ジョルノ様は神様です! | ナノ



触れた指先があまりにも冷たかったから


「ジョルノ様、踏んで下さい!」
「お断りします」
アジトに着いた途端、目をハートにした変態に絡まれる。
あのディナーの一件以来、そいつは前にも増して僕の事をキラキラした目で見つめて来るようになった。
それは普段女生徒達から向けられるものとは違っていて、一種の宗教じみたものを感じる。
僕が鞄を置いてソファに座ると、そいつは忠犬のように僕の右斜め後ろにピタッとくっついてきた。
それにももう慣れたもので、僕は見えない振りをしてレストランのメニュー表を手に取った。
「ジョルノ様ぁ、お願いします!あの時のトキメキが忘れられないのです…!」
お願いです虐めて下さい…!と後ろで声がするが、僕はそれを当然のように無視する。
一度でいい事を二度言うつもりはない。
「少し小腹がすいたので、食事をしてもいいですか」
「勝手に頼めばいいんじゃあねーの」
ミスタに言われ、ウエイトレスを呼ぶ。
「サンドイッチを一つお願いします」
かしこまりました、と言ってウエイトレスは静かにキッチンへ向かった。
その後ろ姿を見つめながらポツリと呟く。
「…あなたもあれくらい慎ましやかに、大人しくなれないものですかね」
「…?ジョルノ様はあのウエイトレスさんのような人が好みなんですか?」
あなたが論外なだけです、と言えば、そんな〜と言いつつ、またいつもの締まりのない笑顔を浮かべた。
本当にこいつは何を考えているのかわからない。
扱いに、困ってしまう。
「私はどんなジョルノ様も好きですよ」
「…そうですか」
あんまり幸せそうに言うものだから、ため息が出てしまった。
良くも悪くも真っ直ぐな人だ。
「そうだ、ジョルノ様、数学の宿題はもうしましたか?」
「…いいえ、まだ手をつけていませんね」
「一緒にしませんか?」
そう言ってまた屈託のない笑顔を見せる。
鬱陶しくて仕方が無い筈なのに、何だかどうでもよくなる笑顔。
僕はまた結果として彼女に折れた。
「いいですよ。ついでですし一緒に片付けてしまいましょう」
「!!!いいんですか!?」
彼女は驚いたように目を丸くした。
百面相とはこの事なんだと思った。
「嫌なら別にいいんです」
「いえ!是非!是非一緒に勉強させて下さい!」
そう言って彼女はいそいそと鞄を漁り、ノートと教科書を取り出した。
「私はこの範囲はあまり得意ではないんですよねー」
「…僕を当てにしないで下さいよ」
さっそくノートを広げた彼女は、少しくらいいいじゃないですかとまた笑った。
本当によく笑う人だ。
僕は彼女と肩を並べて、数学の課題にシャーペンを走らせた。
彼女は苦手だと言っていた割にはスラスラと問題を解いていき、その間はいつもの変態発言も出てこなかった。
僕も自分のペースで問題を進めている頃に、ウエイトレスがサンドイッチと紅茶を持ってきた。
「あ、私が入れますね」
こちらが返事をする前に、彼女は紅茶をカップに注いだ。
僕はどうも、と小さく返事をして、ハムとレタスの入ったシンプルなサンドイッチを頬張った。
「美味しいですか?それ、私も好きなんです」
「…ええ、美味しいですね」
また彼女は笑い、ノートに向き合った。
カリカリと順調に問題を解いて行く彼女を見て、不思議な気持ちになる。
どちらかと言えば嫌いだった、僕に近づいて来る沢山の女と同じだと思った。
しかしそれとは全く違っていて、扱いに困るほどの変人。
何とも言えない気持ちに悶々としていると、彼女が不意にこちらを見てあ!と言った。
「どうしました?」
「ジョルノ様、頬にパン屑がついていますよ」
そう言ってごく自然に、僕の頬についたパン屑をとって、それを皿に置いた。
「結構子供っぽい所もあるんですね」
そう言って彼女は優しく微笑んだ。
僕は腹が立つような、むず痒いような気持ちになり、苦し紛れに彼女の頬をつねった。
「ふえあっ!?ジョルノ様、どうしたのですかっ」
「…ご褒美です」
そのままぐいいいと頬を伸ばす
「いたたたた」
「こう言うのが好きなんでしょう。ほらもっと喜んで下さい」
「あっありがとうございますぅ…!」
そう言って彼女はぎこちなく笑った。
しばらくグイグイと餅のような頬を引っ張り、彼女を掴む手を離す。
そしてそっと先程彼女が触れた頬に手をやる。
少しだけ、ドキッとした。
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