泣いちゃいますよ
今日は朝から調子が悪かった。
寝起きは最悪だし、朝食は喉を通らない。
熱はなかったので学校には来てみたが、授業も全く頭に入らないまま放課後を迎えてしまった。
こんな事なら早退でもしておくんだった…。
「きょうこ大丈夫…?1回保健室行く?」
机に項垂れる私に、友人たちが心配そうに声をかけてくれる。
「ううん…あとは帰るだけだし、大丈夫。ありがとう」
そう言って私が手を振ると、友人達はこちらを気にしながらも、またね、と教室を出て行った。
「ふう…」
私は机に突っ伏したまま息を吐く。
額に手を当ててみると、明らかに通常よりも熱かった。
これは今日任務に行くのは難しいかもしれないな…。
そう思い、携帯を取り出しブチャラティに連絡を取ろうとした時、ふいに教室の扉がガラガラッと開いた。
「まだ教室にいたんですか」
そこには扉に手を当て立っているジョルノ様がいた。
「ジョルノ様!?どうしてここ、に…っ」
驚いて咄嗟に立ち上がると、くらっと目眩が私を襲った。
「!?」
ジョルノ様が駆けつけてくれるが、それより早く、私はガシャーン!と机をなぎ倒し床に倒れてしまった。
「きょうこ!」
ジョルノ様に上半身を起こされ、私はぐるぐると視界が回る中必死似意識を保とうとする。
しかしそんな些細な抵抗も虚しく、私は意識がなくなる寸前に、心配そうなジョルノ様の顔を見た気がした。
「ん………」
熱に浮かされた感覚の中、私は目を覚ます。
頭がうまく働かないまま、ぼんやりしていると、そこには見たこともない天井が広がっていた。
暫くそのままぼーとしていると、枕元のテーブルに何かが置かれた音がした。
「起きたんですね」
その声に視線をゆっくりそちらに向けると、少し心配そうなジョルノ様がベッドのすぐ側に立っていた。
「ジョルノ様…?ここ、は、」
私が上半身を起こそうとすると、またしても目眩で体がぐらっと揺れた。
それをジョルノ様がさっと支えてくれる。
「酷い熱なんですから、安易に動かないで下さい」
そしてゆっくり私を再度ベッドに寝かせる。
「質問の答えですが、ここは僕の部屋です。あなたの家までは遠かったので、勝手ですが連れて来ました」
布団をぽんぽんと二回叩かれ、額に冷たいタオルを乗せられる。
まるでマンマだ。
しかしそうか、ここはジョルノ様の部屋なのか。
「ジョルノ様、ダメですよこんな…まるで私だけ特別みたいな…、また沢山の女の子に嫉妬されちゃいます」
私が眉を下げて笑うと、ジョルノ様も少し困ったような顔をした。
「…特別ですよ」
私がえっ、と声を上げると、ジョルノ様は私から目線をそらして、髪の毛をかきあげた。
「チーム、なんですから。他に比べて特別に決まっているでしょう」
言いながら椅子に座ると、少しずれたタオルを直してくれる。
「ブチャラティには連絡をしておきました。僕がついているので、今日はゆっくり休んで下さい」
一人の家は心細いでしょう、と言いながら、一定のリズムで布団をポンポンと叩いてくれる。
「ん…」
一人には慣れている。だから誰にも家に送って欲しいと言い出さなかったのだし、それが当然だと思っていた。
しかし今こうしてベッドの横にはジョルノ様がいて、私は初めて風邪で心細いと言う感情を知った。そしてその感情が満たされていくのも。
「ジョルノ様」
「はい」
「ありがとう、ございます」
「…」
ジョルノ様が、手をぎゅっと握ってくれる。何て幸せなんだろう。
「早く風邪、治したいです」
「…僕に、うつしますか?」
何でもないように、唐突にジョルノ様はそんな事を言う。
私は目を閉じてくすりと笑った。
「…からかってるんですか」
泣いちゃいますよ、と言うと、私は意識が遠くなっていくのを感じた。
ジョルノ様の手が再度ぎゅっと握られる感触。
そしてその後に唇に何かが押し当てられる感覚を遠くに感じながら、私は意識を手放した。