みんなにキスを | ナノ



ココアで消えてしまうの(プロシュート)


「…はぁ、臭い、取れないわね」
私はゴシゴシと自分の服を擦りながら、もう日が昇って来たイタリアの石畳をヒールを鳴らしながら歩いていた。
朝日が出ていると言っても私の目的地は寂れた路地裏にあって、先程から全くお日様の光なんて浴びていない。
ただ私を挟む建物の間から、そろそろ時間だとでも言うようにチラチラと覗くだけ。
「…はぁ」
結局胸糞の悪い今日のターゲットの臭いは服から消えずアジトまで着いてしまった。
よし、この服は捨ててしまおう。
自己完結して、朝方だからと遠慮がちに扉を開ける。
きっとまだ皆寝てる筈だ。
私は玄関に入るとすぐに真っ赤なワンピースを脱ぎ、それを片手にリビングに入った。
どうせ誰もいないだろうと踏んでいたそこには、私の予想に反してソファに座る人影があった。
「おかえり」
太陽の光が入らない薄暗い部屋でそう言ったのはプロシュートで、私はワンピースを持ったまましばし固まってしまった。
「…あらプロシュート、まだ起きてたの?もう朝日が登る時間だけれど」
私は今さらどうすることも出来ず、下着姿のままプロシュートの座るソファまで近付いた。
「そんな日もあるさ。お前こそ遅かったが、何かヘマでもしたのか?」
プロシュートは自分が着ていた上着をそっと私の肩にかけた。
「嫌だなぁ、ちゃんとターゲットは殺したわよ」
ただちょっと前戯が長くて疲れちゃっただけ。
伏せ目にそう呟くと、プロシュートはそうか、とだけ呟いた。
赤いワンピースをゴミ箱に投げ入れてソファに座ると、プロシュートがココアを入れよう、と言ってキッチンへ向かった。
「グラッチェ」
私はソファの上で膝を丸める。
先程までプロシュートが着ていた服は暖かくて、プロシュートの香りが仄かにして凄く安心した。
外では鳥がチュンチュンさえずり、キッチンからはプロシュート特製のココアの甘い香りがしてきた。
まるでさっき自分が人を殺していただなんて夢のようだ。
「ほらよ」
「ん」
プロシュートからお気に入りのマグカップに入ったココアを受け取る。
「まだ熱いから気をつけろよ」
「マンモーニじゃあないんだから」
フーフーと念入りに冷まして、コクリと一口ココアを飲む。
いつもより甘めのそれは、任務終わりの体に染みた。
「はー落ち着く」
私はやっと全身の力が抜けリラックスして、ソファにダラっと体を預けることが出来た。
「明日も任務だろ」
床に適当に置いたバッグを拾いながらプロシュートが言う。
「何だか私ばっかりごめんね!みんな暇なのに」
「暇は余計だ」
プロシュートは苦笑しながら軽くコツンと私の頭を叩いた。
私は下手くそに笑い、もう一口ココアを飲む。
「…仕方ねーだろ、女はお前しかいねーんだから」
そう言ったプロシュートは何処か物悲しそうだった。
「…そうだね、だからみんなの分も頑張るよ」
私は自分の膝をぎゅっと抱えて続ける。
「まぁ、こういう任務が続くと、ギャングと言うより娼婦にでもなった気持ちだけれど」
テーブルにコトン、とマグカップを置き、光なんて入ってこない窓を見る。
股を開く事と殺しだと、比べる以前の問題だと言うのに、前者の方が疲れるだなんて私は馬鹿だろうか。
私がぼーっと何もない空間を眺めていると、不意にソファに置いていた手にプロシュートの手が重なった。
「娼婦でもなんでも、俺達の仲間さ」
「…そうね」
私が返事をすると、プロシュートがぎゅ、と私の肩を引き寄せ、私はプロシュートの胸元に頬を寄せる形となった。
「任務後だから、汚いわよ」
「汚くねーよ」
そう言って顎を持ち上げられ、反論は許さないと言うように唇を塞がれる。
そのキス一つで、ゴシゴシと擦っても落ちなかった臭いと不快感は消えてしまう気がした。
「ありがとう」
私がそう言うと、プロシュートは額にもう一つ口付けをした。
「今日はもうさっさと寝ちまいな。そんな格好だと風邪をひくしな」
「えぇ、プロシュートのココアを飲んだら、きっと熟睡できるわ」
私がココアをゆっくり時間をかけて飲む間、プロシュートはずっと隣で手を握っていてくれた。
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