百合の花を摘む時 | ナノ



叶わぬ恋


今日も雑踏の中、私は遠巻きにそれを見る。
私の好きな人、それは、前髪に三つのカールをあしらった少年。
に、猛烈にアピールしている女の子だ。
朝のカフェに集まっている女の子の中でも、当社比1番可愛い彼女は私の幼なじみで親友。
そう、親友なのだ。私がレズビアンである事も、当人に思いを寄せている事も彼女は知らない。
そんな彼女と私の毎朝の日課が、今ここ、通学路を少し迂回したカフェでジョルノさんを囲む事だった。
しかし私は全く興味が無いので、ジョルノさんを見つめる彼女を少し距離を置いた道端から眺めている。
これが、私達の日課。

「ダリアがいてくれてよかったー!」
学校に着き各々の席にカバンを置く。何と、私と彼女は席が前後なのだ。神様ありがとう。
「珍しいね、あなたが宿題を忘れるだなんて」
私はパラパラっと中をチェックすると、昨日の課題が写してあるノートを彼女に渡す。
「うん、昨日ちょっとジョルノを追いかけて寄り道してて」
余韻に浸ってたらつい忘れちゃった。と言って舌を出す彼女は、ミロのヴィーナスもビックリするほどに完成された美であった。
しかし。
「ジョルノさんか…」
私が嫉妬の独り言を呟くと、ジョルノ、と言う単語につられて彼女があのねと声を出した。
「そう言えば昨日のジョルノってばね、やたら遠くまで行くなーと思ってたら最近出来たクレープ屋さんに並んでたんだよ?超かわいい〜〜〜!」
ノートに鉛筆を走らせながら、彼女はニヤけ顔でそう言った。
「…うん、そうだね」
ジョルノさんの話をする時のこの子は、1番いい笑顔になる。
キラキラしている、恋する女の子の顔だ。
私は視線をノートに移すと、チクっと胸の奥が痛むのを感じた。
「そしたらジョルノってばトリプルチョコミックス頼んでて、どんだけチョコ好きなんだよ〜!なんて内心突っ込んじゃって」
さらさらと綺麗な文字がノートを埋めていく様子を、私はジッと眺める。
ジョルノさんが何を食べようが私は全く興味が無い。しかしそれはこの子にとっては違うのだろう。
またキラキラと、眩しい笑顔で楽しそうに話す。
可愛い、綺麗、とても愛しい。
悔しい。
「(どうせ叶わぬ恋なら、1番近い友達として、この笑顔を見守っていたい…)」

なんて思ってても現実はそう割り切れるものでもなくて。
「はぁ…」
現在午後12時15分。
部活のミーティングがあるという彼女を見送って、私は一人中庭で購買のパンを食べていた。
もう寒くなってきたからだろうか、あまり外に生徒の姿は見当たらなかった。
それが今の感傷的な気持ちに丁度良くて、私は行儀が悪い事を承知で、食べかけのパンを持ったまま芝生に寝転んだ。
「…」
風が気持ち良い。カーディガンを着てきて正解だった。
「(恋って切ない…絶対に叶わない恋なんて、するだけ虚しいだけなのに)」
目を閉じるとぐるぐると頭をかき回すのはいつだってあの子だ。
小さな頃に誘拐のような事に巻き込まれ、それを救ってくれたのが彼女だ。私には彼女しかいないんだ。
私がネガティブな感情に取り憑かれようとしている時、パキっと近くの芝生を誰かが踏む音がした。
「!」
安心しきっていた私が驚くと、そこには今1番会いたくない相手が立っていた。
「先客がいたようですね」
…ジョルノさんだ。
ジョルノさんの手には私と同じく購買のパンが握られていて、彼もここに昼食を取りに来た事がわかった。
「…私、退くんで、どうぞ」
憎き恋敵に日課以外で会いたくない。
その一心で私が食べかけのパンをビニールに入れその場を立ち去ろうとすると、ふとぱしっと手首を掴まれた。
「!?」
「…いつも、朝、遠巻きに僕のことを睨んでいますよね」
ですよね?と、悪戯っ子のような顔で私の顔を覗き込んでくる彼は、なるほどあの子もその他の女の子も熱中するような、整った顔立ちをしていた。
「同じ学年の…あー、名前は何でしたっけ」
「覚えてもらわなくて結構よ」
そう言って私は軽く掴まれた腕を振り払う。触れられた箇所から嫌悪感がふつふつと湧いてくるのは気のせいではない。
何だ?不本意ながら毎朝見ている彼は女子生徒に見向きもしないのに、何だこの対応は。
負の感情には敏感なのだろうか。
「カフェ以外で会ったのも何かの縁です。お名前を教えてくれませんか?」
「………」
もしかして根に持つタイプなのだろうか…?
私がジッと彼を見つめていると、彼は何が面白いのかフッと笑うと「今日はこんな所でいいです」と言った。
…?何が今日は、なのか。彼がここで昼食を取る事がわかった今、もう私は金輪際ここに近付かないというのに。
「じゃあ、失礼します」
ぶっきらぼうにそう言うと、私は返事を聞く前にその場を去った。

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