単発夢 | ナノ



飲んで飲まれて(アバッキオ)


後輩の歓迎会だったか、上司の昇進祝いだったか、そんな趣旨さえ忘れしまうほど、私は泥酔していた。
私達下っ端のチームは場を仕切ったり雑用であったり、決して楽しむ側の立場ではないのだが、一次会が終わり幹部の面々が会場を移った頃から、私達の打ち上げは始まった。
「んはああ〜〜〜!ワインもう一本〜!」
そう言って私は空のワインボトルを宙に掲げる。
「当店セルフサービスとなっておりま〜す」
そう言ってひょいっと床に直に座る私を、ナランチャが飛び越える。
あまりお酒は飲んでいないようで、美味しそうに残りのピッツァを食べていた。
「ん、んう〜…」
私はしょうがないと、千鳥足で新しいお酒を求めてホールをフラフラと歩き出した。
赤ん坊のように頭がグラグラと揺れる。平衡感覚がおかしくなっているようだ。
しかしそんなものは酔っぱらいには関係なんてなくて、私はケタケタと笑いながらシャンパンタワーの前までやってきた。
「おおー…」
それはとても、さぞ立派でお高いシャンパンだろう。
お金持ちはこれを注ぐだけ注いで、少し飲んで後は放置だ。まあそのお陰で私達がこうしてお零れに預かれるのだから万々歳だが。
そうして私がシャンパンに手を伸ばした時、その手をパシッと誰かに掴まれた。
「んあ?」
「酔っぱらいが、んなとこいるんじゃねーよ。崩れたらどーすんだ」
私の手を掴んだのはアバッキオで、その動機もとても納得いくものであった。
しかしどんな正論を並べられても、残念な事に今の私はベロンベロンの酔っぱらいだ。
掴まれた腕をするすると撫で、アバッキオの胸元のヒモを弄ぶ。
「んへへ、いいじゃんシャンパン。アバッキオも飲もうよ〜」
「これがぶっ倒れたら、一体何千万が無駄になると思ってんだ…」
そう言ってアバッキオは、私の身体をひょいっと持ち上げると、奥のVIP席のソファに放り投げた。
「わぷっ」
「んなに遊びたりねーなら、俺がここで朝まで相手してやるよ。今日の俺は気分がイイからな」
どうやらアバッキオも多少お酒が入っているようだ。ギラついた目がこちらを覗く。
「私はまだ、飲んでいたい気分なんだけど」
「そりゃあ残念だったな」
ぐっとソファに寝かされると、アバッキオがその上に伸し掛かってくる。
「私きっと、記憶がなくなるまで飲んでないわよ」
「…覚えときゃあ、いいんじゃあねぇの?」
クッと笑うと、アバッキオが私の唇を塞ぐ。それが何だかくすぐったくて、私は下からぎゅっとアバッキオを抱きしめた。
「じゃあきっと、一生覚えておくから」
「くだらねえ」
ぐいっと足を担ぎあげられ、私はもう無駄口を叩くのをやめた。
そうして私達の夜は更けてゆく。
翌朝寝不足の上に、ガンガンと頭が痛むのはご愛嬌だ。
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