人では手に負えない。リドルは通信回線を画像有りに切り替えた。

「選ばれたのはシュラウド先輩です」
『イデアくん?!――な、なるほど・・・・見る目があるなイライザ姫』

なるほど、ではない。あからさまにほっとしかけた後で、むしろ生徒が犠牲になりかけていると気が付いたようで自分を自制するつぶやきがいくつか漏れ聞こえていた。
180センチ以上の高身長、贅肉のついていないスリムなボディ、清潔感溢れる美肌、切れ長の目、チャーミングな笑顔、キューティクルが光り輝く髪、思わずキスしたくなる印象的な唇・・・・総合するとハルの中ではひとつの正解があった。

(クロウリーが花婿にされてしまう!)

花婿の条件はハルにとってはクロウリー以外の何物でもなかった。事務員時代、毎年この時期はクロウリーが花婿に選ばれてしまわないように、おんぼろ寮から遠ざけたうえで姫君の話し相手を務め接待していたらしい。
これは盛大なのろけでは?とリドルは常識人だと思っていた人の理性をその日初めて少し疑った。
ディア・クロウリーの恋人がただの常識人なわけもなかった。そもそも画像をオンにしたのも盛大に後悔した。彼女は浮かれたアロハシャツを着ていた、この時間だから勿論私服なのだろう。レディのプライベートにかけたのだから、私服について言及するべきではない。だが、だ。その浮かれたアロハシャツとまったく同じ柄をこのホリデー終わりにリドルは見た。学園長が着ていたものだ。思い出してから頭痛がした。絶対に突っ込んではいけない、そんな暇はないと本題を進める。

「・・・・魔法薬というのは?」
『守護霊の呪文かけて作ったクッキーだけど見つかってからじゃあ効果がないから・・・あくまでも見つけにくくなるってくらいのレベルだし。だから私はあんまりお役に立てないかな・・・・あ、でもイライザ姫の好みはちゃらついた男ではないはず!爽やか王子様系!』

それでよくクロウリーが選ばれてしまうなんて心配がこの人はできるな、とリドルは思ったが口には出さない。突っ込みを完全に放棄した。

「例の指輪をはめるために、幾人かがすでに挑戦しましたが壊滅状態です」
『そっか、ごめんねちゃんと申し渡しを学園長にはしたと思ってたんだけど・・・!』
「今後は寮長会議の方に贈っていただけると助かります」
『・・・・・学園長の存在意義とは・・・・・あー、うん了解しました。元ボドゲ部顧問としてはイデアくんの無事救出を心から祈ってるよ・・・!遠くにいて何もできなくてごめんねリドル君』

何かホグワーツでも資料がないかを調べてみると約束したところで春からの通話は終わった。最後の方で『あれ・・・?嘘っ、いつから通信画像オンに?!え、え、リドルくん?!あの、今のは今のは違うの!いつもはこんな派手柄着てないんだよ?!ほんと、ほんとだから!!――あー、あのね、いまの、は見なかったことに、』ぶつん、とリドルは通話を終了させた。

にんまり弧を描く学園長の口元を見て、深く深くため息をついた。
わかったのは、恋は盲目、ということくらいだった。



***



全てが万事丸く収まったイライザ姫は最後に言った。

「そういえば、去年までいたあの子に伝えてくれるかしら?今年は見かけなかったら普段よりも遠くまで王子さまを探しに行ったらイデア様を見かけたのだけれど」

「あの子?」
「ハルよ」

姫君は顔をしかめてから「男を見る目をちゃんと養いなさいなって伝えておいてちょうだいな。恋バナは楽しかったのだけど・・・・趣味が悪すぎるわ!」

後日リドルはそのまま伝言をハルに伝えた。たっぷり10秒間沈黙した後で「でも、あの、・・・・、優しいんだよ?」とフォローしようとして失敗していた。

「・・・・・ホグワーツでいい人を探した方がいいのでは?」と本気で忠告すると苦笑いでごまかしているあたり、もうどうしよもないのかもしれない。惚れた弱みというのはこういうものなのかと、恋愛に縁遠い男子高生は思ったけれど、あまり参考になる恋愛事情にも思えないよねー、というケイトの言葉に全員が頷いた。

後で学園長に一連の流れを嫌味まじりに報告すると大真面目な顔で「リドル君、ホグワーツと全面戦争なんてことになったらどうするんですか!」と学園長に抗議された。
戦うのは学園長だけなのでは?と寮長一同思ったが、もう面倒なので黙っていた。






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