百合の花を摘む時 | ナノ



あの日の事


凄く凄く気になっていた。
顔は整っている…はずだ。
そこのところに少し自信がないのは、僕が彼女を見かける時、決まって彼女はしかめっ面で僕の事を睨んでいるからだ。
何か彼女にしただろうかと記憶を辿っても、思い当たる節が何もない。
話をした記憶さえない。
彼女はいつも僕の取り巻きの女の子の一人にくっついて来て、僕になんて興味なさそうに、むしろ嫌悪しているようにただそこに立っていた。
ただ、その取り巻きの女の子が帰ろうと声をかける時に見せる笑顔が、たまらなく可愛いのだ。
天使のようだと、僕は女性に対して始めてそんな感情を抱いた。

「それがまぁこんな結果になるとは…」
僕は相変わらずベッドでうんうんと唸っているダリアを見つめて独りごちる。
嫌われている自覚はあったが、まさかこんなに込み入った事情があるとは思ってもみなかった。
「これは失恋前提…なんですかね」
しかしビックリするほど諦めようと思わない。
「…困りましたね」
何せこちらから女性に興味を抱くなんて初めてのことで、それだけで手一杯だ。
そこに今回の事情は中々にヘヴィーだ。
どうしようかと次の手を考えていると、ガラガラッと保健室のドアが開いた。
教師かと思いそちらに目を向けると、そこにはダリアの想い人が立っていた。
「…」
明るい印象を抱いていたが、その顔は不安と焦りに満ちていた。
ダリアの体調を心配しての事かと思ったが、僕の腕をガッと掴んだ時点でそれはないと確信した。
「あのっ…!私ジョルノに伝えたいことがあって…!」
そうしてグイッと腕を首に回される。
ポケットに入れたクッキーがパキっと音を立てて割れた。

「ん……ここは…」
私が目を開けると、そこは真っ白な天井が広がっていた。何だか現実味の薄い景色だ。
こんなものよりも、夢の中で起きたジョルノさんの暴動の方がよっぽど…。
ぽやぽやと寝起きの頭で考え事をしていると、横になっている私の足元で「ダリア…?」と言うか細い声が聞こえた。
「え…」
「よかった。起きたんだね」
そこにいたのは意中の彼女で、私はぱっと表情を明るくした。
「あ、ありがとう。待っててくれたんだね」
「うん。先生は軽い貧血だって言ってたけど…その、色々あったみたいだから、そのせいもあるかなって、皆が」
そこで私は、あれが夢ではない事に気付いてしまい、また頭を抱えた。
「わっ大丈夫!?まだ具合悪い?」
そんな私の些細な行動にも気を使ってくれる彼女は本当にいい子だなぁと思うのと同時に、あの時職員室に行っていたとしても、きっと彼女の耳にも一連の出来事が入っているのだろうなと不安になった。
そしてやはり私は顔に出やすいのか、顔を上げると彼女は眉をハの字に下げて「ダリアは悪く無いよ」と言い、ポロっと涙を流した。
「私、ジョルノにふられちゃった」
その子はどうにか笑おうとするが、ぽろぽろと両目から涙が溢れて止まらない。
私は咄嗟に抱き締めようとしたが、彼女が告白に踏み込んだ理由を考えて、伸ばした手はきゅっと行き場もなく下げられた。
複雑だ。
嬉しい、のに。
原因は私で、彼が好きだというその相手はきっと、
「……」
喉の奥がきゅうっと痛くなる。
「ねぇ、あの、私ね、本当は」
「?」
「…なんでもない」
言いそびれた言葉は、胸の痛みとともにその後もずっともやもやと腹の中に残った。
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