単発夢 | ナノ



正午のカフェテラス(ブチャラティ)


忙しい午前の仕事を片付け、1人カフェテラスでコーヒーを飲んでいた頃、それは突然にやってきた。
「チャオ」
「!?」
さも自分の特等席だと言うように、その人物は私の向かいの席に座った。
特徴的に揃った黒髪、まだら模様に白い服装。
「えっ、ブチャラティ、何で?」
「おや、俺の名前を知っているんだな」
知っているも何も、だ。
「そりゃあ、この街であなたのことを知らない人なんていないわよ…」
私のおばあちゃんだって知ってる、と言うと、ブチャラティはフッと爽やかに笑った。
そしてコーヒーをオーダーすると、足を組んで私の顔を覗き込んできた。
私は、その射抜くような目にドキッとする。
そしてそれを誤魔化すように、ズズっとコーヒーを啜った。
「……で、そんなモテモテなブチャラティが、何で私みたいな冴えない女に声なんてかけちゃってるの?」
「君は少し卑屈だな」
ブチャラティは苦笑すると、丁度運ばれてきたコーヒーカップに口をつけた。
「綺麗なベッラがいたら声をかける、ただそれだけじゃあないか」
伏せられたまつ毛が、キラキラと太陽に反射する。
ただコーヒーを飲むだけで、こんなにイタリア映えする男は、世界にどのくらいいるだろうか?
「あなたがモテるの、とてもよくわかるわ」
私はまじまじとその顔を見つめる。
視線に気付いたブチャラティが、コーヒーを机に置いて、さりげなく私の手に触れた。
「君自身は、俺に興味はない?」
少しカサついた指が、スルッと私の指に絡みつく。
そこに嫌悪はなかった。何故なら彼がどういう人物か、この街に住み知っているからだ。
「午後の仕事、全部投げ出してもいいくらい、興味がある」
「はは、それは光栄だな」
だがそれはいけない、と、ブチャラティはコーヒーのレシートの裏にサラサラと番号を書いた。
「これ、俺の電話番号。…仕事が一段落したら、連絡が欲しい」
そしてその紙にチュッとキスをして、私の目の前にそれを置いた。
こうして私は、午前を頑張ったご褒美に、この街1番の男前の携帯電話番号をゲットする事ができたのであった。
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