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7.5


「春さんて何で迅のこと名前で呼んでんの」
「藪から棒…突然どーしたの太刀川くん」
「俺のことも慶くんて呼んでいいよ」
「え、いや結構です」

ひらめいたような顔で春が「風間くん、同期同士は名前で呼び合うのはどうだろう?」と言った。即座に諏訪が却下した。「きもい」
一刀両断されて春はへこんでいた。

「太刀川くんも私のこと『八嶋さん』て呼んでいいよ」
「扱いひどい」
「なれなれしくナチュラルに春さんとはじめて呼ばれたときは「チャラい」と思ったことを正直に言っておくね」
「迅だって呼んでんのに」
「ユーイチくんは私も名前でよんでるからまぁ」
「しかし、聞きなれんのは確かだな」

迅悠一を下の名前で呼ぶ人間はあまりいない。というか風間の知る限りではゼロだ。

「人の名前はとやかく言いたくないんだけどさ”ジン”っていう響きが、そのね、あんまりこう・・・呼びづらいんだよね。恐怖感がすごいんだよね。無理呼べない」
「春さんって普通の大学生面するけど、過去やべーよな」
「普通の大学生にFBIや公安の知り合いはいねーよ」
「俺はふつうですみたいな顔してるけど、諏訪君ボーダーにいる時点で手遅れだからね。同じ穴のムジナだからね」

春はにわかに震えあがる。気持ちとしては『名前を言ってはいけないあの人』ばりに口にはしがたい響きだ。迅悠一は、すこぶるいい青年だが、いかんせん何度か殺されかけたことのある人物の印象が強すぎた。春はよわっちい。戦闘力はゼロだ。にもかかわらず高校時代に巻き込まれた無駄にお酒の名前にだけ詳しくなっていくデンジャラスな日々は、生死が紙一重すぎて震えた。

「あとはまぁ、ソーイチのお弟子さんらしいし。ソーイチ、ユーイチで、流れかな。嫌だとは言われてないから」

ジンくんが、とかかつての面々と話すときに言うとものすごい顔をされるのでユーイチくんで統一させてもらえてとても助かった。銀髪ロンゲの黒コートを『君』づけで呼んでいるようだから、さぶいぼものだ。名前に罪はないのだけれど、条件反射のたぐいだから許してもらうしかない。聞くぶんにはいいのだ。口にしがたい、というだけで。

「じゃあ俺が『八島悠一』になればいっか」

いつからそこにいたんだ、なればいっかじゃないよ馬鹿野郎。何も解決していない。突然に会話に参加してきた迅に春はため息交じりに応じた。

「・・・ユーイチくんは自分を安売りしすぎだと思う」

つい先日の婚姻届事件を思い出して頭を抱えた。まだ19歳だろう?!人生まだまだ長いよ?出会ってまた半年も経ってない。そもそも春だってまだ青春を謳歌したい。なんのために都会を離れ地方都市にやってきたと思ってるんだ。普通に学生生活がしたかったからだ。殺人事件とか、テロとか、そういう物騒なのから離れて、同級生たちとおしゃべりして、飲み会して、サークル活動とかして、合コンとかしたりもしちゃって、恋のひとつやふたつしてみたい。血みどろ殺人事件から離れようとしたのに、より規模とスケールが増して世界を救う正義の味方の顔したブラック企業的なものに加入して戦争することになるなんて想定外すぎた。トリオン体だから血みどろは回避できてよかったな、じゃない。
俺たちの戦いはまだまだこれからだ!と思っていたのに。まだ慌てるような時間じゃないと誰か言ってくれ。








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