My Blue Heaven | ナノ
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14.5


「春さんが時々死ぬほど可愛い恰好してる日があるけどアレなに?どういう法則?」

太刀川がストレートに疑問を口にした。その場にいた全員が頷いたので、春は半笑いだ。可愛いってそんなまさか、という顔だ。
S級作戦室で井戸端会議をするのが最近のはやりなのだろうか。この日は太刀川、加古、迅、月見が顔をそろえていた。部屋の隅では冬島が勝手にレゴのお城を作っている。

「春さんはいつでも可愛いけどさ」と迅が言い添えるのを太刀川が胡乱な顔をしてみている。

「証拠写真があります」と太刀川がスマホの画面を春に突きつけた。綺麗な編みこみで髪が結い上げられ、服装のトータルコーディネートも完璧だ。指先の手入れもされているのがわかり、ネイルもばっちり。化粧はうっすらながらも、普段の倍以上の効果を発揮している。

(あー、なるほど)

と、脳内で春は更に半笑いした。納得した。時々死ぬほどちゃんとした『女子力』が発揮できる日に思い当る。春にはファッションのコーディネーターのような人がいる。持っている服の7割はその人が選んでくれたものだし、化粧品もまたしかりである。忙しい人のはずだが、完璧主義が過ぎるのが困りものだ。

「デリバリーでトータルコーデしてくれる親切すぎる人がいるんだよ」
「え、まさか赤井さんが?!」と迅が言う。惜しい、そっちはあまり服装にはこだわらない方である。不健康極まりなく煙草を吸っているくせに、やたらと春の体型には口うるさいが服装に関してはノータッチなのが赤井だ。

「降谷さんっていう、パーフェクトヒューマンがいましてですね」
「金髪のイケメン?」
「そうそう。太刀川くん見たことあったっけ?」
「前、大学の校門とこで車に拉致られていくのを見た」
「私も見たわね〜それ」と加古もいう。

そういえばあの人はボーダーに来たことはなかった。三門によることがあれば顔を合わせていたので、皆知っているような気がしていた。あの時は通報した人がちらほらいて大変だった。残念ながら誘拐犯が警察である。それも結構えらい人。

「最高の女子大生活を保障するのが生きがいみたいなとこがあるんですよ。ほらゆるふわ女子大生ファッションでしょソレ」

太刀川の証拠写真は数枚存在したので、一枚一枚スライドして見ていく。編みこみであったり、ゆるふわウェーブであったり。化粧も季節を意識した色使いだ。さすが元トリプルフェイス。役作りが細かいにもほどがある。研究に研究を重ねた結果がもれなく春に発揮されるのだ。顔は何ともしようがないが、化粧でそれがカバーできるのがすごい。

「その人もFBIなのかしら?センスいいわよね〜」
「いやそっちは国家公務員かな。日本の人だよ」

見てくれはどこかの国とのハーフっぽくもあるが、詳しくは知らないし『僕の国』を自称するほどの愛国心の持ち主なのでそこは強く主張しておく。FBIだと思われるのは心外のはずだ。

「昔、お世話になって、今でもたまに遊びに来てくれるんだよね」
「じゃあ、全部フルヤさん?チョイスなのこれ」

可愛い、と評されたそれらを眺めて「うん」と頷いた。

「というか、大学決まった時にもともと持ってた服は全部ゴミ袋に捨てられたから、今ある服は降谷さんの検閲通過したやつだけだね!」

「まじか。春さんのまわりやべーのしかいないよな」

「え」

「普通、野郎に服はそろえてもらわないだろ」

「服を贈るのは脱がすため、なんて言うし。そういうのどうなの春さん」

「・・・・あのころはいろいろあったんだよ。そして降谷さんそういうんじゃないから。どっちかというと就職を待たれていたというか」

遠い目をした。そうか、これは言わないほうがいいことなのだなと春は学習した。あまり詳しいことを話す機会がなかったし、これまで気にしたことがなかった。

「でも、こないだ太刀川くんとも買い物いったじゃん」
「春さんのファッションセンスって微妙に悪いよな〜」
「店員さんが私の選ぶのより、太刀川くんの適当に持ってくる奴のばっかり推奨するからほんとに凹んだ。素敵な彼氏ですね、というのを否定するのを忘れるくらい凹んでた」
「だめってか、微妙」
「・・・・微妙なのを選んだのは太刀川くんの服についてだけだよ」

