ジョルノ様は神様です! | ナノ



雨と彼女の匂いがした


今日は任務がないオフの日だ。
特にする事も思いつかない僕は、久しぶりにバイトでもしようかと空港に向かって車を走らせていた。
家を出た辺りから降り出した雨を見ながら、これで足止めをくらう人が増えるなと内心ほくそ笑む。
空港に行く前に何人か引っ掛けられそうだ。
1日でどれくらい稼げるだろうかとぼんやり考えていると、雑踏の中に見覚えのある人物を見つけた。
「…何をやっているんですか、あの人は…」
めまぐるしく人が行き交う街中でそいつを見つけた事が何か滑稽でため息が出た。
その人は全身ずぶ濡れで、カフェの前で雨宿りをしているようだった。
「…はぁ」
僕は手頃な脇道に車を停めた。
あいつに関わると毎回ため息をついている気がする。
それでも関わってしまうのは何故なのか、自分でもよくわからない。
車のドアを開け、傘をさしてカフェの前で空を仰ぐ人物に近付く。
「きょうこ」
決して大きな声で呼んだ訳ではないのに、ザーッと雨が地面を打ち付ける音など関係ないかのようにきょうこは俊敏に反応しこちらを振り向いた。
「ジョルノ様!」
きょうこは僕の姿を確認すると、ぱぁっと表情を明るくした。
「どうしてここに?今日はオフの筈では」
「オフの日に何をしようと僕の勝手でしょう…。あなたこそそんな格好で何をしているんですか」
きょうこの隣に並び改めて彼女の格好を見ると、思っていた以上にずぶ濡れで、白いブラウスは透けて下着が薄っすら見えてしまっていた。
彼女はそれを隠すように胸の前で腕を組んでいる。
「任務が終わって帰ろうとしたら突然雨に降られてしまいまして。ブチャラティには連絡してあるので、のんびり雨が止むのを待っていた所です」
「のんびりですか…」
僕は呆れてまたため息をついた。
まだ寒いこの時期に、ずぶ濡れの状態でのんびり待つとはバカとしか言いようがない。
きょうこは何が楽しいのか相変わらずいつもの笑顔でこちらを見ているが、その体は寒さにカタカタと小刻みに震えていた。
僕は少し考え、仕方が無い、と一つの提案をした。
「…ここからなら僕の寮が近いですから、寄って行って下さい」
「えっいいんですか!?」
「あなたが風邪をひいたらチームが困るでしょう」
そう言って彼女に自分が着ていた上着を着せる。
「!」
「車を停めてあるので、そこまで一緒に来て下さい」
そう言って傘を差し出すと、彼女は驚いた顔をした後にいつものだらしない笑顔でありがとうございます!と言った。


「おじゃまします…」
寮の僕の部屋に着くと、彼女は落ち着かない様子でソワソワと辺りを見回した。
ずぶ濡れの彼女にとりあえずバスタオルを渡す。
「とりあえずシャワーを浴びて来て下さい。服は乾かしておきますから」
「そんな、全部自分でやりますから!」
こう言って男に頼るのが下手なのは、日本人の血なんだろうなと思う。
僕はバスタオルを持ってブンブンと手を振るきょうこを見て、可愛げがないなと呆れた。
「黙って言うことを聞きなさい、めんどくさい人ですね」
そう言ってバッ!と彼女のブラウスを捲りあげる。
「んぎゃっ!?」
びっくりしたきょうこは素っ頓狂な声を上げる。
ブラウスと肌の間から、ふわっときょうこの匂いがした。
声とは裏腹に、それは女性らしく甘くさえ感じる匂いで、僕は少し目を細めた。
「…仮にも女性なら、もっと色気のある声は出せないんですか」
「出して欲しいんですか!?」
きょうこは顔を真っ赤にしてブラウスをグイッと元に戻す。
普段のだらしない顔と違い、涙目でこちらを睨むきょうこは新鮮だった。
「本当にジョルノ様は意地悪ですね!」
でもそんなところも好きです!と言い、彼女はバスタオルを握り締めてバスルームに向かい、勢い良くドアを閉めた。
僕は廊下に点々と滴っている水滴を見つめながら、フッ…と小さく笑った。


ベッドに腰掛け本を読んでいると、バスルームの扉がキィ…と控え目に開いた。
隙間から湯気を纏ったきょうこがひょこっと顔を出し、あのー…と困った顔で僕を呼んだ。
「あの…私の服は…」
「あぁ、そうでしたね」
僕は本に栞を挟み、ゆっくりと立ち上がった。
「とりあえずこれを着て下さい」
「えっ、これって…ジョルノ様の…」
彼女はボンッ!と顔から火が出るように顔を赤らめた。
「そんなっ、あのっ、私なんかがジョルノ様の服に袖を通すなんて…!」
「あなたの服は今乾かしている最中なんですから、仕方が無いでしょう」
今のままバスタオルを巻いているのとどちらがマシですか?と言うと、彼女は躊躇しながらもシャツを受け取った。
僕はふぅ、と一息をつき、お茶でも用意するかとキッチンにたった。
「ジョルノ、様」
しばらくすると、きょうこがバスルームから出てきて控え目に僕の名前を呼んだ。
振り向くと、シャツ一枚を着た彼女がもじもじと恥ずかしそうに下を向いて立っていた。
「…中々似合っているんじゃないですか」
意地悪にそう言うと、彼女は袖の余った手で顔を覆い、バカ…と呟くと、へにゃへにゃとその場にうずくまってしまった。
ティーポットを置き、彼女の側まで近付く。
「どうしたんですか」
耳まで真っ赤にして。
「いえ、お気になさらず…」
ズイッと出された右手も、すぐにしよしよと力なく降りて行く。
彼女は何か考えているようで、あぁ、だの、うぅ、だのと言葉にならない言葉を発している。
いつも一方的に翻弄されている此方からすると今の状況は正直言って面白い。
落ち着かない様子でうずくまるきょうこを余裕のある笑みで眺めていると、不意に蚊の鳴くような声でジョルノ様、どうしましょう、と言われた。
「何がです?」
僕がしゃがみ目線を合わせると、真っ赤な顔をしたきょうこが涙目で僕をジッと見つめて
「胸が、いっぱいです」
と呟いた。
「シャツから、部屋から、ジョルノ様の匂いがして、何だかもう、頭が真っ白になってしまいます…」
涙ぐんでそんな事を言う彼女は酷く煽情的で、僕はコクリと唾を飲み込んだ。
「…こちらに来て下さい。髪の毛を乾かしてあげます」
僕は心に湧いた感情を揉み消すように彼女の手を取り、椅子まで誘導した。
後ろに周り、ブオオッとドライヤーで彼女の髪を乾かす。
いつも何かと絡んでくる彼女は終始無言で、僕も特に話しかける事はなかった。
同じシャンプーを使った筈なのに、微かに香る彼女の甘い香りを感じながら、僕は何も考えないよう雨音だけを聞いていた。
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