ここに来てから、どれくらいが経つんだろう。
壁のある異世界。ここに建つ「大樹の星」。
記憶のない状態でここに飛ばされてきたときは
どうなるかと思ったが、幸いここでは新鮮な食べ物と、
寝心地はともかく、生活できる家があった。
そして、見たことも会ったこともない、
俺と同じように記憶を失くしてここに集まった仲間たち。
最初のうちは戸惑いもあったが、
生活を共にしていくうちに、ずいぶん仲良くなった気がする。
家族みたいなものかもしれないな──と、俺は思い始めている。
──夜も更けたころ、
ふいに夜風にあたりたくなって、俺は外に出ていた。
そこには草っぱらに寝そべる津雲がいて、
俺はそいつに声をかける。
津雲。茶髪の髪にオッドアイ、狼の耳としっぽが生えた少年。
料理や家事の分担をどうするかという話で、
俺がやる、と率先して言い出してくれたのがこいつだった。
気さくで人懐っこいやつで、
打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。
たまに、尻尾や耳を触らせてくれ、
なんて言ったって、快く許してくれたりする。
「津雲、風邪ひくぞ。何してたんだ?」
「んー。星を見てた」
「星?」
俺は言いながら、津雲の隣に座って夜空を見上げた。
ここでは目だった建物もなくて、
俺たちは満天に広がる星空を見ることができた。
「最近の俺のお気に入りスポットなんだ。
こうやって夜風にあたりながら星を見てると、
色んな事を思い出せる──気がする」
「思い出せるって?」
「俺たちがどこから来たのかとか、何をやって生きてきたのかってこと」
津雲はそう言うと、よっと起き上がって、
こっちを見て笑うと、尻尾をぱたぱたとやった。
「まあ、やっぱり思い出せないんだけどな」
「そうだろうな」
「あ。でも。こないだ一個思い出したんだ」
「へえ、何を?」
「故郷の事」
津雲は嬉しそうに、けれど少しだけ寂しそうに語る。
「俺は、将来、その故郷を収める人になるんだってこと」
「収める?お前がか?」
俺は茶化すように言った。
「あ、言ったな。そりゃ、頼りないかもしれないけどさ。
でも、すごく懐かしいような感じがするんだぜ。
そういう気持ちの時、星を見てるとさ、落ち着くんだ」
津雲はそう言うと、また草っぱらに寝そべって、星を数えはじめた。
もちろん星は数え切れないほどあって、
こいつはどこまでそれを数える気なんだろう、
と心の中で微笑ましく思いながら、俺も津雲の横へ寝そべった。
「あ」
俺たちは声をそろえた。
俺が寝そべったすぐそのあと、空に流れ星が流れたからだ。
「やべえ、シド!何お願いした!?」
「あんな急に出てきたら思いつかねえよ」
「甘いな! へへ、俺はちゃんとお願いできたもんね」
津雲はそう言うと、得意げに耳をぴんとやった。
何を願ったのかは少し気になったが、
そういうもんは心の中におさめておいたほうが、
叶いやすかったりするもんだろう。
と俺は思って、その内容は聞かないことにした。
──津雲は、やっぱり無邪気だ。
こうしてると、弟ができたみたいで、俺は少しだけ嬉しかった。
「・・・ああ、こんなところにいたのか」
そう言って出てきたのはクレールだった。
夜遅くに見当たらない俺たちを心配して、姿を探しに来たようだった。
「もう遅い。戻らないと風邪をひくぞ?」
「おう。悪いな、心配させて。
津雲のやつが言うこと聞かねえからよ」
「ちょ、おい。シドだって一緒に見てたじゃんかよ!」
津雲は抗議の意を示そうと、尻尾をばたばたさせながら言った。
その様子に俺はけらけら笑って、
釣られてクレールも笑いをこぼしていた。
「よし。じゃあ、そろそろ戻るか!
明日も早起きして、キノコ狩りに行くんだ」
「ああ、丁度足りなくなっていたところなんだ。
ミルメコレオたちが肉を持ち帰ってきたし、明日はハンバーグにしよう」
「いいな。俺も手伝うぜ」
「俺も俺も!」
意気揚々と明日の予定を立てると、俺たちは「大樹の星」へ帰っていった。
流れ星への願い事は、今からでも間に合うだろうか。
──そうしたら俺は、そうだな。
ここにいるやつらが、一緒にいてくれるお前たちが、
元の世界に戻ることがあっても、
いつまでも元気でいてくれますようにって、そう願うことにするよ。
-----
千穂より。自キャラのシド視点で、
善陣営の家事組(おそらく)を書いてみました。