実際、服なんて普通にマネキンが着てるやつを選んでおけばいいのだ。まちがいない。春は店員さんを信じている。その店員さんを上回り、なおかつ春個人に似合うコーディネートを繰り出す降谷がすごすぎるだけで、春のセンスは至って普通だ。

「・・・・太刀川さんと買い物いくの春さん」と迅がつっこんだ。

「たまたま買い物してたらばったり会って」
「春さんが選んだダサいTシャツは寝間着にした」
「なんでさ!着なよ!むしろそれ着て大学に来るべき!」
「キャラもののTシャツとかないわー」
「ないから着ろって言ってるんだよ。ださい恰好をして目を覚まさせてあげるべきだ。大学構内には太刀川くんに夢を視ている女子が多すぎる・・・」
「そこもしかして狙ってた?」
「あたりまえでしょう!ユーイチ君にだったらあんなの選ばないよ!」
「いーやっ、結局またダサいのになるね!迅だって寝間着にするね!」

立ち上がった春が首根っこをつかんでゆするのをものともせずに、太刀川が鼻でわらった。

「あらあら」と月見はちらりと隣の迅を見た。

「言われてるわよ迅くん」と加古も意味ありげに笑う。

ヒートアップしだした二人の間に割って入りつつ、迅は肩をすくめた。

「よぉし、そこまでいうならやってやろうじゃないか!行こうユーイチ君今ならまだしま○ら空いてるから!最高の一着を買いに行こう!」

「そこで行くのがしま○らかよ」

「せめて駅前の百貨店くらいには行ってあげるべきね春さん」

「ぐうっ、わたしはしま○らの素朴な味わいが好きなのに・・・いやハイブランドも嫌いじゃないけれど」

「おれは別にどこでもいいけど」

「いや、行こう!いやでもやっぱりちょっと待ってね、男物の服とかどんなのがいいか情報をしっかり集めてからにするから!研究するから!」

そうだ、むしろそれをホワイトデーのお返しにしよう、と春は閃いていた。手始めに降谷に男物のハイブランドについて相談だ。

「フルヤさんとかに相談すんの無しな」

「太刀川くん黙って!べ、べつに降谷さんじゃなくても、ネットとかで調べるし」

「俺の服もちゃんと選んでよ」

「全然興味ないです」

作戦室にかけてあるカレンダーの3月の予定に迅とのショッピングを赤ペンで書きこんだ。そこまでには、色々下調べをしておこうと春は心に決めた。




***



「あら、迅くん珍しいところで会うわねえ」と月見は笑った。
迅はこれも視えていたのか、頬を指でかいた。

「えーっと、蓮さん、これは、その」
「おすすめはこっちね。迅くんが持ってるのは少し初心者には難しいと思うの」

月見が差し出したのは、かんたんヘアアレンジ、と書かれた雑誌である。

「・・・・・」

「あら、こっちもおすすめよ?季節のコーディネートが一冊でわかるし。勿論流行りを把握するには雑誌も定期行動したらいいとは思うけれど、定番を抑えるのが一番よね」

と、さらに反対側から差し出された本を持っているのは加古である。

ネットではなく本屋で買うことにすればこうなる未来は視えていた。だが迅は面倒な二人に借りを作ってしまうのはわかっていても、それぞれ春が『可愛くて大好き』な二人で、薦めてくれた本に間違いはないのがわかっていたので回避しなかった。
迅は両方、レジでお買い上げした。




***



「珍しいですね」と降谷が言った。

「ん?ああ、これね、ユーイチ君がやってくれたの!男の子もこういうの興味あるものなんだなぁ」

綺麗、とはいいがたいけれどかなり形になった編みこみがほどこされた髪をじっくりと降谷は眺めてから、

「俺の試験は厳しいですけどね」とつぶやいた。

試験てなんの?と首をかしげたら、ものすごく深いため息をつかれたのは納得いかない。なんだこの人。いきなり来たと思ったら、これである。

「どうせぐしゃぐしゃにして来るだろうと思ってたけど、まぁ手間は省けた。ゆるんでるの治しましょうか」

「いやいやいやダメです、ユーイチ君の作品だから。三日間くらい保存したい勢いなのに」

「・・・・やれやれ」

「やれやれはこっちですよ。事件のデータどれですか?」

「そっちのファイルに入ってますよ」

降谷は上から下まで、春を見た。

「服も珍しい」

「こないだウィンドウショッピングしてたらユーイチ君とでくわして、服見るの付き合ってくれたんだー。若者のセンスですよこれが」

「殴っていいところかな」

「きゃー、おまわりさん助けて!」

三十路を通り越してなお童顔で、20代にしか見えない人はにこりと笑う。イケメンの笑顔は殺傷力が高い。喫茶店の奥でがしゃりと何かが割れる音がした。きっとこの微笑みに見とれて手元が狂ったに違いない。イケメンって罪深い。

