繋いだ手
例の"ミーティングと親睦を兼ねた食事"は、組織御用達のリストランテで執り行われた。
ここならば、この訳ありの大所帯がいても、問題はないようだ。
僕はテーブルに置かれたピッツァを頬張りながら、皆がいるテーブルを見回す。
この間はあんなに険悪な雰囲気だったが、今はそんな雰囲気は微塵も感じない。
最近の音楽について話すナランチャとホルマジオや、車やバイクの話をするミスタとギアッチョ。
その中でも群を抜いて意気投合しているのが、僕の隣に座るきょうことメローネだ。
どうやら元からの知り合いのようだが、如何せんこの男はスキンシップが過激だ。
先程からきょうこの肩や腰を事ある毎に触っているし、きょうこはきょうこで太ももに手を添えたりと、距離感が恋人のそれだった。
「…」
僕はグイッと自分で注いだワインを一気に飲み干す。
面白くない…。
そんな感情が顔に出ていたのだろうか、僕の前に座っていたプロシュートが、ククッと喉を鳴らして笑った。
「…何です?」
「いいや、すまない。若いってのはいいもんだな」
そう言って空になった僕のグラスにワインをトポトポと注ぐ。
どうも…、と言い、僕はまたそのワインに口をつける。
自分でも何て子供じみた感情なのだと呆れているところだ。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、どんどんきょうことメローネの距離は近付いていく。
「俺、あの映画女優に街で偶然会ったことがあるんだぜ」
「うそ!あんなに、パパラッチを撒いてるって噂なのに」
「しかも写真まで撮ってもらったんだ」
「わー!実物は映画よりもっと素敵なのね!」
メローネが写真を取り出すと、きょうこはメローネに身体を預けてそれを覗き込む。
ああ、何て面白くない!!!
そこでまたワインをあおる。こんなにワインを飲むのはいつかの飲み会以来だろうか。
あの頃はきょうこの事を飼い犬だなんて思っていたが、今思うと何てこと無い、ただの独占欲だ。
「…」
僕は、持っていたグラスをおもむろに机に置いた。
「それなら私は大通りの交差点で、…!」
「ん、きょうこ?どうかした?」
「ううん!ちゃんと椅子に座り直そうかな〜て、思っただけ、」
無防備だったきょうこの片手を、テーブルの下できゅっと握る。
きょうこの手はしっとりと汗ばんでいて、そこから動揺が感じ取れた。
「ちぇ〜、離れちゃうのか」
そう言うとメローネもワインをグイッと飲みこむ。
「まあいいや、きょうこ、君の事もっと教えてよ」
「う、うん」
その後もきょうことメローネの仲の睦まじさは変わらなかったが、こっそりと繋いだ手は、ずっと離さずにいた。