単発夢 | ナノ



Butterfly(ジョルノ)


空は綺麗なパステルブルー。
祝福のウエディングベルが鳴り、白い鳩が大空に自由に羽ばたいていく。
ピンクや赤の色鮮やかな花弁が、風に吹かれて空に舞い上がる。
皆の歓声に応えるように式場から出てきた新郎新婦は、とても幸せそうな顔で皆に手を振る。
私はその様子を、少し遠くから眺める。
ギャングスターの結婚式は身内だけで、と決めていたのだが、気付けば結構な人数が集まっていた。
これもジョルノの人徳あっての事だろう。
流石、私達のボスなだけあると言うものだ。
「みゆ」
トン、と肩を軽くぶつけて来たのはミスタで、レンタルしたスーツを少し着崩して私の名前を呼んだ。
「大丈夫か?」
「何がよ」
「…ジョルノの事だよ」
そう言って幸せそうに皆と会話を交わす、白いタキシードに身を包んだジョルノに目を向ける。
「うん。心から祝福してるよ」
「結局、言わないままになっちまったな」
私は密かにジョルノに憧れていた。
しかしとうとうその想いを伝える事はなく、この日を迎えてしまった。
「だから俺はさっさと告れって言ったんだよ」
「もう、せっかくのおめでたい席でやめてよ」
トンッとミスタの脇腹を突つく。
ミスタには何かと相談に乗ってもらったりした。
でも、それも今日で本当に最後だ。
この風に舞う花弁と共に、私のこの気持ちも吹き飛ばしてしまおうと決めたのだ。
「ブーケトスの時間です〜」
参加したい方は集まって下さいとアナウンスされる。
私はまた見ているだけのつもりだったが、ミスタに背中をドンッと押されてしまった。
「いたっ」
「行っとけ。新しい恋の始まりに」
「…」
そう言われてしまうと弱い。
私は気は進まないが、これも区切りだと足を踏み出した。
若い女性が集まっている階段下の一番後ろに立ち、改めて新郎新婦を見つめる。
二人とも幸せそうに微笑み、その手には指輪が光っている。
チクリと、胸が痛んだ。
「じゃあ、投げますー!」
新婦の掛け声に、わっと若い女性達が湧く。
ふわっと宙に浮いたブーケは思いの他勢いに乗って、リボンをヒラヒラと揺らしながら下に落ちた。
「っあ…」
ブーケは手前の女性達を飛び越え、後ろで突っ立っていた私の胸にトスッと落ちてきた。
わーっと周りが湧き立つ。
おめでとう、幸せになれよ、など言いたい放題だ。
私が少し照れながら曖昧に笑っていると、ジョルノがゆっくり階段から降りて、私の前に立った。
「ブーケ、取っちゃった」
ブーケを胸の前に持ちながら、ジョルノに話しかける。
「よく似合っていますよ」
そう言って、ブーケからカランコエの花を取ると、私の髪にそっと飾り付けた。
「幸せになってくださいね」
「っ…」
私の髪に触れながら、これまでで一番美しいジョルノがそんな事を言う。
「ありがとうっ…」
私はそう言って咄嗟に俯いてしまった。
ジョルノは不思議そうな顔をしたが、誰かに呼ばれその場を去ってしまった。
「…っ!」
私はブーケを持ったまま、花弁が散るのも構わず建物の影に向かって走った。
物陰に入り裏庭に出そうになった時に、ぐいっと手を引き止められた。
「ぁっ…」
「…どこ、行くんだよ」
私の腕を引いたのはミスタで、私はそんな事がある筈がないのに、これがジョルノだったら、なんて考えてしまった。
「がんばったな」
「っん…」
気付けば涙がポロポロと溢れて止まらなくなった。
私はミスタに抱き寄せられ、彼の肩を借りて、ジョルノへの好きの気持ちを涙にして流した。
ありがとう、ジョルノ、あなたが大好きでした。
私の涙が零れる度に、ブーケから花弁が風に乗り海へ向かって舞っていく。
花が全部なくなる前には、きっと私の気持ちにも整理がつくだろう。
だから今だけは、と、私はミスタに縋りながら声を出して泣いた。
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