「おまわりさんは俺ですので」

「ですよね」

「・・・・赤井は知ってるのかこれ」

「はい?」

「なんでもありませんよ」

「はっ、そうだ降谷さん今回は今の男子大学生が着るような服のブランドのリストが報酬で欲しいです」

「どんなダサい服だろうが、君が選んだ服を喜んで着ないやつは逮捕します」

「いや、そういうのは求めてないです」

「・・・どうせおっさんの選ぶ服ですし?」

しつこい性格なのを忘れていた。どんな軽口もこの人は忘れないし、一生ネタにされるので不用意な発言が命取りである。

「ああああ、やだなぁもう!!いつまでもイケメンでセンスが炸裂してるから相談してるんですよ!?この手の話を秀兄にふりませんから!」

「そこで赤井の名前を出してくるところが何とも腹が立つ」

「むかつきついでにリスト作成しましょう」

降谷はテーブルに頬杖をついた。話を聞く気になっているのか疑わしい。

「どんなタイプかによりますよ」

なんの話だ、と言えば「服にもイメージが大事でしょう」とかっちり高級スーツを着こなした男がいうと説得力がある。
つまり、服を選ぶ相手はどんな人物かということだ。

「かっこいいです」

「何の参考にもならない」

一刀両断された。後ろの席で誰かが咳き込んだのが聴こえたのが少し心配だった。降谷がそちらをちらりと見た。この人はこういうところでバイトもこなしていたので、店内を見渡すのは癖みたいになっている。

「えっと、19歳で、実力派エリートで、かっこよくてですね、笑顔にすごく癒しの力がある感じで!!!」

熱弁をふるっているというのに、降谷ときたら「へー」とか「そうですか」と気のない相槌ばかりである。

「いつも誰かのために一生懸命で、あれもう天使かな!好きな食べ物はぼんちあげで、イメージカラーは青で、えっと、あの、降谷さん聞いてます?だいじなことですよコレ」

「まぁ考えておきますけど」と降谷が言う。まぁ考えておきますってなんだ。まぁっ、て。春の報酬はそんなもんなのか。

おそらくは自分で入れた方が百倍は美味しいと思っているだろう珈琲を飲んで、自分で作った方が美味しいと思っているだろうサンドイッチを降谷は綺麗にたいらげ「じゃ、渡しましたからね」と、春を呼び出したときと同じだけの唐突さで去っていった。
なんだかんだいいつつ、後日メールでいまどきのメンズブランドとやらをリストで送ってくれたので結果オーライだ。








「春さん」

書類を確かめていたら、空席になったはずの向かい側に迅が座っていた。

「ユーイチくん?奇遇だね!」

奇遇だね、というか、迅にはこの未来が朝あったときに視えていたのだろうか。残念ながら春には何も見えていない。

「このあと暇なら、デートしない?」と迅に言われて、これが見えてなくても今が幸せだからまぁいいかなと思った。
でも迅はもっとほかの誰かを誘うべきなんじゃないかとも思ったりもする。ほんとに私とお茶してていいんだろうか。迅の10代最後の日々を無駄にさせてしまっていないか心底心配だ。

「・・・・月見ちゃんとかも呼ぶ?」と同年代の美人さんをあげてみた。そうだね、と迅もうなづいてくれてほっとしたような、さびしいような。ラインを入れたが『任務中なの』と月見には断れてしまった。次々に女性のボーダーの知り合いに連絡を入れてみた。
が。

「・・・おかしい、だれもつかまらない」

「じゃあ、仕方ないね!」と迅が笑った。

仕方ない、のだろうか。何だかみんなして示しあわせていやしないか?と思うけれど。仕方ないなら、しょうがないのか。







( *しま○ら大好きです。すいません。 )









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